疑問
カカシは暇さえあれば、という感じでイルカのバイトしているバーへ何度も訪れていた。
もちろん、朝昼夕晩のメールも欠かさない。
仕事が終わってからイルカのバイトが終わる時間まで必ずいる。
そしてイルカと一緒に帰るのだ。
それはオーナーのアンコも呆れるほどである。
「あんたも、よく続くね〜。」
アンコが呆れたように言えばカカシは「当たり前でしょ。」と応じ、軽快に答えた。
「なんで続かないなんて思うわけ?イルカさんと少しでも長くいたいのに。」
「あー・・・。そ。」
アンコは話を振ったことを後悔しカカシから顔を背けた。
人の恋路は邪魔しない方がよいと判断したのもある。
イルカのバイトの終わる時刻となった。
「イルカちゃん。」
アンコが声を掛ける。
「もう、時間だから終わっていいよ。」
「はい、分かりました。」
イルカはテーブルの上の飲み終わったグラスを運んできてアンコに渡す。
「すみません、お先にあがらせていただきます。」
「うん、お疲れ〜。」
アンコに頷くとイルカは更衣室へと姿を消した。
「はー、イルカさんてウェイター姿、似合うよねえ。」
ついで「そそるよね」と小声で呟いたカカシは、うっとりとした様子で溜め息を吐いた。
「何着ても似合うって才能だよね。」
一人悦に入っている。
「何着ても似合うって・・・。普通の格好じゃん。」
アンコは当然のことを言った。
「白いYシャツに黒のズボン、腰巻タイプの短い黒いエプロンなんて、ウェイターとしては普通の格好でしょうが。」
「いやー、でもイルカさんが着ると違うよ。」
「どこが?」
「色々とさー。」
「色々って?」
「色々は色々でしょー」
「だから何色なわけ?」
「色なくて色々だってば」
カカシとアンコが不毛な会話を繰り広げていると着替え終わったイルカが更衣室から出てきた。
アンコに丁寧に頭を下げる。
「お先に失礼します。」
「気をつけて帰ってね〜。」とアンコはイルカの隣に立つカカシを見ながら言った。
本当はカカシに気をつけろと言いたかったらしい。
「はい、おやすみなさい。」
そう言ってカカシとイルカは連れ立って店を出て行ってしまった。
夜道を駅まで歩きながらイルカがカカシに話しかけてきた。
「カカシさん、お訊きしたいことがあるんですが。」
「なーに、イルカさん。」
イルカの端正な横顔に何となく、どきどきしてしまう。
俺に訊きたいことって何だろう?と僅かに望みも生まれてしまう。
もしかして、俺の愛を確かめたいのかな?
ここでキスを強請られたら、どうしよう?
好きだと言われたら何て返そう?
次の休みの予定を訊かれてデートに誘われたら即、オッケーだけどね!
あれこれと良からぬことを考えていたのだがイルカの訊きたかったことは、どれも違っていた。
「俺の今のバイト先ってバー兼甘味処じゃないですか」
「・・・はあ。」
「それで、お客さんの中でビールとお汁粉を頼む方や、ワインと御手洗団子を頼む方がいるんですけど・・・。」
イルカはカカシの顔を見た。
その顔は眉を潜めている。
「甘いものとお酒って合うんでしょうか?」
「・・・・・・え」
カカシは一度もアンコの店で甘味など食べたことがなかった。
甘いものが苦手だったからである。
イルカの話は続く。
「以前、カカシさんの家でノンアルコールタイプのビールをいただいた時、苦味を感じました。そして、今のバイト先のアンコさんの作る甘味をいただいたことがありますが、とても美味しかったです。」
でも、とイルカは疑問に思っていることを言った。
「あのビールの苦味と甘味って合うのか、疑問なんです。」
「それは、えーとねえ。」
しどろもどろになりながらカカシは「人に寄るんじゃない?」と無難に答える。
「そっかー。そうですよね。」
イルカはカカシの説明で納得したらしく「人に寄るか・・・。」と感慨深そうに呟いていた。
「ねえ、イルカさん。」
それより、とカカシは切り出した。
「次の休み、映画でも観に行かない?」
べたに誘ってみる。
「映画?」
「そう、今、面白いのやっているでしょう?」
カカシは流行っている映画のタイトルをあげる。
「営業先から映画の無料券、貰ったからさ。行かない?」
「いいんですか?」
「もちろん!」
笑顔でカカシが頷くとイルカも、つられたように頷いた。
「じゃ、決まりね。」
イルカと約束が出来て嬉しさの余り、ぎゅっとイルカの肩を引き寄せ抱きしめてしまう。
「久しぶりに二人きりになれるね!」
カカシの声は弾んでいる。
「二人きりって映画を観に行くだけでしょう?」
「ま、そうかもしれないけど。」
上映中、映画館は暗い。
それにカカシは、ちょっとだけ淡い期待してしまう。
何を?と言われても困ってしまうが・・・。
とりあえずデートの約束を取り付けたカカシは幸せな気分で、カカシとゆっくり会えると思ったイルカもカカシと同じく幸せな気持ちであった。
連絡
映画
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