偶然3
酔っているとはいえ、カカシの切なげな声を聞いてイルカの胸は、どきりと音を立て痛む。
多分、これはカカシの本音なのだろう。
カカシさんの本当の気持ちなんだ・・・。
酔っているからこそ、出てしまったカカシの本当の気持ち。
知ってしまったからには、どうしたらいいのだろう?
人気のない場所で抱きしめられたまま、イルカは仕事中だけどと後ろめたくもあったが、その両手をカカシの背に回す。
ぎゅっとカカシを抱きしめた。
「カカシさん。」
イルカの声がカカシの耳元で囁かれる。
「カカシさん、俺・・・。」
躊躇いながらも自分も本心を打ち明けようとした。
「俺も・・・。」
だけど。
俺もいつも一緒にいたい、と、その一言が出てこない。
以前、カカシの家から出て行った経緯を考えると軽い気持ちで言えなかった。
あの時はカカシさんと自分との経済的な距離や社会人と学生という壁を気にしてしたんだよな。
今でも、それは気にしている。
でも、とイルカは思った。
あの時は少し、状況が違っている。
お互いに、かなり踏み込んで気持ちを確認しあったし、カカシの両親にも会ったりした。
カカシさんとイルカの関係も少しは進んで、違ったものになっているはずだ。
カカシさんも、こんなに俺のことを思ってくれている。
だから、もしかして、とイルカは期待を持った。
もう一度、一緒に住んで暮らしたら上手くいくかもしれない。
反面、思う。
自分が就職してから、一緒に住んだ方がいいのか・・・。
考えるときりがない。
しかし、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
今、すぐに、どうこうするとかじゃなくて・・・。
ただ、カカシに気持ちを伝えるだけなら、とイルカは、どきどきする心臓を落ち着かせるために息を大きく吐き出してから言った。
言ってみた。
「カカシさん、俺もいつも一緒にいたい。」
イルカを抱きしめていたカカシの体が、ぴくりと反応する。
カカシのイルカを抱きしめる腕に力が入った。
「できたら、俺も・・・。」
この先は言っていいのか?
「俺も・・・。」
消え入りそうなイルカの声は微かに震えていた。
「俺もカカシさんと一緒に住みたい。」
でも、そのためには時間が欲しい、という願いもある。
学生のイルカは社会人のカカシと違い、決断しなければいけない事柄がたくさんある。
迷うことも、しばしばだ。
「・・・少し待ってもらえますか?」
「うん、いいよ。」
カカシからくぐもった声が聞こえた。
イルカの肩口に顔を押し付けているからだ。
「待つ。幾らでも待つ。あ、幾らでもじゃない、少しだけ待つから。」
だから、とカカシは顔を上げてイルカを見た。
その顔は明るく輝いている。
嬉しさが滲み出ていた。
「必ずだよ。」
約束ね、とカカシは、ふわんと酔っているせいなのか無邪気に笑った。
「はい。」
イルカは頷く。
「あー、こんなところにいやがった。」
「まったく、探しちゃったわ〜。」
背後から声がした。
アスマと紅だった。
二人は目の前で抱き合っているカカシとイルカを意にも介さず、慣れた様子でカカシに言った。
「カカシがいない間に食事は終わったから帰りましょ。」
「そうそう、イルカの仕事の邪魔すんな。」
「えー、俺、イルカさんと帰りたいな〜。」
三者三様に言い合っている。
「あの・・・。俺、あと三十分ほどで仕事が終わるので。」
慌てたようにイルカが言うとカカシが時計を見る。
「じゃあ、下のロビーで待っていますから来てくださいね。」
酔い覚ましていますから、と言う。
「はい、分かりました。」
それを合図にカカシはイルカを抱きしめていた手を離す。
「また、あとでね〜。」
ひらひらと手を振ると行ってしまった。
「はああ〜。」とイルカは大きく溜め息を吐き出した。
あんなことカカシさんに言ってよかったのかな・・・。
少々不安だったが後悔はない。
逆に、すっきりした気持ちだった。
想いを伝えるのって難しいけどいいものだ、とイルカは思い。
残り三十分の仕事を終えるとロビーで待つカカシの元へ急いだのだった。
偶然2.
小さな幸せ
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