星の下 空の下 6
「えーと、まずはですね」
カカシが指折り数えて、誕生日のシチュエーションを言い出した。
「やっぱり、外せないのは指を絡めて恋人繋ぎ!」
人差し指を折った。
「あとは〜」
カカシの顔が嬉しそうに頬を緩める。
「デート!あ、これはラブラブで、それでいてしっとり、なのに艶やかに」
・・・それって、どんなデート?
デートといえる経験がないイルカにとって、未知の世界だ。
「それと」
ちら、とカカシがイルカに視線を寄越す。
その視線は結っている髪に注がれていた。
「その髪を解いて下ろしてほしいです。髪を下ろしたイルカ先生は、色っぽいんだろうなあ」
そんなことはない!
イルカは心の中で強く否定した。
だいたい、男が色っぽいなんてイルカの中では想像できない。
色っぽい男は、総じて見目麗しき男性だけだと断言できる。
例えば、カカシのような。
「で、最後になりますが」
言うたびに、カカシの顔はにやけていく。
「やっぱり、キスして、ぎゅーっと抱きしめてですよねえ」
カカシの誕生日に希望する壮大なシチュエーションが語られた。
「誕生日は、こうでなくっちゃ!」
こうでなくっちゃって・・・。
隣で聞いていたイルカは頭を抱えたくなった。
全部、難しい!
イルカの力では実現不可能だ。
余程、渋い顔をしていたんだろう。
察したカカシが助け舟を出した。
「あ、もちろん、俺も協力は惜しみません」
そうじゃなくて・・・。
それ以前に問題が、たくさんあった。
「あの」
イルカは思い切って言ってみた。
「お聞きしたいんですが」
「はい、何でしょう?」
「今、カカシ先生が仰ったことって俺に求めていることですよね?」
確認する。
「そうですよ、イルカ先生だけにです」
「で、ですよね〜」
自分に対してで、間違ってはいなかった。
「しかし、あのですね」
内心、冷や汗をかいているイルカだ。
「カカシ先生の誕生日を祝ってほしい相手って・・・」
「恋人ですよ」
何気なしに言った言葉にイルカは焦る。
「そ、そうですけど」
言いたいのは、カカシと自分との関係。
なんと言うか、知り合いから友人くらいではないのだろうか?
カカシは友達だと、さっき言っていたし。
「カカシ先生と俺って・・・」
「今は、まだ友達ですよ、確かに」
「はあ」
「でもですね」
きりっとした顔でカカシは、ぐっとイルカの方に身を乗り出してきた。
「イルカ先生に俺、訊きましたよね?俺のこと、嫌いですかって」
そういえば、そんなことも言っていた。
「そのとき、イルカ先生は俺のこと嫌いって言いませんでしたよね?」
そうですよね?とカカシに畳み掛けられるように言われて、イルカは頷く。
「はい・・・」
「つまり」
つ、とカカシは人差し指をイルカの鼻先に突きつけた。
「嫌いじゃないということです」
つん、と鼻先を突付かれる。
「嫌いじゃないということは・・・。嫌いの反対は何でしょう?」
にこ、と笑ったカカシはイルカにクイズを出すようにして聞く。
「えっと、好き?」
それしかない。
「でしょう?」
カカシは満足そうに目を細めた。
「つまり、イルカ先生は俺のことが好きなんです」
「俺がカカシ先生を好き・・・」
そう・・・なのだろうか?
「好きにまで到達していなくても、現在進行形で好きになりつつあるのは間違いないです」
すぱーっと言い切ったカカシは自信満々だった。
そこまで、言われてはイルカは自分の見解に自信が喪失する。
俺ってカカシ先生のことが好き?
・・・・・・好きなのか?
・・・・・・・・・好きなのだろうか?
