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春の嵐5



なんとなく。
なんとなく、カカシとの距離が縮まったとイルカは感じた。
初めて、カカシと二人きりという状況で食事をしにいってみたのだが、意外にもカカシはフレンドリーであった。
とても話しやすい。
細かい気遣いに、話題も豊富で一緒にいて肩が凝らない。
カカシが上忍ということも余り気にならなかった。
そして、気になってきたことを聞いてみた。
一昨日の夜のことだ。
案の定、カカシは覚えていなかった。
酒の所為とは名言しなかったが、だいぶ酔っていたようで。
酔った状態でイルカに会い、イルカの給料を持っていたことは記憶にないらしい。
そのことには、がっかりしたのだが最後にした質問でイルカは希望が持てた。
「あの、カカシ先生」
「はい」
にこやかに微笑むカカシ。
とっても格好良い。
「変な質問なんですけど」
「はいはい、どうぞ」
「カカシ先生は、ちょっと傷がついたりしたら、すぐに捨ててしまう人ですか?」
「え?」
質問の意味が解らなかったのか、カカシが眉を潜めた。
「・・・どういう意味でしょう?」
「え、えっとですね」
説明不足だったかとイルカは説明を付け加えた。
「例えばですけど」
「はい」
カカシの顔は妙に真剣みを帯びている。
そんなに大そうな話じゃないのに、とイルカは内心、畏まった。
給料は大切だけど命に関わるというほどでもない。
「服とか靴とか、忍具とかが、もしも少しでも傷がついたりしたら、修理や修復をせずに新しくされる方ですか?」
つまりイルカが言いたかったのは一昨日の夜、カカシがイルカの給料袋を仕舞い込んだベストの肩口が破れていたので、それがどうなったのか知りたかったのだ。
忍にも、色々なタイプがいて少しでも傷がつくと縁起が悪いと、すぐさま捨てたり処理したりしてしまう者もいる。
カカシは、どうするのか知りたかった。
「そうですねえ」
カカシは腕を組み、少し考えてから慎重に答えてくれた。
「俺は簡単に捨てたりしません。大事ならば一生、大切にします」
「そうですか」
それを聞いて、ほっとした。
ならば、あの時、カカシが来ていたベストはカカシの家にあるはず。
イルカの給料を内ポケットに納めたまま。
週末はカカシの家に招かれている。
そのときに何とか・・・。
何とか給料を取り戻せたら、とイルカは望みを繋いだのだ。



食事をし終えて、カカシと店の外に出た。
一昨日の夜と同じで空には、たくさんの星が瞬いている。
とっても綺麗だった。
思わず、言葉が出る。
「綺麗ですね」
目を細めて星に見入ってしまう。
「ええ、ほんとに」
イルカの横にいるカカシが応えた。
カカシの声が耳元で聞こえたので、ついと目だけ動かして声のした方を見ると肩が触れ合うほどカカシが近くにいた。
「いつまでも見ていられます」
意識していなかったのだが、カカシの声は耳元で聞くと低いばかりでなく、非常に耳に残る声であった。
女の人なら色艶があるとか言いそう、とイルカは密かに思う。
きっと、この声で囁かれたら女性はいちころなのだろうと。
それなのに、自分がどきどきするのはおかしいと無理にでも思い込もうとした。
だって、カカシが全く星なんて見ていなかったから。
カカシの発言はイルカを見て言っていたものだったから。
「帰りましょうか」
そう言うとカカシは頷いた。
二人で夜道を歩いたが、隣で歩くカカシが食事の時は別人のように思えて上手く喋れない。
おまけに、胸のどきどきも収まっていなかった。



「・・・あ」
カカシが残念そうな声を上げた。
そのまま、空を見上げる。
つられてイルカも空を見上げると、そこには星とは違う輝きを放つ白い鳥。
白い鳥はカカシ目掛けて、つーっと舞い降りてくるとカカシの周りを周回し消えた。
「イルカ先生」
カカシが寂しそうな顔になる。
「任務の命令がきました、行って来ます」
「はい」
自然と言葉が出た。
「行ってらっしゃい、お気をつけて」
そのイルカの言葉にカカシが嬉しそうに微笑んだ。
「気をつけて行って来ます」
消えようとしたカカシだったが、ふと思い出したようにイルカに言う。
「週末までに帰ってきますから約束、忘れないでくださいね」
「あ、はい」
「ふふ、楽しみ」
そして、カカシの姿は夜の闇に溶けるように掻き消える。
「・・・俺も楽しみにしています」
一人残ったイルカは、ぽつりと呟いた。
しかし、週末が過ぎてもカカシは帰ってこなかった。



週末が過ぎて月曜日。
イルカは昼休みを利用して銀行に来ていた。
理由はお金を下ろすため。
だけども。
銀行の通帳の残高を見てイルカは愕然とした。
「な、なんだ、これは・・・」
残高が限りなくゼロに近い。
子供のお小遣い程度の額しか残っていなかった。
ががーんと激しいショックがイルカを襲う。
「ど、どうして・・・」
当てしていたお金がないことで、動揺がひどい。
「お金が全然ないなんて」
なんで?どうして?と疑問が頭の中をぐるぐるする。
「あ、そっか」
きちんと銀行の通帳を見てみると、住んでいるアパートの家賃や光熱費の引き落としがされていたのに気がついた。
おまけに先日、お金がある程度、溜まったので纏めて定期預金にしてしまったのも災いした。
「・・・どうしよう」
定期預金を崩すか否か・・・。
貯金を崩すのは気が引ける。
はあっと溜め息を吐いたイルカは肩を落とした。
「なんとか家にある食料で食い繋ごう・・・」
確か、幾らか家に食べ物があったはずだ。
「カカシ先生が帰ってきたら何とかなる・・・はず・・・」
給料が戻ってくれば大丈夫。
大丈夫なんだけど。
イルカは胸は複雑だった。



カカシ先生は任務が大変で帰ってこれないのに。
命の危険があるかもしれないのに。
もしかして、今まさに命が危険にさらされているかもしれないのに。
「俺って金のことばっかり・・・」
お金は大事だけど。
お金がないと生活できないけれど。
でも、何より。
生きていることが一番だ。
お金にこだわっている自分が、ひどく小さく浅ましく思えた。
カカシの命の心配より目先の金か、とか。
だが、現実は厳しい。
お金がなければ生活できない。
「ああ、どうしたらいいんだ・・・」
銀行からアカデミーまで、とぼとぼ歩く。
「はあ」
重苦しい溜め息が零れる。
お金のことばかり考えている自分が嫌になってしまう。
「はあ」
また、溜め息が出る。
「カカシ先生」
どこにいるかもしれないカカシの名を呼んでみる。
「どこにいるのかなあ」
カカシが、いつ任務を終えて帰還するのかイルカには解らない。
「カカシ、先生・・・」
「はい、ここにいますよ〜」
俯いて歩いてイルカの前に影が下りた。
その声に、はっとして顔を上げるとカカシがいた。
「遅くなってごめんね、イルカ先生」
「カ、カカシ先生っ!」
「謝りたくて一番に会いに来たんだけど」
がくっとカカシが膝を突いた。
「約束・・・守れなかった・・・」
カカシの足元には血溜まりが出来ている。
手で押さえている腹から夥しい血が流れていた。
カカシはその場で意識を失ったのか、体が傾いていく。
地面にぶつかる前に、辛うじてイルカがカカシの体を受け止めたけれども。
「カカシ先生・・・」
呆然としていたイルカは、はっとすると急いで式を飛ばす。
カカシが負傷して帰還、至急医療班求むと。




春の嵐4
春の嵐6


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