星の下 空の下 2
「今夜、夕飯でも一緒にってのはどうです?」
「夕飯?」
「そ」
それってカカシ先生と二人きりで・・・だろうな。
親交を深めるのなら、そう方がいいんだけど。
イルカは心配になってくる。
カカシ先生と二人きりになって、何を話したらいいんだろ?」
割と切実な悩みだ。
「あ、それか」
楽しそうに見えるカカシが別の提案もしてきた。
「今日、俺の家に来ません?」
ハードルが上がっていた。
「家って、カカシ先生の家ですよね?」
恐々聞くとカカシが大きく頷く。
「もちろん」
「それは・・・」
カカシの家。
いきなり、知らない人の家に行くようなもので。
イルカは大いに躊躇ってしまう。
行くのはいいけど、帰るタイミングはどうしたら?
そんなことまで心配になってきた。
「ね、イルカ先生。いいじゃないですか」
相変わらず、カカシは人のいい無邪気な笑みを浮かべてイルカを誘ってくる。
ここで、俺が断ったら俺が悪者みたいだよなあ。
人の好意を無碍にはできないイルカだ。
迷っていると受付所の受付係りをしているイルカの前に列ができてしまっていた。
混雑する時間帯になってきている。
「分かりました」
とりあえず、急いで返事をした。
目の前の仕事を優先すつことにして。
「よかった〜」
ほっとしたようなカカシの顔。
「じゃ、仕事が終わる頃に迎えに来ますから」
そう言い残すと、ひらひらと手を振りながら受付所を出て行ってしまった。
湯班を一緒に食べるのか、カカシの家に行くのか、何をどうするのか。
総てがうやむやのままで。
「あ、終わりだ」
混雑した受付所で仕事をして、一時間を過ぎた頃。
時計を見てイルカは呟いた。
そろそろ、交代の時間だ。
「そういや」
カカシのことを思い出した。
「カカシ先生って仕事が終わる頃、迎えに来るって言っていたけど」
俺の仕事が終わる時間、知っているのか?
教えた覚えはない。
交代要員が来て、簡単に引継ぎをする。
だけどカカシは現れない。
「待ちくたびれて、帰っちゃったかな・・・」
待たせたのは申し訳ないが、カカシと親交を深めるには日を改めた方がいいかもしれない。
「心の準備ってがあるもんな」
少し気持ちが楽になったイルカは受付所を出る。
出たところで、小さく叫んでしまった。
「うわっ!カ、カカシ先生・・・」
突如、廊下の暗闇からカカシが姿を現したのだ。
節電のために不要な場所は極力、点灯させていない。
「イルカ先生、お疲れさま〜」
「お、お疲れさまです」
どきどきする心臓を服の上から押さえる。
「び、びっくりするじゃないですか。いきなり、出てくるなんて」
少しばかり恨みがましいことを言えば、カカシは面白そうにイルカを見つめた。
「こんなことで驚いちゃうんですか?イルカ先生って怖がりなんですねえ」
「いいじゃないですか、怖がりでも」
思わず、ムキになって言い返すとカカシが、からかってくる。
「あれ、図星?へえ、意外〜」
今更、否定しても遅いがイルカは「違います」と言っておいた。
それと共に少しばかりカカシを見る目が変わる。
カカシ先生って、こんな人だったんだ・・・。
物静かで、クールで、大人な感じの人だと思っていた。
結構、人懐こいんだな〜。
それに気さくだし。
案外、話しやすい人かもと、ちょっと安心したのだった。
「あ、これ、美味しいですね!」
カカシに連れていかれた店でイルカは目を輝かせていた。
ぱく。
料理を口に入れて、満面の笑みだ。
「すっごく美味しい〜」
蕩けるような顔になっている。
「喜んでもらえて良かったです」
カカシも満足そうだ。
二人はテーブルを挟んで座り、テーブルには料理が何品か並んでいた。
つまり、現状は二人で夕飯を食べている形になっている。
・・・ここで、夕飯を食べているってことは。
イルカは食べながら、カカシをチラ見する。
・・・カカシ先生の家に行くのはなしだな。
夕飯を食べてしまえば、後は家に帰るだけだろう。
それに、とイルカは不思議に思う。
カカシは料理を食べているのだが、顔の覆面をしたままだ。
口元も隠されてる。
あんなんで、どうやって食べるんだろうか。
とっても不思議だ。
術か何かを使っているかなあ。
密かに、そんな術があるなら習得したいとか思ってしまうのは教師の性か。
生徒の前で披露したら、ウケるだろうなあ。
「イルカ先生、何を考えているの?」
何を感じ取ったのか、カカシが聞いてきた。
まさか、覆面をしながら食べる術についてなんて言えない。
「あ、ははは〜。この料理、美味しいなあって」
実際、本当にどの料理も美味しかった。
「カカシ先生って、いいお店をご存知なんですね」
「そう?」
