拾う神 2
「あ、カカシ先生・・・」
俺は咄嗟に求職情報誌を後ろに隠しつつ、無難に挨拶をした
「こんばんは」
「うん、こんばんは」
カカシ先生も挨拶を返してきたが、その目は俺が隠している雑誌を追っている
「そんなもの見てどうしたんですか、イルカ先生」
「え、あのう・・・」
どう言ったらいいんだろう
まさか給料日に給料落としましたなんて、みっともないこと言えやしない
ましてや相手はカカシ先生
各国に名声を馳せている、すごい忍者で俺の元教え子を指導している上忍師
下手なことは言えない
「失礼ですけど」
カカシ先生は丁重に訊いてきた
「お金を工面しないといけない状況なんですか、イルカ先生」
経済的に切羽詰っていると思われたのだろうか
お金に困窮していると
生活が切迫していると
確かに大事な給料落としたか何かして失くして、俺は切羽詰っているのは事実だ
でも来月の給料日までなんとかなれば・・・
と思い俺は言った
「そんなに困ってはいないんですけど」
嘘だ、めちゃくちゃ困っている
「一ヶ月くらい三食、飯を食べさせてくれるアルバイトとかあればなあ〜なんて」
これは本心
飯は食べないと死んじゃうから
ご飯食べないと元気が出ないし働けない
さすがに中忍の俺でも一ヶ月、水だけじゃ身が持たない
年末、アカデミーも受付も忙しいけどDランクの任務を、なんとか受けて報酬を得るか・・・
で、食費だけでも捻出して
俺が、そう考え始めた時にカカシ先生の声が聞こえた
「じゃあ、うちに来れば?」
「はあ?」
カカシ先生の突然に提案に俺は、まじまじとカカシ先生の顔を見つめてしまった
失礼じゃないかと思うほどまじまじと見てしまっている
今、うちに来れば、って聞こえたけど
空耳?幻聴?
だいたい、うちってどこのうちだよ・・・
よほど俺が不可解な顔をしていたのか、俺を見ていたカカシ先生が噴き出した
「そんな顔しなくても」
そんな顔って、どんな顔ですか
「俺の家に来たらいいって言ったんですけど、そんなにおかしかった?」
「え、カカシ先生の家に!」
おかしいというより、びっくりした
ほんと、びっくりした・・・
だって俺、今までカカシ先生と話したことって、ほとんど無いに等しい
接点って元教え子がカカシ先生の指導を受けているってことくらいしか思いつかない
なんでカカシ先生が俺を自分の家に?
ぽかーんと口を開けているとカカシ先生が、つんつんと俺の頬を突っついた
「イルカ先生、聞いている?」
「あ、はい」
「ご飯を三食、食べさせてくれるアルバイトがしたいのなら俺んちでしたら、ってこと」
「カカシ先生の家で?」
食べさせてもらえるのはいいんだけどアルバイトだよ?
カカシ先生の家で俺は何をしたらいいんだ?
それを言うとカカシ先生は、くすっと笑った
「そうですねえ、ま、話し相手とかかな」
話し相手!
「家に帰っても俺、一人だし〜ね」
カカシ先生は肩を竦める
「ウッキー君と話すのも悪くないけど返事がほしい時もあるしねえ」
あ、ウッキー君は鉢植えのサボテンです、とカカシ先生は言った
「カカシ先生の話し相手になるのがアルバイトですか?」
それが三食、食べさせてくれる条件?
なんか簡単過ぎないだろうか、それだけで飯を食わせてもらうのは悪いような気がする
「あ、それとね」
カカシ先生が人差し指を立てる
「家にいて俺の帰りを待っていてほしいんです、灯りが点っている家に帰って、俺は『お帰りなさい』って言われたい」
それは・・・
その気持ちは俺にも分かる
一人暮らしを始めて随分になるけど暗い家に帰るのって、すごく寂しい時がある
誰かが家にいて待っていてくれてお帰りって出迎えてくれて、夕飯も用意されていたりしたら、と何度思ったことか
特に冬、寒いときは余計に、そう思う
あったかい料理と風呂が家に帰ったら出来ていたら嬉しいよな〜って
カカシ先生さえよければ家で待っていて出迎えるくらい、俺が幾らでもするよ
むしろ率先して出迎えて、一人暮らしの寂しい気持ちを少しでも和らげてもらえたらと思う
しかし、と俺は、ちょっと引っかかった
その役目は俺でいいの?
個人的な意見だけど、どちらかというと、そういうのは見目麗しい女性の方がいいと思う
そう言うとカカシ先生は本当におかしそうに笑った
「イルカ先生ってナルトたちから聞いていたとおりの人ですね」
「え!」
あいつら何をカカシ先生に言ったんだ?
ちょっと心配になる
「いつも子供たちからイルカ先生の話を聞いているので昔からの知合いみたいです、イルカ先生が」
それは光栄だ
「友達みたいな感じです」
そうだったのか
「それに異性より同性の方が一緒にいて気が楽だし、気兼ねなく何でも話せるでしょ」
そうか、そういうこともあるか
なんか納得した
「じゃ、改めて」
カカシ先生が俺に手を差し出してくる
「俺んち来ますか、イルカ先生」
「はい」
俺はカカシ先生の手を握る
これでアルバイトの契約成立ということかな
「三食、食べさせてくれるということで」
俺はカカシ先生の話し相手と家で帰りを待っていてカカシ先生に『お帰りなさい』をいうことがアルバイトの条件だ
期間は一ヶ月
これで次の給料日まで生き延びられる
良かった〜
「いいですよ、よろしくね」
イルカ先生、と俺の名を呼んだカカシ先生の目は、やけに優しそうに見えた
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