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星の下 空の下 8



よかった・・・。
イルカは、ほっとした。
いいタイミングで「誕生日おめでとう」は言えたし。
作った料理は簡単ではあったが、概ね、カカシに好評だったようだ。
しかも何気なく作った料理がカカシの好物だったとは、偶然だとはいえ、イルカは嬉しかった。
ぱくぱくとカカシは口に運んで、咀嚼している。
テーブルの上の料理は瞬く間になくなっていく。
それに、とイルカはテーブルに上に乗っている、大皿に盛った、もう一つの料理を見る。
・・・こっちも好物なのかな?
カカシは何も言わずに、黙って食べているが。
黙々と箸を動かしている。
・・・余り、失敗しないかなと思って作ったんだけど。
どうなのかな?
カカシの感想が知りたくて、イルカがカカシを見ると。
イルカの視線の意味を悟ったのか、カカシが、にっこりと笑う。
「とても、美味しいですよ」
「そうですか」
また、ほっとする。
ほっとして、グラスの酒を口に運んだ、そのとき。
カカシが、とんでもないことを言った。
「これ、苦手だったんですけどイルカ先生が作ってくれたら食べれました」
「えっ!」
思わず、酒の入ったグラスを落としそうになる。
「カカシさん、これ、苦手だったんですか?」
「そうなんです」
言いながらもカカシは、苦手なそれを食べていた。
「最後に食べたのは、いつだったかな?もう十年以上、口にしていなかったんですが」
さくさくとカカシの口の中で音を立てる、それは天ぷらだった。
「苦手なものでも、好きな人が作ってくれると食べれるなんて」
恋って不思議ですねえ、と暢気に話していた。



「な、なんで?苦手なら苦手と言ってくれれば・・・」
カカシの発言にショックを受けているイルカに、カカシは「まあまあ」とイルカの肩を叩く。
「確かに苦手でしたけどね、何かイルカ先生が作ってくれたと思ったら食べれちゃったんですよ」
「でも」
「ずっと食べていなくて、どんな味か忘れていましたけど、こんなに美味しかったんだ〜って」
魅力的な顔でカカシは微笑む。
「イルカ先生が俺の為にと作ってくれた所為ですかね」
天ぷらの味っていうよりもイルカ先生の味かな〜と、カカシはおどけている。
イルカの気持ちが和らいだ。
「だったら、いいんですけど。苦手なら無理しないで、食べなくてもいいですから」
イルカにだって苦手なものはあるし、それを食べるように言われたら食べれるか解らない。
なのに、カカシは食べてくれた。
箸を置いたカカシが、テーブルの上に置かれていたイルカの手に自分の手を重ねる。
「これから」
もう片方の手がイルカの頬に添えられる。
「これから、お互いのことを知っていけばいいじゃないですか。好きなものも苦手なものも、色んなことを、たくさん」
「そう・・・、そうですね」
「うん」
カカシに言われてイルカは安心する。
これから、お互いのことを知っていけばいい。
「これから、よろしくお願いしますね」
そんな言葉がイルカの口から出た。
「こちらこそ」
そう言った後、カカシは顔を顰めた。
「もったいない」
「え、何がです?」
「この流れでいくと、ここでキスしてもいいのに」
ちょっと悔しそうだ。
「天ぷらの油が気になって、キスできません」
思わず笑ったイルカは、カカシと見つめ合い。
引き寄せられるように、二人の顔がゆっくりと近づく。
唇が重なり、カカシとイルカはキスをした。
キスの味が、どんな味だったのかは二人しか知らない。



唇を離すと、さっとイルカが顔を背けた。
顔が赤くなっていることは自分でも解っていたから、見られたくなかったのだ。
幸いなことに今日に限って下ろしていた髪がイルカの顔を覆い隠す。
「イルカ先生〜」
カカシが自分を呼ぶ声が、妙に甘ったるく感じるのはキスをしたからだろうか・・・。
「イルカ先生、こっちを向いてくださいよ」
やっと念願叶ってキスできたのに。
せっかくキスしたのに。
初めてキスしたのに。
キスを連呼するカカシ。
「それ以上、言わないでください」
真っ赤になった顔でカカシの口を手で押さえる。
照れる単語を言わせないように。
ただでさえ、恋愛に関して免疫がないのに。
キスやら何やら言われたら、居た堪れない。
「言うの禁止です!」
そんなイルカを見てカカシは、にや〜っと笑った。
にや〜っと。
「わっ!」
カカシの口を押さえていた手の平に変な感触がする。
慌てて手を離した。
「な、何をしたんですか!」
「何って」
カカシは、しれっとして言った。
「イルカ先生の手を舐めてみました」
誘惑に勝てなくて。
「誘惑・・・」
誘惑って何だろう?
心臓がどきどきしている。
そして、部屋の中がおかしな空気になっている。
な、なんだろう、これ。
嘗て体験したことのない空気。
甘ったるさに妖しさも加わって、空気が濃密になってきて息苦しい。
「あの、カカシさん」
「何ですか、イルカ先生」
カカシに話しかけると、すぐ間近で返事が聞こえてびっくりする。
こんなに近くカカシはいたのか・・・。
顔と顔がぶつかりそうなほどに。
「え、えーとデザート食べますか?」
確か、今日のデートで買ってきた甘さ控えめの水菓子があるはず。
カカシが甘いものが苦手というのは覚えていたのでケーキを買うことはしなかった。
本当は、ケーキに年の数だけ立てた蝋燭の火を消してほしかったのだが。
「デザート食べていいんですか!」
「え、はい」
カカシの目が輝いていた、何かを期待しているように。
「いいですよ、冷蔵庫から持ってきますね」
その前にテーブルの上を片付けて、とイルカが言うと、カカシの肩ががくーっと落ちた。
「そうですよね、そうですよね、そういう展開ですよね、まだ期待する段階じゃないですよね」
やっぱりカカシは何かを期待していたが、何を期待していたのかイルカは知る由もない。
純粋にカカシはデザートを食べたいと思っているとしか、思ってない。