カカシが嬉しそうに微笑んだ。
店は洒落た居酒屋風で、普段のイルカなら来ないような店だ。
どちらかというと夕飯なら、お手軽なラーメンを食べに行ったりしてしまう。
「イルカ先生と食べるなら、どこがいいかなって紅とかに聞き込みしてきたんですよ〜」
事前を調査をしてらしい。
「そうだったんですか」
俺のために・・・。
ちょっとしたことだけど、相手を思うなら、それも大切。
そう考えているイルカは、じーんときてしまう。
カカシ先生って、良い人なんだと。
良い人認定をしてしまった。
割り勘して店を出ると、すっかり暗くなっていた。
空には星が瞬いている。
「じゃ、これで・・・」
「じゃあ、俺の家に行きましょうか」
「・・・え」
「約束したでしょ」
「そう、でしたっけ」
「うん、そう」
カカシは自信たっぷりだ。
「受付所で夕飯食べたら、俺の家に行くって約束しましたよね」
・・・はっきりと約束はしてないような気がする。
だけど。
夕飯を食べている時も話が途切れることはなかったし。
カカシ先生が気遣いしてくれて、俺に話を振ってくれていたし。
イルカの中で良い人認定されたカカシは、まさしく良い人だ。
せっかくだし、お邪魔してみようかな。
これも何かの縁だ、と決断した。
・・・もしかして、話の糸口からカカシ先生の誕生日を教えてくれるかもしれないし。
カカシの誕生日を知るのも諦めていなかった。
ちょこん。
イルカはカカシの家で礼儀正しく、正座していた。
ビールの缶を両手で持ちながら。
「足崩していいよ、痺れるから」
カカシに促されてイルカは首を横に振る。
「いえ、大丈夫です」
足なんて崩したら、たちどころに気が緩んで酔いが回ってしまうだろう。
それは避けたかった、どうしても。
何故って、カカシの家に来てから、だいぶ飲んでいたから。
テーブルがないのでフローリングに直に座って、飲むこと一時間。
床の上は空き缶だらけだ。
・・・さっきの店で夕飯だけ食べたのは、家で酒を飲むためだったのか。
気がついたときは、もう遅い。
床に並ぶ数十本の空き缶の数は三十は越えている。
イルカの飲み終えた空き缶の数は、ようやく二桁に達しようとしていたということは。
カカシは、それ以上飲んでいるということ。
しかし、顔色は変わらずに酔った様子は微塵もない。
家では覆面も額宛も外して、寛いでいるので素顔が丸見えだ。
だから顔色がよく分かる。
顔色一つ変えず、口調もしっかりしているカカシ。
・・・カカシ先生、酒強すぎ。
しかし酒が功を奏したのか、話題が弾み、核心まで迫る勢いであった。
口調も、だいぶ崩れている。
「そうそう、子供たちがですね」
カカシは話す。
話題はカカシが指導する下忍の子供たちの話題から、誕生日の話題に移りつつあった。
「この前、俺の誕生日を訊いてきたんですよ」
「へー」
「意地悪しないで教えてあげました」
「はあ」
俺にも教えてほしい、と言いたいのを、ぐっと押さえてイルカは相槌を打つ。
訊くのは、もう少し様子を見てからだ。
「俺の誕生日って、今月なんですよ」
「そうなんですか」
知っていたが知らない振りをするイルカ。
まさか、黄色い頭の子供がカカシ本人に、カカシの誕生日が今月だとイルカに話した、なんて露ほども思っていなかった。
想像もしていない。
カカシも、また黄色い頭の子供からイルカに自分の誕生日を話したことを聞いたなんて一言も話さなかった。
「誕生日って、特別な日ですよね」
ぽつり。
急に空気が変わったような気がした。
明るい雰囲気から、しんみりとした雰囲気に。
「特別な日は誰かと過ごしたいですよね」
自分の誕生日を祝ってくれる誰かと。
それにはイルカも同意した。
「おめでとうって祝ってもらえると嬉しいですよね」
両親が生きていた頃は誕生日が待ち遠しかったものだ。
誕生日は一年で一日だけ。
自分が、この世に生まれてきた日。
誰かに祝ってもらえると、くすぐったいような甘い気分になる。
ほんのり、ふわんと。
あったかくて、幸せで、思い出に残るような誕生日。
そんな誕生日を久しくしていない。
郷愁に浸ったイルカに、狙い済ましたかのようにカカシは言った。
「俺も誕生日は誰かと一緒に過ごしたいなあ」
「誰かって誰ですか?」
「それはね・・・」
カカシの答えを聞いたイルカは、どきっとした。
星の下 空の下1
星の下 空の下3
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【こっそりカカシ先生の誕生日企画2】
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