拾う神 4
あったかいなあ
うつらうつらする意識の下で俺は思った
部屋の空気があったかい、布団にくるまれてあったかい
ぽかぽかぽかぽか、あったかくて心地よい
遠くから包丁の音と味噌汁のいい匂いがしてくる
ああ、母ちゃんが朝飯作っているんだなあ
ぼんやりと笑いが浮かぶ
ああ、幸せ〜って
・・・・・・待てよ?
俺は、ぱちっと目を開けた
意識が、はっきりと覚醒する
だって母ちゃんは、もういないじゃないか
っていうと誰だ?
ばっと起き上がると、そこは見慣れないベッドの上で俺は中央に位置していた
確か、昨日はベッドの隅っこで寝ていたような・・・
俺はベッドの真ん中で柔らかい枕に顔を埋めて、ふかふかの布団に包まれて寝ていたのだ
ここ、どこだっけ
きょろっと辺りを見渡すと「おはようございます」という声がした
「お、はようございます・・・」
慌てて返事と返す
声の主はカカシ先生だった
そうだ、俺、カカシ先生の家に泊まったんだっけ
すっかり忘れていた
カカシ先生は既にパジャマから忍服に着替えていて、なおかつ朝食の準備もしていた
「イルカ先生」
俺を見てカカシ先生は、くすっと笑う
「寝癖がついていますよ」
「えっ」
慌てて髪を手櫛で整える
「朝ご飯ができましたよ、食べませんか」
「あ、はい、どうも」
ごにょごにょ、言いながらベッドから下りて洗面所を借りて顔を洗った
顔を洗い終えて洗面所を出ると豪華な朝食がテーブルに並んでいる
白いご飯に味噌汁、漬物、焼き魚と旅館の朝ご飯みたい
俺なんて朝は時間が無くて食べないことが多いのにカカシ先生は、ちゃんと食べているんだ
すごいなあ
とても感心してしまった
一流の忍者は飯にも手抜きがないのかと
「あ、着替えですけど」
カカシ先生が、きちんと畳まれた俺の服を差し出してきた
「これ、昨夜のうちに洗って乾燥機に掛けておきましたから」
どうぞ、と渡される
渡された服は、まだあったかくて普通に洗って干した物より、ふっくらしていた
ぜんぜん違う服みたいに
「ありがとうございます、あの・・・、すみません」
なんか、カカシ先生にとっても悪い
洗濯までしてもらうなんて思ってもみなかったし
朝食の支度もいつの間にかしてしまっているし
これじゃあ、まるでお母さんじゃないか!
そして驚くことにカカシ先生は清潔な可愛らしい柄の布で包まれた小さな包みを差し出してきた
「はい、これ、お昼のお弁当です」
ほんっと、すごい
びっくりした〜
感服だ、全面降伏してしまいそうになる
俺が寝ているうちに朝飯と弁当作って、服を洗って乾燥させて次の日に着られるようにするなんて
カカシ先生ってお母さんかお嫁さんの素質が充分ある
思わず口から出てしまった
「カカシ先生って、いつでも結婚できますね!」って
心から言ってしまう
「そう?」
するとカカシ先生は何故か照れた
男前なのに照れる姿が、ちょっと可愛い
顔がいいって得だなあ
「そう思いますか、ほんとに?」
「はい!」
強く頷く
「そっかあ〜」
カカシ先生は嬉しそうに、ほのぼのと笑った
「結婚は無理かもしれないけれど、一生一緒にいたいと思う好きな人がいるんですよねえ」
結婚は無理・・・
その言葉に、ずきっと胸が痛んだ
今は、ほのぼの笑っているけれどカカシ先生は、もしかして・・・
人知れず恋焦がれている人がいるのかも、と俺は密かに思ったのだった
カカシ先生に渡された弁当を昼に開いてみた
「すげえ・・・」
俺は、その弁当の中味に驚いた
エビフライが入っている、それも二つも
朝から揚げ物するなんて、ただもんじゃないな、カカシ先生
野菜も彩りよく入っていて見た目も、とても美しい
舌鼓を打ちながら弁当を食べた
やっぱり、すごく美味しかった
俺、昨日から美味いものばっかり食べているなあ
俺は給料を落としてからのことを振り返る
いつもの食生活の倍以上、いいもの食べているよな
絶対に
給料を落として昨日は絶望的な気分だったのに今は全く反対の気分だった
美味いもの食べて幸せだ
カカシ先生は、すごく優しくて
でも、これでいいのか?
落とした給料については遺失物係に問い合わせてみたのだが該当する物がなかった
いったい、どこに行ってしまったのだろう
見つかってほしい
そうすればカカシ先生に迷惑が掛からないのになあ
だって碌にカカシ先生の話し相手になっていないような気がするし、
アルバイトと称して飯を食べさせてもらっているだけのような気がして心苦しい
はあ、と溜め息が出てしまった
夕方、俺は受付所で仕事をしていた
もうすぐ終わりの時間だ
すると、そこへカカシ先生がタイミングよく現れた
隣にはアスマ先生がいる
二人して報告書を出しに来たようだった
報告書を提出したカカシ先生は俺に言う
「イルカ先生、一緒に帰りましょう」
「あ、ええ」
ちょっと戸惑う
帰る約束なんてしていたっけ
「帰りに夕飯食べていくか、夕飯の材料買って行きましょうよ」
ああ、そういうことか
「いいですよ」
俺が言うとカカシ先生が目を細めた
隣でカカシ先生と俺の会話を聞いていたアスマ先生が不思議そうな顔をしている
「んん?イルカ、いつ一緒に飯を食うほどカカシと仲良くなったんだ?」
「仲良くっていうか、ええと」
なんて説明したらいいんだろうか
すると横からカカシ先生が簡潔に説明してくれた
にこにこと満面の笑みで
「それはね〜」
ふふふふ〜と笑っている
「今、俺んちでイルカ先生は飯を食べているから」
「そりゃなんだ?」
アスマ先生が当然、突っ込む
「俺と一緒に寝食を共にしているからだ〜よ」
ものすごく誤解を招くような発言だった
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