拾う神 5
カカシ先生に飯を食べさせてもらっている・・・
寝食を共にしている・・・
それは、あながち嘘ではない
ただし昨日からだけども
「なんだ、そりゃあ」
カカシ先生の説明を聞いたアスマ先生が片眉を跳ね上げた
「さっぱり分からねえ」
「だーかーらー」
再度、カカシ先生が説明した
「イルカ先生は俺んちに住んでるの!」
ますますアスマ先生が不思議そうな顔をしたのは言うまでない
住んでいる、カカシ先生の家に
俺が・・・
語弊があるような、ないような
間違ってはいないけど、でも釈然としないような
なんか違うと俺は別の言い方を考えたのだが、適切な言い方が浮かばない
「あ、イルカ先生、仕事が終わりの時間じゃないですか?」
時計を見たカカシ先生が指摘してくる
確かに終業時間だったけど何でカカシ先生が、それを知っているの?
「ほらほら、早く」
急きたてられるように俺はカカシ先生に連れられて受付所を後にした
そんな俺たちをアスマ先生が憂いの眼差しで見送っていた
晩ご飯を滞りなく済ませた俺は、またしてもカカシ先生の家で風呂に入って寝ようとしていた
今日は家に帰ろうと思っていたのに
なんだか、ただ飯を食らっているようで肩身が狭い
やっぱり自分の家に帰った方がいいかな、と部屋の中を、うろうろとしていたらカカシ先生が俺を呼んだ
「イルカ先生」
「あ、は、はい」
考え事をしていたので返事が遅くなった
「なにか?」
「こっちにいらっしゃい」
カカシ先生が自分の隣を指差す
「そんなところにいたら寒いでしょ」
寒い?
ああ、そうそう、俺は帰った方がいいかなと玄関付近をうろついていたのだ
カカシ先生は毛足の長い柔らかい絨毯の上に座っていてテレビを見ている
そういや、この絨毯、昨日はなかったような・・・
いつ買ってきたんだろう?
「ここに来たらいいですよ」とカカシ先生は場所を開けてくれたのだが
うーむ、でもなあ・・・
優柔不断な俺だ
どうしたらいいのか、一人じゃ決められない
決められないのでカカシ先生に直接、訊いてみることした
とことことカカシ先生の隣に行って座る
絨毯の上は柔らかくて温かくて気持ちいいこと、この上ない
「あの、カカシ先生」
「はい、イルカ先生」
俺は正座してカカシ先生に真面目に尋ねてみた
「アルバイトの件なんですけど」
「ああ」とカカシ先生は頷く
「俺って話し相手になっていますか、俺では役不足なのでは・・・」
最後の方は自信がなくなって小さい声になってしまった
カカシ先生の話し相手と言っても、どちらかと言うとカカシ先生が俺に話し掛けてばかりいるような気がする
俺自身のことを随分、聞かれた
好きな食べ物から始まり、休日は何をしているのかとか趣味とか色々
果ては恋人の有無とか今での恋愛遍歴を答えられる範囲でいいから、と訊かれてしまった
・・・そんなこと訊いて、どうするんだろうとか思うけど
俺の情報なんて持っていても特別、役に立つことないのになあ
「ぜーんぜん」
俺の問いにカカシ先生は余裕を持って答えてくれた
にっこり晴れやかな笑顔つきで
「イルカ先生がいてくれて俺は楽しいですよ、話す相手がいるっていいですよね!」
「そうですか」
それならいいけど
逆に訊かれた
「イルカ先生は、このアルバイトに何か不満でもありますか?」
あるなら改善するようにしますから、と言われてしまう
「ま、まさかあ」
不満なんて、ちっともない
不満なんてあったら罰が当たるよ
こんな良いことずくめのアルバイトなんて他にない
まあ、これがアルバイトというならの話だけど・・・
「不満なんてあるはずありません」
そう言うとカカシ先生は微笑んだ、満足そうに
「なら、良かったです」
それは、こっちの台詞だ
「じゃあ、もう寝ましょうか」
自分の家に帰ろうか、という俺の気持ちは、あっさりと流されてしまった
今夜もカカシ先生のベッドの隅っこで眠る
床に落ちないギリギリの場所で
大の男が二人で寝るにはカカシ先生のベッドは少し小さい
別に床に落ちても大した高さじゃないし、俺は床に落ちても寝てると思うしねえ
俺はカカシ先生に背を向けて寝ていたのだが肩を、ちょんちょんと突付かれた
「ねえねえイルカ先生、こっち向いてくださいよ」
ねえねえ、とカカシ先生に強請られる
「一緒に寝ているのに、そっぽ向かれたら寂しいです」
寂しいなんて言われると俺は弱い
だって寂しい気持ちって悲しい気持ちに似ているから
くるんと向きを変えると正面にカカシ先生の顔があった
意外に近い
ベッドが小さい所為もあるけど、これは近すぎじゃないのかな・・・
「あ、こっち見た」
暗闇でカカシ先生が嬉しそうにしているのが分かる
「二人で寝るとあったかいですね」と無邪気にカカシ先生は言った
うん、それはある
何年かぶりに誰かと一緒の布団で寝たけれど、あったかくて安心する
一緒っていいなあ
あったかさに包まれた俺は徐々に眠気に襲われてきた
瞼が、だんだん落ちてくる
カカシ先生の手が伸びてきて寝る時は下ろしている俺の髪を、くるくると指に絡めて遊んでいるのが視界の隅に見えた
長い髪が面白いのかなあ
子どもみたいで可愛いなあ
それを最後に俺の瞼は閉じられた
「おやすみ、イルカ先生」
カカシ先生の声が微かに聞こえたのだった
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