電話のベル
イルカが夕方といっても、どちらかというと夜の近い時間帯に家にいると電話のベルが鳴った。
カカシは、まだ帰宅していない。
夕飯の支度をして、カカシの帰宅を待っていたイルカは迷った。
この電話に出てもいいのだろうか?
カカシからは電話には出てもいいし出なくてもいい、と言われている。
また、イルカは極少数ではあるが緊急連絡先としてカカシの家の電話番号を何人かに教えていた。
電話のベルは鳴り止むこともなく、ずっと鳴り響いている。
回数は十回を越え、二十回を越えた。
もしかして、とイルカは思った。
カカシさんからの電話かもしれない。
何か自分に言伝とかあって電話をしているのかもしれない、と考えたイルカは、思い切って受話器を取った。
「もしもし?」
出てみると相手は、とりあえずは知っている人物だった。
「はい、ではお伝えします。いいえ、こちらこそ。・・・失礼します。」
かちゃん、とイルカは受話器を置いて、ふーっと長い息を吐いた。
電話の相手はカカシの父親だったのだ。
一回、会ったことがあるとはいえ、殆ど面識のない相手と電話で話すのは緊張する。
カカシの父親は気さくで明るくイルカに「また、家においで。」と気軽も誘ってもきた。
そのことに対しては嬉しかったのだが・・・。
話は、それだけでは終わらなかった。
カカシの父親はカカシのことを、あれこれと話してくれた。
イルカの知らないカカシの話しばかりで興味深かったが、その合間にカカシの父親は言った。
「もう、カカシもいい年だし、そろそろ身を固めては、と思っているんだよ。」
それは多分、結婚を差すのだろうと思ったのだが、イルカは何と言っていいのか分からずに曖昧に返事を返した。
「・・・はあ。あの、ええと。」
返事に困っているイルカに電話越しでカカシの父親は察したらしく「変なことを言ってすまなかったね。」と侘び、カカシに折り返し電話をするようにイルカに伝言したのだった。
電話を置いてイルカは呟く。
「そういえば、俺が電話に出たことに何にも思わなかったのかな・・・。」
遊びに来ていたと思われたのだろうか。
カカシさんのこと心配しているんだなあ。
大きくなっても子供のことが心配なのが親なんだなあ、とイルカは、ぼんやりと思った。
ちょっと憧憬を織り交ぜながら。
そんな時、カカシが丁度、帰って来た。
「イルカさん、ただいま〜。」
「あ・・・。カカシさん、お帰りなさい。」
イルカが振り向いて言うとカカシが少し顔を顰める。
「・・・イルカさん、どうかした?」
「え、どうかって?」
靴を脱いだカカシは、すたすたとイルカに近寄ってきて顔を覗きこんだ。
「なんか、こう・・・。泣きそうな顔している。」
「別に泣きたくなんてありませんけど・・・。」
「そう?でも、何か悲しいことか・・・。嫌なことがあったんじゃないの。」
カカシは、しつこく食い下がってくる。
「何かあったなら、何でも俺に話してよ。ね?」
「ねって、言われても・・・。特に、何もない、です。」
心の内をカカシに見透かされたような気分なる。
確かに、ちょっと寂しいような悲しいような気分になってはいた。
なんでカカシさん、いつも察しがいいんだろう。
そう思いながらイルカは言伝を思い出した。
「カカシさん、今、お父さんから電話がありましたよ。」
「ええ〜、親父から?」
「はい。折り返し電話がほしいとおっしゃっていました。」
「あー、いいよ、そんなの。」
カカシは投げやりに言うと肩を竦めた。
「親父のことなんて放っておけばいいよ。どうせ、大した用事じゃないと思うし。」
脱いだジャケットをソファーの上に放り投げながらカカシは言う。
「緊急時以外、電話はしてくんなって言ったのに。」
ついでにズボンも靴下も脱ぎ捨てた。
「イルカさん、もしかして親父につまらないこと言われたんじゃないの?それで、さっきみたいな顔してたんじゃ・・・。」
「違います違います!」
イルカは慌てて手を振った。
「また、家においでって言われただけです。」
「そう?」
「あとはカカシさんの子供の頃の話をなさっていて・・・。」
「やっぱり、つまらないこと話してる・・・。」
カカシの眉が顰められた。
「親父のやつ〜。」
「まあまあ、いいじゃないですか。カカシさんのことが可愛いんですよ。それより、夕飯にしましょう。カカシさんのこと待っていたんですよ。」
イルカが宥めるとカカシは、ころっと態度を変えた。
「ですね。夕飯にします、お腹ぺこぺこだし。イルカさんが作ってくれたんですよね。いただきまーす。」
家用のスェット姿になったカカシが嬉しそうに手を合わせて食べ始めた。
イルカも一緒に食べ始める。
仲良く夕飯を食べる二人であったがカカシはこの後、すぐに折り返しの電話をしなかったのを非常に悔やみ、イルカの胸には小さな棘が刺さったまま残ってしまったのだった。
美味しいもの
迷いのとき
text top
top