犬の話
自宅でカカシがイルカと二人、テレビを見ていたときに何気なくイルカが呟いた。
「犬、可愛いなあ。」
テレビには、ちょうど犬が映っており飼い主らしき人間と、じゃれて遊んでいる映像が流れている。
それを見ての言葉らしい。
「いいなあ、犬。触ってみたいなあ。もこもこの毛皮に埋もれてみたい。」
そんなことを、うっとりとした顔をしている。
「あんな可愛い生き物に触ったら、すっごく癒されるんだろうな〜。」とかイルカはテレビの犬を目を細めてみている。。
「イルカさん!」
カカシは、ぐいと身を乗り出してイルカに自分をアピールした。
「癒されたいのなら俺に触ってくださいよ。俺に触っても、十二分に癒されますから。」
目が本気だった。
「俺はイルカさんに触ると、めちゃくちゃ癒されます!」
「触るって・・・。」
苦笑を浮かべたイルカは、ちょっとだけ、つんと人差し指でカカシの手を突っつく。
「はい、触りました。癒されましたよ。」
しょうがないなあ、と笑っていてイルカの方が大人に見えた。
「もう、遠慮しなくていいのになあ。」
カカシは不服そうだ。
「もっと、こう、ぎゅーっとか、がばーっとか抱きついてきていいのに。」とぶつぶつ言っている。
「でもイルカさんが、そんなに犬に触りたいんだったら・・・。」
何事か考えるようにカカシは腕を組んだ。
それから、うん、と頷いた。
「触ってみますか?思い切り、満足のいくまで。」
そんなことを訊いてくる。
「え、触るって?どこで触れるんですか。」
カカシの言い分にイルカは首を傾げた。
犬を触るって、どういうことだろう。
知り合いの家で犬を飼っているとか、そういうことだろうか。
不思議そうな顔をするイルカにカカシは説明した。
「実は、俺、実家で八頭の犬を飼っているんです。」
「・・・・・・え。実家って。」
イルカの目が丸くなる。
「今は親父と喧嘩して飛び出してきている状態なんですけど、イルカさんが犬に触りたいってんなら、親父と仲直りしてもいいかなあって思って。」
照れくさそうにカカシは笑った。
驚きで丸くなっていたイルカの目は、今は伏せられてテーブルの上を見詰めている。
カカシには見えなかったが、その目の色は憧憬と寂しさが入り混じったような色だった。
「カカシさん、ご実家があったんですね。」
問い質すわけでもなく、自然、イルカの口から自嘲するように出た言葉にカカシは気がつかない。
「まあ、実家といっても父と母がいるだけなんですけど。あと、俺の犬が八頭。」
カカシは犬の姿を思い浮かべているらしい。
「久しく犬たちにも会っていないし、イルカさんが触ってみたいと思うのなら実家に帰ろうかな。」と、のんびり思案している。
「そうですか。それは楽しみです。」
テーブルの上から視線を上げたイルカの顔は優しく穏やかだった。
先ほどの影など微塵も感じない。
「じゃあ、俺、レポートの続きをしないと。カカシさん、どうぞ、先に休んでいてください。」
「あ、うん。無理しないでね。」
イルカは振り返らずに勉強部屋として借りているカカシの書斎に逃げ込んだ。
書斎の扉を完全に閉めてから、イルカは唇を強く噛む。
「カカシさん、帰る家があったんだ。」
握った手の拳に爪が喰い込んだ。
「家族のこととか、お互いに殆ど話した事なかったから・・・。」
カカシも自分と同じ境遇なのか、とイルカは勝手に思い込んでいたのだ。
「だって、養子とか兄とか言うからさ。」
イルカの顔が歪む。
まるで泣くのを堪えるように。
「勝手に期待して馬鹿みたいだ、俺。」
深い深い溜め息がイルカの口から漏れた。
「カカシさんには帰る家がある。いつか帰ってしまうんだ、その家に。」
口に出すと寂しさが怒涛のように押し寄せてきて耐え切れずイルカは膝を抱えて、その場に蹲ってしまったのだった。
愛の入った・・・
こんなのズルイ!
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