AIで普通の動画を3D動画に変換する


春の嵐9



イルカは閉じられてしまった扉を呆然と見ていた。
閉じられてしまった扉は開かない。
もう一度、手の中を見ると確かに自分のお金が、そこにあった。
取り返そうと思っていたイルカの給料。
カカシに奪われてしまったお金だ。
取り戻したかった物が返ってきた。
ようやく、自分の下に戻ってきた。
なんの不満があろう。
ずっと返せと思っていたのに。
思い返せば、カカシからお金を取り返したかったからカカシに近づいたというのもある。
本来の目的を達成できた。
もう、カカシに用はない。
用はないのだけれど・・・。
この胸の痛みは何なのだろう。
カカシに拒否されたことが辛く悲しい。
たまらなく寂しい。
カカシに会いたい。
だが、それは叶わぬ望みかもしれなかった。



手の中のお金を懐にしまうとイルカは踵を返した。
カカシの家を背にして、歩き始める。
とぼとぼとぼ。
お金は返ってきて、これで経済的には安心だ。
残ったお金を切り詰めて生活していたから。
冷蔵庫の中味を心配したり、お金の残額と計算しながら買い物をしなくてよいのだ。
昼を抜くこともしなくていい。
そうだよなあ。
これでいいんだ、とイルカは胸元を押さえた。
お金が入っているベストの内ポケットを上から。
・・・お金は大事。
大事だけど。
「お金よりも大事なものがあるんだよなあ」
思わず、呟いていた。
呟くとともに自覚する。
大事なものがなんだったのかと。
「気づいていも、もう遅いけどな」
自嘲気味に笑ったイルカは、ひどく空しくなった。
心が空っぽになって。
大事なものを失って。
お金はあるけれど。
お金だけはあるけれど。
一人歩くイルカの顔は俯き加減で、迷子にでもなったかのようにに途方に暮れていた。



眠れぬ夜を明かしたイルカであったが、次の日はきちんと仕事に出ていた。
寝不足ではあったけれども。
ちゃんと朝ご飯を食べて、昼ご飯も食べた。
そうして夕方になり、いつも通り受付の仕事に入る。
人が多くなり忙しくなり、いつも通りに仕事をする。
イルカは仕事をしながらもカカシのことが気になっていた。
・・・今日はカカシ先生、一度も見ていないな。
里内での任務はあるはずなのは確認済みだ。
怪我の経過具合がいいので、今日から本格的に任務のはずだ。
報告書を出しに来てもいいはずなのに。
なのに、カカシは姿を現さない。
どうしたんだろう。
心配になってくる。
もしかして・・・。
ふと嫌な想像をしてしまった。
もしかして、家で倒れているとか!
急に具合が悪くなったとか?
そんなことを考えていると、じっとしていられなくて。
カカシのことが心配で堪らなくなってきた。
カカシに何かあったらと思うと心臓が、どきどきしてきて妙な汗が出てくる。
大丈夫かな、カカシ先生。
仕事が打ち込めない。
ただただ、カカシのことが気になった。
そわそわして、落ち着かない。
受付所の人が途絶えたところで同僚がイルカに訊いてきた。
「イルカ、どうしたんだ?」
「え、何が?」
同僚の問いかけも上の空だ。
「どうかした?」
「どうかしたってのは、こっちの言葉だ。イルカ、変だぞ」
「そう」
「ああ、何か悩み事か?」
「悩みっていうか・・・。ちょっと、いや、かなり心配なことがあって・・・」
「心配なこと?何なら、早退するか?今日は人もいるし」
「うん、する」
イルカは即座に頷いた。
気もそぞろのままに帰り支度をすると挨拶も、そこそこに受付所を後にした。
受付所を出ると後は駆け足だ。
だーっと走って走ってカカシの家まで駆け抜けた。
通いなれたカカシの家なので道は知っている。
何度も通った道だ。
その道をイルカは一心不乱に走った。
心の中はカカシ一色だ。
カカシ先生!
息も切れて、カカシの家に着いたときは大きく肩で息をしていた。
ぜいぜい、はあはあ。
息も整えず、イルカはカカシの家の扉を叩いた。
こんこん、などと、かわいいものではなく、どんどんと。
「カカシ先生!カカシ先生!」
大声も張り上げた。
昨日は閉じられてしまった扉を開けてもらおうと叩く。
「カカシ先生!大丈夫ですか?生きていますか?カカシ先生!」
強く扉を叩いていると中から反応があった。
「っるさいなー、寝てんのに。誰よ?」
ばん、と勢いよく開いた扉の向こう側には寝癖だらけの髪を逆立てた、眠そうな目をしたカカシが立っていた。



「カカシ先生・・・」
生きているカカシを目の前にしてイルカは、ほっとして息を吐いた。
「よかった、生きてる・・・」
「イルカ、先生?」
「寝ていただけなんですね・・・」
ぎゅっと胸の上で、祈るような形で両手を握り合わせると胸の、どきどきは少し収まったような気がする。
「今日、一回もカカシ先生の姿を見なかったので気になって」
単にカカシは家で寝ていただけだったのだ。
「心配になって。カカシ先生、もしかして倒れていたりするんじゃないかって、それで」
「それで・・・」
イルカの姿を見て驚いたのか、眠そうな目を大きく見開いていたカカシの目が、きゅっと細まった。
「それで俺のことを心配して来てくれたの?」
イルカ先生、と呼ぶ声は優しい。
「そうです」
こくっとイルカは首を縦に振った。
「カカシ先生の怪我が急に悪くなっていたらとか思って」
「そっか」
微笑むカカシの顔を見て、イルカは気持ちが軽くなっていく。
不思議なことに胸の痛みも消えていた。
胸の、どきどきは収まっていないが何だか先ほどとは違う、どきどきのような気がした。
「ありがとう、イルカ先生」
すっとカカシの手がイルカの方に伸びてきた。
「昨日、酷いことしたのに。それなのに、俺の心配をしてくれて、ありがとう」
伸びてきたカカシの手がイルカの手を掴む。
力なんて微塵も入っていないようなのに、掴む手に強い力を感じる。
「嬉しいよ、イルカ先生」
掴まれたイルカの手はカカシの方へと引き寄せられて。
すとん、とイルカの体はカカシの腕の中に納まってしまう。
イルカは捕らえられてしまった、カカシに。
だけど。
「イルカ先生、嬉しい」
そんなことを囁かれて抱きしめられて。
イルカはカカシの腕から抜け出すことなんて、出来るはずがなかった。




春の嵐8
春の嵐10






text top
top