もしかして、好きなのかもしれない。
自分でも知らず知らずのうちにカカシのことを好きになっていたのかも。
「イルカ先生は、俺のことが好きなんですよ」
恋愛相手として。
そう言われると、そんな気もしてくる。
「俺のことが好きでしょう?」
「そ、れは・・・」
嫌いとは言えなくて、かといって好きとは言えなくもない。
それにカカシに何回も、好きを連呼されると・・・。
自分はカカシが好きなのだと思えてきた。
「まあ、それはそれとして」
一先ず、難しい問題は先送りにすることにした。
プレゼントは・・・。
触れない方がいいかもしれない。
後で考えよう。
これも先送りにした。
「誕生日は俺の家でというのはいいんですが」
問題なのは誕生日が、いつなのか?ということだ。
今日だったら、どうしよう。
「あー、それはですね」
ちょっと照れくさくなったのか、カカシが頭をがしがしと掻く。
「散々、焦らしてしまいましたが」
やはりカカシは、イルカがカカシの誕生日を知りたい、ということを知っていたらしい。
「いつなんですか?」
「実は・・・」
聞いたイルカは驚いた顔になる。
「明後日じゃないですか!」
「そうなんです」
「明後日というと、九月十五日!」
「そうです」
「へー」
やっと聞けたカカシの誕生日にイルカは素直な感想を述べた。
「九月の真ん中に生まれたんですねえ、何か縁起がいいですね」
妙に感心している。
「俺は五月の二十六日なんですよね」
自分の誕生日を言っちゃったりもしている。
「イルカ先生の誕生日は五月なんですね」
きらり。
カカシの目が光ったのは気の所為か。
「じゃあ、カカシ先生の誕生日は休日に当たりますから」
素早く頭の中でスケジュールを考える。
「昼か、夜は俺の家で食べるとして」
「夜はイルカ先生の家でご飯が食べたいです。あ、それと日中は待ち合わせて、デートがいいです。しっとり艶やかは俺に任せてください!」
カカシの方がスケジュールを立てるのが早かった。
「デートのときはイルカ先生、髪を下ろしてきてくださいね、絶対!」
張り切っている。
「それで、デートのときは恋人繋ぎでお願いします」
イルカはカカシに圧倒されていた。
このままで大丈夫なのだろうか?と我が身が心配になってくる。
「キスして、ぎゅっと抱きしめては、とっておきでいいです」
とっておき?
カカシは何やら興奮気味でイルカが口を挟める隙がない。
漸く、言えたのは・・・。
「誕生日は何が食べたいですか?」ということ。
カカシは、あっさりしていた。
「あ、何でもいいです」
普通でいいです、俺も差し入れしますし、酒も用意しますね、と。
「そうですか」
また、とんでもないことを言われるかと思っていたイルカは、ほっとする。
「イルカ先生に『おめでとう』って祝ってもらえるだけで俺は嬉しいんですから」
カカシはイルカを見つめる。
「・・・そうですか」
カカシに見つめられると急に、どきどきしてきた。
高鳴る胸の鼓動。
ぽっと胸があったかくなる、この気持ち。
これは恋かもしれない。
カカシが好きなのかもしれない。
自分で考えたことにイルカが仄かに頬を染めていると。
すっとイルカの両頬にカカシの手が添えられた。
優しく、包み込むように。
「言うのが遅くなりましたが」
カカシの声が静まり返った川縁に響く。
「イルカ先生が好きです」
好きです・・・。
その言葉の意味を理解したとき、イルカの頬は仄かではなく、はっきりと赤くなっていた。
人生初の告白をされて。
ああ、これが、とイルカは実感した。
これが好きっていうことか。
好きだという気持ちなのか、と。
カカシとイルカが同性同士だとか、そんなことは空の彼方に吹っ飛んでいた。
好きになったら、男も女も関係ないんだ。
重要なのは相手が好きだということで。
さっきまで、あやふやだった気持ちが、しっかりと形になった。
イルカはカカシのことが好きなのだと今は、はっきりと解ったのだった。
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