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春の嵐8



カカシ先生・・・。
仕事が終わって、イルカは今日もカカシの家へと向っていた。
手には買ったと思しき物を持って。
良くなってきて、本当に良かったなあ。
ほっとして笑顔が浮ぶ。
あのときは・・・。
思い出してイルカの胸は、ぎゅっと押しつぶされそうになる。
あのときはカカシ先生。
ごくり、と唾を飲み込む。
死んでしまうかと思った・・・。
カカシが突然、現れて血を流して倒れたのを咄嗟に受け止めたがイルカは心臓が凍りつきそうになっていた。
・・・カカシ先生が死んでしまうかも。
死んでしまうかも、死んでしまったら、いなくなってしまう。
親しい人がいなくなってしまう恐ろしさは口ではいえないほど深い喪失感がある。
失ってしまったら戻ってこないのだ。
恐ろしいことだった。
イルカは急いで医療班に連絡し、カカシは処置を受け入院を余儀なくされた。
入院したカカシは暫く目覚めず、その間、イルカはカカシの病室に毎日訪れた。
心配で堪らなかった。
心配で心配で。
命に別状はないと医者から言われても、失う怖さはなくならない。
早く目を開けてほしい。
カカシの顔を見ながら願った。
命が助かりますように。
カカシ先生が目を開けますように。
そうしたら・・・。
こんなことで願いが叶うか分からなかったが。
そうしたら、お金なんて戻ってこなくていいんです。
お金とは酔っ払ったカカシがイルカから奪っていた給料のことだ。
お金なんて、また働けば手に入る。
だけどカカシは違う。
生きている人間は違う。
生きていなければ、いなくなってしまうから。
カカシ先生。
目覚めないカカシの横でイルカは毎日、どこにいるか分からない神様に祈っていた。
カカシが目を開けますように、と。



だからカカシが目覚めたときは嬉しかった。
嘘偽りなく心の底から嬉しかったのだ。
安心した。
目覚めたカカシは、すぐに退院の許可が出たものの体は本調子ではない。
カカシが心配で堪らなかったからイルカは自然にカカシに付き添い、寄り添う形になる。
自宅療養中のカカシは外には、余り出れない。
安静が基本なので、イルカが食事を作ったりした。
カカシも特に何も言わなかったし、むしろ誰かがいるほうが安堵しているように見えた。
一度、一人の方がいいかと思い、食事だけ作って帰ったことがあったが、それ以降カカシはイルカに居てほしそうな素振りをみせるので一緒に食事を摂るようになった。
誰かと食べる食事が美味しいのはイルカも同じで楽しかった。
大人になった今は何事も一人が普通であったのだが、誰かと一緒というのは新鮮で。
話し相手がいるというのは心地よかった。
ただ・・・。
カカシの家に初めて行ったときに、あのときカカシが着ていた肩の破れたベストが目に入って思わず、カカシに聞いてしまったのは失敗だった。
もう、お金のことは気にしないことにしたんだよな。
自分に言い聞かせる。
カカシ先生が助かったんだから、それでいいと。



カカシの家に着くと玄関扉をノックした。
こんこん。
少し控えめに。
そうすると扉が開いてカカシが部屋に入れてくれるのだ。
カカシは合鍵を、と言ってくれたことがあったが固辞した。
合鍵を持つのは特別な間柄になった者同士、とイルカの中では認識ある。
カカシと親しくなれたとは思ったが、合鍵を貰うほどではない。
こんこんこん。
ノックしてもカカシは出てこなかった。
・・・おかしい?
いつものなら、すぐに扉が開くのに。
寝ているのかも、と思ったが。
もしかして、とイルカは悪い予感に襲われる。
怪我の治りは順調だったけど。
どこか悪くして倒れたんじゃ・・・。
衝動に駆られてイルカは強く扉を叩く。
「カカシ先生!」
呼んでもみた。
「カカシ先生、いますか?」
もう、いっそのこと玄関を開けてしまおうか、とイルカが扉に手を掛けたときに、音もなく扉が開いた。
「・・・カカシ先生」
カカシの顔を見てイルカは、ほっとする。
「いたんですね。寝ていましたか?」
「いえ」
力なく、カカシは首を振る。
「具合が悪いとか?」
そういえば、カカシの顔色は悪い。
覇気がないというか、元気がない。
「体が痛いんですか?病院に行きますか?」
どうしたのか、とイルカが手を伸ばすと、そっと交わされた。
そのことにイルカは衝撃を受ける。
・・・・・・避けられた。
カカシは何も言わずにイルカの手に何かを押し付けてきた。
「ごめんね、イルカ先生」
脈絡もなく謝られる。
カカシはイルカの顔を見ない。
見ないまま、告げられた。
「もう来なくていいですから」
言われた言葉にイルカは目を見開く。
「カ・・・」
「もう付き纏いませんから」
「何を言って・・・」
「ごめんね」
最後にカカシは悲しそうな顔でイルカを振り返り「さよなら」と言って扉を閉めた。
閉められた扉の前でイルカは呆然となる。
なんで、どうして・・・。
はっとして手の中を見ると、そこには。
イルカの名を記した給料袋があったのだった。




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