一目惚れ、その後の二人
「カカシさん!」
イルカは思わず小さく声を上げた。
まさか、カカシが自分のバイト先に来るとは思ってもみなかったのだ。
ちょっとだけ知り合いのような、それでも知り合い未満の関係なのに、なんで、この人俺のバイト先に来たんだろう?
そんな思いが先にくる。
「こんばんは。」
カカシは愛想よく挨拶してきた。
「ここのコンビニ、会社からの帰り道の途中にあったから寄ってみたの。」
「そうなんですか。」
少しイルカは、ほっとする。
通勤経路なのなら、途中にあるコンビニくらい寄るよな。
見るとカカシの服装は、いかにも会社帰りといった風で通勤かばんを肩から下げて、最初に時に見たコートも着ている。
最初に会ったときも会社の帰りだったのかな?
そんなことを思いながらもイルカは商品を、てきぱきとレジに通していく。
商品を袋に詰める作業も手馴れたもので、すぐに会計は終わり金額を言うとカカシは一万円札を出してきた。
それを受け取りイルカはお釣りを渡す。
「ありがとうございました。また、お越しください。」
通り一遍の言葉を述べ、頭を下げた。
「あ、どうも。」
なのに、会計が終わったカカシはレジ前から、どこうとしない。
他のお客がいなかったので、よかったものの、会計が終わったのにも関わらずイルカの顔を、じっと見て何か言いたげにしている。
「あの、なにか?」
痺れを切らしてイルカから話しかけるとカカシは、やっと声を出した。
「今日はバイトは何時に終わるんですか?」
「あ、今日は午前零時までなんですけど・・・。」
そう答えるとカカシは明らかにがっかりしたようだった。
肩を落として「そうですか・・・。」と小さく呟いて悲しそうな顔をする。
「じゃあ、明日、また来ます。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
コンビニから出て行くカカシに声掛けて見送りイルカは眉を潜めた。
明日、またって明日も来るのか、あの人・・・。
暇なのかな・・・。
悲しそうな顔をした時のカカシが、とても印象的で心に残った。
そして、それから連日、イルカのいるコンビニにカカシが現れるようになり、必ず大量の商品でカゴをいっぱいにしてイルカにレジをしてもらっていた。
どんなに空いていようと混雑していようと、イルカがレジにつかないと会計はしない。
ちょっと不審に思ったものの、カカシはお客としてコンビニ来ているのでイルカも店員として適切に対応していた。
そんな折、イルカが働いている店長から示唆された。
店長は五十代前半の気さくなおじさんでイルカも慕っていた。
「海野君。」
店長はイルカを客の目には触れない店の裏手でイルカに言った。
「最近、よく来ている髪が灰色の男性のお客さんいるでしょう?」
「あ、はい。」
すぐにカカシのことだと分かった。
「あの人ね。」
店長は内密のことを話すように、ひそっと囁いた。
「あの人、店に来ると必ず海野君のこと見てるよ。他のバイトしてる子にも聞いたけど、雑誌を見るふりをして海野君を見てるらしいから。」
「はあ。」
イルカは、そんなこと、ちっとも気がついていなかった。
「海野君、何もされてない?」
いかにも心配そうに聞かれてイルカは焦った。
「な、何かって?」
心臓が、どきどきする。
「あのお客さんも男で、俺も男ですよ。何かって何もあるわけないですよ。」
大丈夫です、と言ってイルカは、あははと笑った。
「なら、いいんだけどね。」
それでも心配そうな店長は最後に「何かあったら、すぐに言うんだよ。」と念を押した。
その日、イルカは大学に行ったものの、朝から喉の痛みと咳が出ており、昼になると頭痛がひどくなり、夕方になると熱が出てきてしまった。
忙しさからの疲労が蓄積して体調を崩してしまったらしい。
「やばい、風邪かも・・・。健康だけが取り柄だったのに〜。」
体もふらふらとしてくる。
「これじゃあ、バイトは無理だな。」
早期にそう決断したイルカは、バイト先のコンビニに電話を入れた。
事情を説明すると、ゆっくり休めと言われて素直に家に帰る。
家に帰ったイルカは市販の風邪薬を飲み、早々に布団に潜り込んだ。
「寒い・・・。」
湯たんぽを抱えているものの体の震えが止まらず、かといって、唯一の暖房器具のストーブは灯油がないので機能しない。
何か食べるものをと思っても冷蔵庫は空っぽで、かといって買いに行く気力もない。
「・・・俺、死ぬかもしれない。」
風邪くらいで死ぬわけないと思うのだが、病気で気弱になったイルカは、そんなことを思ってしまう。
ああ、死ぬ前に腹いっぱい食いたかった、特にラーメン、とか、つらつら考えてきたイルカは風邪薬が効いてきたのか、そのうちに眠ってしまった。
あたたかい・・・。
眠っていたイルカは暖かい空気に誘われて、眠りから覚醒しつつあった。
ぼーっとした頭で、薄っすらと目を明けると部屋のストーブがついている。
その上に薬缶も乗っていて、湯気が出ており部屋の中が加湿されていた。
「な、なんで?」
額には冷たいタオルが乗せられていた。
枕元には、飲み物まで用意してある。
部屋に備え付けられている小さな台所からは、いい匂いが漂ってきてイルカの腹が、ぐーっとなった。
「あ、起きましたか?」
誰かの声がする。
声のする方を見ると、まさかの人物がいた。
「は、畑さん!」
「大丈夫?イル・・・海野さん。」
イルカの額に手をあてて「まだ、熱があるね。」と眉を顰める。
熱があるとかそれよりも、イルカはびっくりして飛び起きた。
「ど、どうしてここに?」
なぜ、カカシが自分の家に?
どうしてイルカの家の場所が分かったのだろうか。
教えていないはずなのに。
ぐるぐると考えが頭の中を回る。
急激に色々なことを考えて、くらくらとしたイルカは、再び、布団に倒れこんでしまったのだった。
一目惚れ、その後
一目惚れ、その後の二人の関係
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