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春の嵐7



カカシは幸せだった。
怪我をして痛い思いをして幸せ、と言うのは何とも変であったが。
これも怪我の功名ってやつかなあ。
そんなことを考えてカカシは、ふっとニヒルに微笑む。
一応、格好つけているのだ。
イルカがカカシの部屋にいるから。
・・・イルカ先生が俺の部屋にいる。
その事実に、まるで夢みたい〜とカカシは、うっとりしてしまう。
それも二人きりで。
カカシの部屋で二人きりで食事もした、話もした。
食事はイルカが作ってくれた。
手作りだ。
だけどカカシの怪我が治ってないので酒は飲めない。
それでも楽しかった。
イルカと一緒にいるから。
「カカシ先生、ご飯できましたけど」
台所にいたイルカが、ひょいと顔を出した。
「もう食べますか?それとも後で?」
「あ・・・。今、今食べます!」
「じゃ、用意しますね」
イルカが再び、台所へ引っ込んだ。
「ふー、セーフセーフ」
前に一度、イルカに同じような質問をされたとき「後で食べます」と答えたらイルカが「冷蔵庫に入れておきますね、後でどうぞ」と言って帰ってしまった。
それ以降、カカシは「今、食べる」と答えるようにした。
そうして強請れば、イルカも一緒にご飯を食べてくれる。
イルカの作ってくれるご飯は美味しい。
イルカと一緒に食べると、もっとご飯は美味しい。
イルカと一緒に食べると楽しい。
体も心も元気が漲ってくる。
イルカはカカシの元気の源だ。
怪我の治りも早いような気がした。



イルカはカカシが退院してから。
毎日毎日、カカシの家を訪れてカカシを見舞ってくれていた。
買物をしてきてくれたり、怪我の診察で病院に行くとなれば付き添ってくれたり。
カカシのために自分の時間を最大限に使ってくれた。
怪我が治ってないカカシは午前と午後の少しの時間だけ、指導している下忍の子供たちのところへと顔を出し、残りの時間は自宅療養に充てていた。
自宅で安静に、と病院からの指示だ。
でも、とカカシは思う。
イルカ先生はいいのかな・・・。
自分はイルカといるのが楽しくて嬉しいが。 ふと心配になった。
俺がイルカ先生の前で倒れたから責任感じているのかな・・・。
その辺りが引っ掛かる。
俺が勝手なことをしたばっかりに。
イルカに迷惑を掛けているのか、と思うと胸が、ちくりとする。
「あの、イルカ先生」
食べ終わって、食後の茶を注いでくれるイルカに思い切って訊いてみた。
「イルカ先生はいいんですか・・・」
「何がです?」
「その、俺の面倒をみてくれますけどイルカ先生の予定とかは・・・」
「ああ、大丈夫です」
茶が入ったカップをカカシの前に置いてイルカは頷いた。
「俺は仕事以外の予定は特にありませんから」
はははは、と照れ笑いをする顔が可愛らしい。
・・・ということはイルカ先生には。
現在、特定の人、つまり恋人はいないことになる。
「忙しいのは仕事に関することだけで、やることないんですよ」
「そう・・・」
カカシも休日はイルカと同じようなものだ。
やることがない。
「つまり独り身なんですよ」
言ってからカカシに黒い瞳を向けた。
「だから、安心してください」
カカシの心配は見透かされている。
「怪我した人を心配するのは当然のことですから」
「うん・・・」
怪我した人・・・。
それはカカシではなくても分け隔てなくイルカは、このように面倒を見るというのか。
カカシの胸は少々、複雑になる。
・・・俺じゃなくてもイルカ先生は。
だけども、その胸の内をぐっと押さえてカカシは無理矢理、笑顔を作った。
「ありがとうございます、イルカ先生」
「いいえ、お礼を言われるほどではありません」
そしてイルカは帰っていった、自分の家へ。
カカシの家へ一度も泊まっていったことはない。



「親しくなれたと思ったけど」
本当は、そうでもないのかもしれない。
イルカは常にカカシとの一線と引いている。
「・・・幸せだと思っているのは俺だけか」
イルカも自分と同じ気持ちになってくれたらいいのに。
ついつい、無い物強請りをしてしまう。
「そうしたら」
そうしたら恋人になれるのに。
「なれたらいいなあ」
部屋に一人きりになったカカシは、どさっとベッドに横になった。
組んだ腕を腕枕にして寝転がる。
「あーあ」
溜め息を吐いたカカシは、ふとベッドの脇に目を遣った。
肩が破れた忍服のベストが掛かっている。
「そういえば」
初めてカカシの家に来たとき、イルカは何故か、このベストを見て驚いたような顔をしていた。
大きな瞳で見つめていた。
だけども、それだけで。
その後はカカシの家に来ても一回もベストを見たことはなかった。
不自然なほどに。
わざとベストから視線を背けていたような気がする。
「このベストがどうかしたのかな・・・」
ベッドから起き上がったカカシは、あの日以来、触れていなかったベストを手に取った。
手に取ると、カサリと音がした。
紙がこすれるような音だ。
「・・・なんだ?」
覚えがない。
カカシは音がした内ポケットの中を慎重に探る。
「封筒・・・」
見たことがない茶色の封筒が出てきた。
中を見るとお金が入っている。
結構な額だ。
「なんで、お金が」
封筒を表に名が記されてあった。
「うみのイルカ・・・」
イルカのフルネームだ。
封筒にはイルカの名前、中にはお金。
きっとイルカのものに違いない。
いったい、どういうことなのだろう。
もしかしたら・・・。
ふっとカカシの心に翳が落ちた。
「イルカ先生はお金のことを知っていた?」
イルカはカカシのベストの中にお金が入った封筒が入っていることを知っていた。
だからベストを気に掛けた。
「お金を返してほしかった・・・のか・・・」
はらり。
カカシの手から封筒が滑り落ちて。
その拍子に封筒から出たお金が、ひらひらと宙に舞ったのだった。




春の嵐6
春の嵐8






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