星の下 空の下 1
九月の初め。
夕方、イルカは仕事帰りに、任務の終わった教え子とラーメンを食べていた。
二人ともラーメンが大好きで贔屓にしている店に、頻繁に食べにきている。
黄色い頭の教え子はアカデミーを無事に卒業して、現在は下忍となり上忍師から指導を受けている最中だ。
近況を話す教え子から、ある情報が齎された。
「えっ!」
イルカは箸を止めて、目を見開く。
「今月?」
「そうだってば」
教え子の上忍師の話題になっていた。
「それ、本当か?」
「本人が、そう言っていたってばよ」
教え子はラーメンの丼を抱えて、ごくごくとスープを飲んでいる。
「へー、そうなんだ」
「うん、そうなんだってカカシ先生言っていたってば」
スープを飲み干した丼を、ごとっと音を立てて置いた教え子は頷いた。
カカシ先生。
それが現在の教え子の上忍師の名前だ。
フルネームは、はたけカカシ。
里で知らない者はいないほどの実力者で火影の信頼も厚い。
「ふーん」
相槌を打ち、イルカは箸を持ち直してラーメンを食べることを再開する。
食べながら考えた。
カカシ先生の誕生日は今月・・・。
今月のいつなのだろう?
「イルカ先生」
教え子に脇腹を突付かれた。
「カカシ先生の誕生日、知りたい?」
にししっと笑う教え子は茶目っ気たっぷりだ。
「いや、いい」
食べ終えたイルカは箸を置いた。
「直接、本人に訊くから」
「ふーん」
食べ終わって勘定を済ませて教え子と店を出る。
「でもさあ」
教え子は不思議そうな顔をしていた。
「イルカ先生、誕生日好きじゃん」
何で俺に聞かないの?と。
「だからこそだ!」
何が切っ掛けか忘れてしまったがイルカは人様の誕生日に大いに興味があった。
出来れば知りたかった。
知って何をどうするって訳でもなかったが、ただ知りたいのだ。
誕生日に本人に会えば、もちろんお祝いの言葉は言う。
「誕生日マニアとしてはだな」
「マニアとか言っちゃうんだ・・・」
「人から教えてもらうのではなく、自分で直接本人に訊くってのが王道なんだ!」
「へええ」
教え子は解ったような解らないような生返事だ。
イルカほど人の誕生日に興味が沸かないのかもしれない。
「じゃあ、俺、もう帰るってば」
バイバーイ、イルカ先生〜。
手を振って、教え子は去って行ってしまった。
「ああ、じゃあなあ」
イルカも手を振り替えし、その日は終わった。
次の日。
カカシは、あることを耳にした。
上忍師として下忍の指導をしているのだが、その下忍の子たちの話を聞いてしまったのだ。
「イルカ先生ってば、カカシ先生の誕生日を知りたいみたいだってば」
「あー、イルカ先生って誕生日が好きよねえ」
下忍の女の子が相槌を打つ。
「・・・俺の誕生日も知っている」
これは無口な黒髪の下忍の男の子の発言だ。
誰に言うともなく、ぼそっと言っている。
「そうそう。でさ、カカシ先生の誕生日も知りたいんだって」
「カカシ先生の誕生日なんて知って、どうするのかしら?」
「教えたのか?」
「ううん」
黄色い頭が振られる。
「自分で訊くからいいって」
「自分で?」
「なんか、マニアで王道だとか言ってたってば」
「イルカ先生らしいわね」
「・・・知らなくても困らないのにな」
わいわい、きゃーきゃーと騒ぐ下忍の子どもたちの後を本を読みながら歩くカカシは、ばっちりと聞いていた。
「イルカ先生ねえ」
覆面で既に顔の大部分が覆われているのに、更に本で顔半分を隠しながら呟く。
怪しさ倍増だになっている。
「俺の誕生日を知りたいのか」
しかも左目は額宛で隠され、出ているのは右目だけ。
その出ている右目が、きゅうと細まった。
「前から仲良くしたいと思っていたんだよね」
初めて会った時からイルカのことが気になっているカカシだ。
チャンスかも。
にやり。
そんな風に笑ったように見えた。
下忍に解散を言い渡すと、その足でカカシは受付所へと向かった。
今の時間帯なら、きっとイルカがいるはず。
その予想は外れてはいなかった。
うーん、どうしたらいいかなあ。
イルカは悩んでいた。
仕事とは関係のないことで。
それは無論、昨日、教え子に宣言したことだ。
カカシ先生の誕生日を知ること。
とは言ったものの・・・。
受付所の仕事をしながら、合間合間に悩んでいた。
考えてみたら、俺、カカシ先生とそんなに話したことないよなあ。
親しい人になら誕生日なんて、個人情報を教えてくれるかもしれないが。
親しくない人には教えたくないかもしれない。
・・・いきなり、尋ねるのは失礼か。
報告書を受け取りながら頭の隅で考える。
・・・じゃあ、親しくなることから始めたら?
