年末の誓い
大学が冬休みに入りイルカはバイトに精を出していた。
年末年始は大変忙しく、書き入れ時なのでバイトのイルカに休みはない。
久しぶりにバイトが早めに終わって家に帰るとカカシがいた。
カカシもイルカと同じく冬休みならぬ年末の休暇に入ったらしく、ずっと家にいる。
「ただいま〜。」
イルカが声を掛けるとカカシはテレビの前のソファーを陣取って座っていたのだが、振り返って「お帰り。」と言った。
「今日は早かったんだね。」
「ええ、まあ。」
早いと言っても時間は夜の十時を過ぎている。
「明日が早いので、早めにあがらせてもらったんです。」
「ふーん。」
なんだかカカシは不機嫌そうだった。
不貞腐れているように見える。
「こっちおいでよ、イルカさん。」
カカシは座っていたソファーの隣と、ぽんぽんと叩く。
「あ、はい。」
イルカは手を洗って嗽をするとカカシの隣に、ちょこんと座った。
テーブルにはビールと背の高い細身のグラスが二つ置いてある。
既にカカシが一つ使っていると言うことは、残るもう一つイルカの分なのであろう。
「はい。」とカカシにグラスを渡されてビールを注がれた。
「どうも。」
イルカはお礼を言ってから、恐る恐るビールに口をつけた。
一口飲んで「苦い。」と眉を顰める。
「そう?全然、苦くないよ。」
カカシはグラスに残っていたビールを一気に煽った。
見るとテーブルの上には既に空いたビールの缶が数本ある。
だが、それは全部、ノンアルコールのビールだった。
お酒の成分は入っていないのである。
イルカは、まだ未成年でアルコールを摂取することができない。
なのでノンアルコールのビールしか飲めないのである。
しかし、それさえもお酒を飲んだことのないイルカにとっては苦く、あまり美味しいものとは思えなかった。
大人はこんなものを好んで飲むんだなあ、とぼんやり思いながら、ノンアルコールのビールを飲むカカシのご相伴に時々、あずかっていた。
更にノンアルコールのビールを一口飲み、ふと疑問に思ったことをカカシに聞いてみる。
「カカシさんて、お酒は飲まないんですか?」
「ん〜、お酒。飲むよ〜。」
「でも、家では飲みませんよね?」
「ああ、そうだねえ。」
気のない様子でカカシは答える。
「外で飲んで帰ってくることもないですし。あ、忘年会とは行かれないんですか?」
ノンアルコールのビールを飲んでいたグラスをカカシはテーブルの上に置くと隣に座っているイルカを、じっと見詰めた。
カカシの手は、いつの間にやらイルカの肩に回っている。
「あのねえ、イルカ。」
カカシはイルカを呼び捨てにした。
こんな時のカカシは、ちょっと危ない。
危険人物となる前触れだった。
「俺が誘われた忘年会やら飲み会やらを全部断って、どうして家に、ずーっといると思う?」
「え、っと家が好きだから?」
カカシの威圧的な迫力に押されつつイルカは答える。
「そう、俺は家が好きなの。イルカのいる家がね。」
「はあ。」
カカシの話に、どうもイルカはピンとこない様だった。
「年末年始イルカはバイトバイトで家に、ほとんどいないし、帰ってきても直ぐにバイトに行っちゃうし。そんなイルカに会うために俺は、ずっと家にいるわけ。」
「そうだったんですか。」
「そうだ〜よ。俺、イルカに会えなくて寂しくてしょうがないんだもん。」
イルカの肩に回した手をそのままに、カカシはイルカの体をソファーの上に押し倒した。
「それに、俺がなんでお酒を飲まないかって・・・。」
カカシの顔が、ぐっとイルカに近づいた。
見下ろされる体制をとらされて押さえ込まれてイルカは身動きできず、逃げようにも逃げられない。
「もしも、俺がお酒を飲んだら・・・。」
カカシの顔がイルカの真正面にくる。
既に距離は一センチもない。
「心の内に秘めた欲求が溢れ出て止められなくなる、違う言い方をすると押えていた欲望を実現させようと爆発して暴走するかもしれないからだよ。」
イルカのためなんだよ、と耳元で低く囁く。
カカシの話を、そこまで聞いてもイルカは意味が解らないのか首を傾げている。
欲求とか欲望とかってカカシさん、仕事でストレス溜めているのかなあ、と口に出さず心の中で心配していた。
全く別の方向に。
あ、そうだ、とイルカはあることを口にした。
「カカシさん。」
「ん、なに?」
カカシとイルカの唇が、もう少しで触れそうだったのに。
「初詣に行きましょう!」
「初詣?」
「そうですよ。」
イルカは、にこっと笑う。
「大晦日と元旦は俺、丁度、バイトが休みなんです。だから初詣行きましょう。ね?」
イルカに強請られると嫌とは言えないカカシだった。
それに初詣にはイルカと、是非とも行きたかったし。
「いいですよ。行きましょう。」
カカシの返事にイルカは嬉しそうにする。
和やかなムードに便乗してカカシは、再び、イルカの唇に触れようと試みたがイルカはカカシを手で押しのけて立ち上がった。
「俺、夕飯まだなんですよ。作りますからカカシさんも食べませんか。」
「・・・・・・食べます。」
「じゃ、すぐ作りますねー。」
腹減ったーとイルカは台所に行ってしまう。
残されたカカシはイルカのグラスに残っていたビールを飲み干して、いつか自分の欲望・・・・・・・・じゃなくて希望を必ず実現させてやる!と密かに固く、心に誓っていたのだった。
クリスマスの悲劇
初詣の願い
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