星の下 空の下 7
「はあ、びっくりした」
家に帰り着いたイルカは家に入るなり、ドアを背にして玄関に座り込んでしまった。
どきどきする胸を押さえている。
「まさか・・・」
かああっと顔が赤くなっていく。
「まさか、まさか、あんな展開になるなんて」
乙女ではないが、きゃーと言いたくなってしまう。
「まさか、カカシ先生が俺のこと」
赤くなった顔を手で押さえた。
「俺のことを・・・」
その先を言えないのがイルカらしい。
言えない代わりに言ったカカシを思い出して、身悶えしている。
「わーっ!」
誰もいないのに、イルカ一人だけなのに思い出して大声を出してしまった。
「告白なんて初めてだ」
イルカは自分の頬を抓ってみる。
ぎゅっ。
ぎゅうううう。
「痛い、夢じゃないんだ」
念のため、もう片方の頬も抓ってみた。
「いたっ、これは現実なんだ」
そっか。
座り込んだイルカは膝を抱える。
「これは嘘でも夢じゃなくて、まごうことなき現実で」
カカシの顔が浮かんできた。
抱えた膝を引き寄せ、膝小僧に抓って赤くなった頬を乗せる。
「俺を好きになってくれた人がいるんだ」
その事実はイルカの胸の奥深くに浸透していく。
「嬉しいなあ」
そう言ったイルカの顔は幸せそうに見えた。
「うーん」
同じく、家に帰ったカカシは唸っていた。
家に帰って顔を洗って鏡を見る。
そこに映る自分の顔。
額宛も覆面もない素顔の自分。
何を思ったのか、右手の人差し指と親指を開いて顎の下に持ってくる。
ポーズをつけたカカシが鏡の向こうにいた。
「・・・俺って、格好いいよな?」
鏡の自分に自問自答。
「今まで、あんまり気にしたことなかったけど」
好きな人の前では格好よくいたい。
そんな欲求がカカシの中に芽生えていた。
「他はどうでもいいけど、イルカ先生には格好よく思われたいんだよねえ」
こんな気持ち、初めてかもしれない。
「それに」
告白したときのイルカの顔を思い出していた。
「あのときのイルカ先生、すっごく・・・」
カカシの好みであった。
はっきり言えば、直球ど真ん中。
同じ男性なのは頭では解っていても、好きになるとあんなに可愛く見えるのか。
思わず、キスしそうになって必死に踏み止まった。
なんたって、とっておきだから。
「恋って不思議」
いや、愛か。
最初はイルカのことが気になるだけだったのに、距離を詰めて近づいて、言葉を交わして。
そうするうちにイルカに惹かれていく自分を止められなくなった。
一緒にいて心地よく、癒される。
それだけではない。
イルカとは相性がいい。
お互い、ないものを埋めあっているような、反発する要素がない。
とにかく、理屈じゃない。
気がついたときにはイルカの虜になっていたと言っても過言ではない。
好きになっていたのだ。
「そうそう、好きになったら、しょうがないじゃない」
カカシは自分の気持ちに素直だ。
逆らわない、前進あるのみで。
「明後日はイルカ先生とデートだ!」
ちゃんと約束を取り付けてきた。
時間も場所も言ってある。
「デートには何を着ていこうかな〜」
忍服じゃなくて、私服でデート。
カカシは、うきうきしながら洋服タンスに向かった。
そして、一日空けて、待ちに待った誕生日当日。
カカシが何歳になったのか、それは本人しか知らない。
イルカは約束通り、待ち合わせ場所に現れた。
カカシのリクエスト通り、髪を下ろして。
服装はイルカも私服だ。
カカシの目には、とても新鮮に映った。
忍服のイルカ先生もいいけど、私服のイルカ先生も萌える・・・。
「あ、カカシ先生」
先に待ち合わせ場所に来ていたカカシにイルカは小走りで近づいてくる。
「すみません、待ちましたか?」
「いいえ、ちっとも」
見詰め合って微笑みあう。
「さ、行きましょうか」
一応、カカシは、ばっちりデートのプランを考えてきていた。
しかし、イルカは不安そうな顔で訊いてきた。
「あのう、カカシ先生」
「はい」
「デートって何をするんですか?」
不思議そうにしている。
「まあ、今に解りますよ」
そう言ってカカシは手を出した。
指を絡めて恋人繋ぎ。
「やっぱりするんですか?」
「やっぱりするんです」
そっとイルカの手が伸びてきて、カカシの手に重なった。
「今日は楽しかったですね!」
イルカは、にこにこ笑っている。
夕方、カカシはイルカの家に来ていた。
「こんなに買ってもらっちゃって・・・。今日はカカシさんの誕生日なのに」
「いいんですよ、お気になさらず」
デートして、行く先々でカカシは買い物をしていた。
お酒や酒の肴もだが、イルカの物が一番多かった。
なんだかイルカが可愛くて、あれもこれも買って与えたくなってしまうのだ。
・・・なんか、あれだ。
ひっそりと自覚する。
・・・これって、恋人に溺愛状態ってやつ?
自覚しても反省はしない。
俺って恋人を可愛がりまくるタイプだったんだなあ。
今更ながらに思った。
「待っててくださいね」
イルカが今日、カカシが買ったエプロンをつける。
紺色のシンプルなエプロンだ。
もちろん、カカが推した定番の白いエプロンも買ってある。
それは、そのうち使ってくれればいい。
「すぐに夕飯の準備しますねー」
イルカは台所に消えた。
「昨日、食材を買ってきておいたんです。カカシさん、普通のって言っていたから」
本当に普通ですよーと。
ちなみに『カカシさん』とはデートをしている最中に呼び方を変えてもらった。
「カカシって、名前で呼んでください」
手を握って、そう言うとイルカは、こくりと頷いてくれた。
カカシは、まだ『イルカ先生』だけれども。
・・・『イルカ先生』も捨て難いが、いずれは『イルカ』って呼びたいなあ。
小さな野望を胸に秘めていた。
初めてのデートで、いきなり『イルカ』は無理があるだろうし。
ま、そのうちね。
「簡単だけど、出来ましたよ〜」
少ししてからイルカが、エプロンの裾をひらひらさせながら料理を運んできた。
「口に合えばいいんですけど」
テーブルには所狭しと、心づくしの料理が並ぶ。
「あ、これ・・・」
「これですか?これ、茄子のお味噌汁ですよ、それに秋刀魚の塩焼き」
カカシが指差したものをイルカは説明した。
「凝った料理じゃなくてすみません」
「そうじゃなくて」
ぶんぶんとカカシは首を振る。
「これ、俺の大好物なんですよ」
「え?」
「茄子の味噌汁に秋刀魚の塩焼き」
びっくりしているイルカ。
カカシも、びっくりしている。
「俺の好物、知っていたんですか?」
「いえ」
今度はイルカが首を振った。
「なんとなく、これがいいかな〜って思ったんですよね」
特に理由はないらしい。
「今の時期、茄子も秋刀魚も美味しいですし」
「そうですか」
偶然とはいえ、感慨深い。
それからカカシが買った酒をグラスに注いだ。
かちん。
グラスを合わせる。
「カカシさん」
イルカが言った。
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、イルカ先生」
誕生日を祝ってくれる人がいる。
それもカカシの好きな人。
生まれてきてよかった。
カカシは心底、思ったのだった。
星の下 空の下6
星の下 空の下8
text top
top