それだったら、どうだろうか。
しかし、カカシは上忍、イルカは中忍。
階級が違い、仕事の内容も違うので顔を合わせる機会が、そうそうない。
それに、だ。
どうせなら、誕生日前に誕生日を知りたい!
マニアの血が騒ぐ。
カカシの誕生日は今月で、誕生日が過ぎてから知るのは、ちと悔しい気がする。
朝からカカシの誕生日のことばかり考えているイルカ。
まるで、恋に恋した思春期の乙女のように。
だから、いきなり現れたカカシにイルカは、ひどく驚いた。
「報告書、お願いします」
「はい、承りま・・・」
す、と言い掛けて顔を上げると目の前にカカシが立っていた。
報告書を差し出している。
「わっ!カ、カカシ先生!」
驚きすぎたイルカは思わず立ち上がり、立ち上がった拍子に椅子が倒れて派手な音を立てた。
がったーん。
響く音に受付所内にいた人間から注目を浴びてしまう結果となった。
「すみませんすみません」
ぺこぺこと頭を四方に下げてイルカは椅子を立て直し、カカシにも頭を下げる。
「すみません、お騒がせしてしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
おかしいのか、カカシは口元を押さえている。
その仕草を見てイルカは、かーっと顔が熱くなるのを感じた。
めっちゃ恥ずかしい!
椅子に座ると、カカシの差し出した報告書を受け取り急いでチェックをする。
報告書ばかり見て、どうにもカカシの顔を見ることができない。
おそらく、耳まで赤くなっているに違いない。
「不備はありません」
やっぱり顔が上げられず、イルカは座ったまま平伏すように頭を下げた。
「お疲れさまでした」
こんなんじゃ、誕生日なんて訊けやしない。
というよりも次から、どんな顔をしてカカシと会えばいいのだろう。
ふう、と息を吐いて顔を上げると、いなくなったと思ったカカシが、まだ立っていた。
先ほどよりも顔が熱くなる。
「ま、まだ、何か・・・」
「いえね」
ポケットに両手を突っ込んだままの姿勢で前かがみになったカカシはイルカに顔を近づけてきた。
「イルカ先生、真っ赤だなあと思って」
「そ、そうですか」
慌てて、両手で頬の辺りを隠すように押さえる。
「ふふ」と笑ったカカシから「か〜わい〜」と声が聞こえたような気がした。
気がしただけで幻聴だろう。
カカシが、そんなこと言うはずないから。
「他に何か?」
早くカカシに立ち去ってほしくて、急かすようにイルカは言った。
これ以上、受付所の注目には耐えられない。
ただでさえ、有名人のカカシは皆からの注目を集めているというのに。
「ま、物は相談なんですけどね」
カカシが声を潜める。
そこで聞き耳を立ててしまうのが忍の習性だ。
「イルカ先生、俺と親交を深めませんか」
「・・・は?」
「知り合ったのも何かの縁、ですが俺たち余り話したことないでしょ」
「はい」
「お互いのことを知るのって大事だと思うんですよね、子供たちのこともありますし」
「そうですね、はい」
「俺たちが親しくなって、よりいっそう解り合えば」
そこでカカシは一旦、言葉を切った。
イルカはカカシを見つめたまま、続く言葉を待っている。
「今より良い関係を築くことが出来ると思いませんか?子供たちのためにも」
最後の言葉は取って付けたような感じだ。
どうにも子供たちを出しにしている感が否めない。
だけど、イルカは気づかない。
どちらかというとカカシの言葉に感動している。
さすが上忍師、さすがカカシ先生、常に子供たちのことを考えているんだなあ。。
言うことが一味も二味も違うと。
「そこで提案なんですが」
人のいい笑みをカカシは絶やさない。
「こういうのは、どうですか」
親交を深めるためのカカシの提案。
提案を聞いたイルカは眉を寄せた。
・・・どうしよう。
悩んでしまう。
結局、断ることは出来なくて。
カカシの提案に乗る形をなってしまった。
星の下 空の下2
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【こっそりカカシ先生の誕生日企画】
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