一目惚れ、その後の二人の関係、そして行く末
(その一)
風邪が無事に治り、バイトに復帰したイルカであったが、やはり嘘はいけないと思い、店長にカカシとの生き別れの兄弟の件は誤解だと言おうとしたのだが、それよりも早く、店長に言われてしまった。
「海野君、お兄さんが見つかってよかったねえ。」
「え、いや・・・。あの、それが・・・。」
「誰も家族がいないって言っていたけど、見つかって本当に良かったねえ。」
店長はカカシの言ったことを嘘だと欠片も思ってないらしい。
「て、店長?」
「やっぱり、海野君は未成年だし一人だと何かあったときに心配だしねえ。現に、風邪を引いたときお兄さんが看病してくれて心強かったでしょう?」
「あ、あの・・・。」
否定する機会を失ったイルカは、ははは、と虚ろに笑った。
「そ、そうですね・・・。心強かったです。」
「本当によかったねえ。」
心から喜んでくれている店長に、それ以上イルカは何も言えなかった。
確かに畑さんが看病してくれて、すごく助かった。
でも!とイルカは思う。
何も兄弟ってことじゃなくてもいいじゃないか。
とうとう、店長に本当のことが言えなくてイルカの心に罪悪感が募る。
どうしよう、と、ずきずき胸が痛んだ。
イルカが、そんな気持ちを抱きつつバイトに励んでいると、店長にイルカと生き別れの兄弟だと吹き込んだ、当の本人が現れた。
妙に機嫌が良さそうで、口元が緩んでいる。
それを横目で見ながら心の中で、どうしてくれるんだー!と叫ぶイルカ。
レジに来たら絶対に睨みつけてやるとか思っていたのに、カカシは、その予想を裏切った。
カゴに商品を入れると、もう片方のレジをしていた店長の方に行ったのだ。
カカシが、このコンビニに来て初めてイルカ以外の人間に会計をしてもらっている。
呆気にとられたイルカが思わず、カカシを見ているとカカシは愛想良く、店長に話しかけていた。
「この前は、どうもありがとうございました。」
「いやいや、こちらこそ。海野君のお兄さんだったなんて、実に運命的ですねえ。」
「あははは、そうですね。」
「バイト先のコンビニで偶然、出逢って、一目で生き別れになった弟と解るなんて、さすが、兄弟の絆は強いですな。」
えっ、と聞いていたイルカは息を飲んだ。
なんだ、それは・・・。
「そんなの映画の中だけかと思っておりましたが、現実に起こるものなんですねえ。」
店長は何やら、やたら感動している。
そして、カカシの会計が終わるとイルカの声を掛けてきた。
「海野君、今日は九時あがりでしょ?十分くらい早いけど、今日はもう終わりにして、お兄さんと一緒に帰ったら?」
そう勧められた。
その言葉を聞いたときカカシの目が、きらんと光ったのは気のせいか。
「あ・・・。はい。」
店長に逆らうこともできず、イルカは渋々、バイトを終わらせカカシと一緒にコンビニを出た。
コンビニを出たイルカはカカシと一緒に歩きながら、もう一度、カカシに先日のお礼を述べた。
「この前は、本当にありがとうございました。畑さんのお陰で風邪は完全に治りました。」
「そうですか、良かった。」
カカシが嬉しそうな笑みを浮かべる。
「イル・・・海野さんが元気だと俺も嬉しいです。」
「・・・そうですか。」
「うん。俺も元気が出ますから。」
その発言を、どういう意味だろうとイルカは考えたが、途中で挫折した。
なんだか聞くと恐ろしいような返答が待っているような気がする。
いや、予感がした。
「あ、あの、畑さん。」
「なーに?」
カカシは風邪の一件いらい、口調が砕けてフレンドリーになっていた。
「畑さんの家って、こっちの方向じゃないですよね?」
イルカは自分の家の方向に歩いていたのだが何故かカカシも、ついて来ていた。
「そうだけど、えーと。イル・・・海野さんを家まで送っていきたいんだけど駄目ですか?」
「駄目じゃないですけど。」
駄目ではないが送られる意味も送る意味が分からない。
子どもではないので一人で帰れるのになあ。
そう思って横のカカシを、ちらっと見ると、にこりと笑顔が返される。
釣られてイルカも、つい笑顔を返してしまった。
畑さん、変わったような気がする。
イルカは、ぼんやり思った。
カカシのことを、そう知っているわけではないが最初に会った時は疲れたような、くたびれたような印象だったのに今は顔色も良くなって穏やかな顔つきで、いつも楽しそうにしている。
笑うだけで、こうも印象が変わるものか・・・。
カカシを改めて見ると、整った顔であることが分かった。
生気が宿ると尚のこと、それが生かされて人目を惹きつける顔になっている。
良い人で好い男って、こういう人のことを言うんだろうな〜。
結局、カカシはイルカの家までついてきてしまったのだが、それは吉だったかもしれない。
イルカが住んでいるアパートの前まで来たとき、たくさんの人だかりが見えた。
警察車両や救急車も見える。
「なんだろう?」
胸騒ぎを覚えたイルカが走り始めるとカカシも遅れずについてきた。
そしてイルカは自分の住んでいるアパートの前に着き、その状況を見て叫んだ。
「なんじゃ、こりゃ!」
後から追いついたカカシもイルカの背後からアパートを見て眉を潜める。
「うわー、すごい・・・。」
イルカの住んでいるアパートは大きな通りに面しており車の通行量も、それなりにある。
その通りを走っていたダンプがハンドルを切り損ね、イルカのアパートに突っ込んでいたのだ。
イルカの住んでいるアパートは簡単に言えばオンボロアパートで、ダンプが突っ込んだ故にアパートの半分が、もろく崩れ落ち破壊されていた。
半壊したアパートの前で、呆然と立ち尽くすイルカ。
カカシは気の毒そうにイルカを見ている。
二人の後ろを北風が、ひゅるる〜と吹き抜けていった。
一目惚れ、その後の二人の関係
一目惚れ、その後の二人の関係、そして行く末(その二)
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