「ご馳走様でした」
デザートを食べ終わったカカシが手を合わせた。
「すっごく美味しかったです、何もかも」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「今度は俺がイルカ先生の誕生日をお祝いしますね!」
カカシは今から張り切っている。
「イルカ先生、びっくり仰天するようなお祝いをしてみせますから」
「あの、程ほどでいいですから」
本当に程ほどでいい。
「あ、そうだ・・・」
イルカは、はっと何かを思い出して顰め面をした。
「カカシさんの誕生日のプレゼントを今日、選んでもらおうと思っていたのに」
忘れてしまっていた。
「デートが、とても楽しくて、その」
罰が悪そうにカカシを見ている。
「プレゼントなくて、すみません」
「プレゼントなんて」
言ってカカシはイルカを胸の中に引き寄せた。
「もう、貰っているので心配しないでください。充分にいただきましたから」
とっても幸せとカカシは言う。
「今年の誕生日はイルカ先生に祝ってもらえて、そして」
恋人も出来た。
まさしくカカシにとって、プレゼントはイルカだった。
胸の中のイルカを、ぎゅーっと抱きしめる。
「イルカ先生、大好き」
「・・・俺もカカシさんが好きです」
小さな声が胸の中から聞こえてくる。
その声に自然とカカシの顔に笑みが浮かんだ。
「ああ、幸せ〜」
胸の中のイルカが顔を上げた。
カカシの目には自分の胸の中にいる、イルカがとても愛しく映る。
何回でもキスしたい。
自分の望みに逆らわず、イルカにキスをした。
キスして、抱きしめて。
そうして、カカシの誕生日は過ぎていったのだった。



後日。
付き合うようになって、まだ日が浅いカカシとイルカ。
初々しさが漂っている。
人がいない場所では指を絡めて恋人繋ぎを普通にしていた。
人がいる前ではしないものだと、最近、イルカが気がついてしまったから。
デートの日は、ついうっかりとしてしまったが。
そして、ついうっかりと多くの人に目撃されてしまっていたが。
「・・・・・・みんなに見られたら恥ずかしいじゃないですか」
イルカの抗議にカカシはどこ吹く風だ。
「いいじゃないですか。仲良きことは美しきかなで、皆に見せ付けてやりましょうよ」
「そんなの嫌です」
「もう、イルカ先生ってば照れ屋さんなんだから」
つん、とカカシに頬を突付かれてイルカは逃げる。
しかし、手を繋いでいるからカカシから逃げること不可能だ。
「逃がしませんよ、一生、絶対に」
「それはいいんですけど」
ふうと息を吐いたイルカは言った。
「俺はカカシさんがいい人で素直で純粋で、と思っていたんですが」
「いい人で素直で純粋でしょ?」
「それだけじゃない、じゃないですか」
カカシと付き合ってみて、様々なことが解ってきた。
カカシの性格。
見た目より独り占めしたがりで、甘えさせたがりで、イルカのことを猫可愛がりし過ぎる傾向にある。
それにイルカの近しい友人やらに、やたら敵対心を燃やしているのには驚いた。
「イルカ先生に近づくものには容赦しません」
よく解らないカカシの言い分だ。
いつの間にか、呼び名も変わってきていた。
『イルカ先生』の中に、さり気なく『イルカ』が混じってきている。
特にキスするときは『イルカ』と呼ばれることが多い。
なので『イルカ』と呼ばれるときには身構えて、照れまくってしまう。
「イルカ先生と一緒なら」
繋いでいる手にカカシが力を入れる。
「星の下で愛を誓い、空の下で誓いのキスを出来ますよ〜」
嘘か真か、冗談か本気か。
カカシなら実行しかねない。
「イルカ先生、大好きです」
囁かれるとイルカは、めろめろだ。
「俺だって好きです」
むきになって言い返すとカカシは笑う。
その目はとても優しくて。
嬉しそうに幸せそうに。
来年も、とイルカは胸の奥で密かに思う。
来年もカカシさんに誕生日おめでとうを言おうと。



終わり



星の下 空の下7




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