春の嵐2
太陽の光が眩しい朝。
カカシは最悪な気分で目が覚めた。
「あったま、いたー・・・」
頭の中で、割れ鐘を鳴らしているような音がする。
それ即ち、ぐわあんぐわあんと。
頭が痛い。
何だか知らないが、くらくらとした。
脱ぎ捨てたのか、昨日、着ていたと思われる服が散乱していた。
何故か、ベストだけは律儀にハンガーに掛かっている。
「酔っ払いの行動って解らないなあ」
自分のことで苦笑するカカシ。
「うわ、すごい匂いだ」
体中から酒とタバコの匂いがする。
おまけに髪からも。
「とりあえず・・・」
カカシは風呂場へと向かった。
匂いを消すために。
シャワーを浴びて、さっぱりとしたカカシは冷蔵庫から冷やしてあった茶を取り出し、コップに注いで一気に飲み干した。
生き返ったような気がした。
もう一杯と立て続けに飲む。
体が潤うのが解る。
「ふうー」
体の力を抜いたカカシは、徐々に昨夜の出来事を思い出していた。
頭痛も治まり、すっきりとしている。
「ええと、昨日は・・・」
こめかみを押さえたカカシは考える。
「夕方、イルカ先生と誘ったら断れて」
そのことは鮮明に覚えていた。
何度もイルカを誘っているのだが、一向にオッケーが貰えない。
カカシの誘いに乗ってくれないのだ。
仕事が忙しいのもあるが、知り合って日が浅いのも関係があるかもしれない。
イルカ先生と仲良くしたいのに。
イルカ先生と仲良くなりたいのに。
里に戻ってきてから、指導する下忍の子供たちを通してイルカと知り合ったのだがイルカと初めて会ったカカシは、ぴんときた。
この人だ!
運命の人!
俺の愛する人!
イルカはカカシの理想の人だった。
いや、理想以上の人だった。
知れば知るほど惹かれていく。
同性とか男同士だとか、どうでも良かった。
そんなことは些細な事柄だ。
ただただ、イルカに魅了される。
カカシのイルカを見る瞳には、よーく見るとハートマークが浮かんでいるかもしれない。
はっきり言って、一目惚れだと思う。
一目惚れ以外の何物でもない。
「イルカ先生」
イルカの顔を思い浮かべカカシは朝から、にんまりとしてしまう。
イルカの笑顔はカカシの活力源だ。
「はあ、イルカ先生と仲良くなりたいなあ」
それがカカシの今の願いになっている。
「今日も誘ってみようかな・・・」
また断れるかもしれないけれど。
それでも、めげずに誘っている。
イルカに断れた昨日は結局、紅、アスマと飲みに行き、紅に度数の強い酒を飲まされて酔ってしまった。
下忍の子供たちとの任務を通常とおり終えるとカカシは受付所に向かった。
報告書を出すためだが、うきうきしてしまう。
受付所に行けばイルカに会える。
イルカがいない日もあるけれど、イルカがいればイルカに報告書を提出して、二言三言言葉を交わせる。
座っているイルカがカカシを見上げてくる顔が好きだった。
上目遣いの視線は心が、ざわつく。
なんだか、告白されるような感じで。
勝手に、そんなことを考えてカカシは一人で、どきどきしていた。
そしてイルカに「お疲れさまでした」と微笑まれると、どきどきは頂点に達し。
顔には一切出なかったが、心の中ではイルカ先生、可愛いと思っていたりする。
そんなこんなでカカシはイルカに報告書を提出した。
「これ、お願いします」
「はい、承ります」
・・・あれ?
最初から違和感を感じた。
イルカの口調が固い。
いつもは口元に微笑を湛えて、穏やかな雰囲気を漂わせているのに。
この日は違った。
今日のイルカは違っていた。
雰囲気は、どちらかというと尖っている。
とげとげしているというのが正しい。
・・・イルカ先生、何かあったのかな?
体調でも悪いのだろうか。
カカシが心配していると報告書を見終わったイルカが言葉を発した。
「結構です、お疲れさまでした」
言葉は、いつもと同じなのに冷たく感じる。
一度も目を合わせてくれない。
「あの、イルカ先生」
うろたえたカカシは思わず、イルカに話しかけた。
「はい、何でしょう?」
カカシを見るイルカの目には何の感情もない。
ひゅうう〜とイルカから冷たい北風が吹いてきそうな勢いである。
部屋の中なのに凍えそうな。
「ええと、ええとですね」
こんなイルカは初めてで、こんな対応をされたのも初めてだったので、どうしていいか解らない。
「あのですね」
カカシは必死で言葉を繋げた。
「昨日は駄目でしたけど、今日・・・。今日の予定は?食事にでも」
言いかけたところでイルカに遮られる。
「外で食べる気分じゃないので」
「あ・・・。そうですか・・・」
「そうです」
「じゃ、じゃあ、これで」
イルカはカカシと話す気は全くなさそうであった。
取り付く島もない。
すごすごとカカシは受付所を後にした。
「イルカ先生・・・」
不機嫌だったな・・・。
いつも明るいイルカが、あれほど不機嫌になるのは何か理由があるのかもしれない。
とっても重大な理由が。
「なんだろう?まさか、俺じゃあないよな〜」
特に思い当たることがない。
強いて言えばイルカを毎回毎回、懲りずに誘っている点。
「でも、強制しているわけじゃないし」
イルカが断りやすいように丁寧に接しているつもりだ。
それでも上忍に誘われることがプレッシャーになっていたのかもしれない。
「気をつけないとなあ」
せっかく、イルカと知り合いになれたのだから、それ以上の関係になりたい。
「うーん」
考えたカカシはイルカの言葉で思い至った。
「イルカ先生、外で食べる気分じゃないって言っていたな」
と言うことは・・・。
「外食が余り好きじゃない?」
それはあり得ることだ。
「じゃあさー」
カカシは閃いた。
「俺んちにお誘いすればよくない?」
カカシの家にお招きするのだ。
「それだったらイルカ先生、いいって言ってくれるかも」
美味しいお酒と美味しい摘みと用意して。
なんだか、わくわくしてくる。
「俺の家だったら誰にも邪魔されないし、イルカ先生も寛げるんじゃないの?」
受付所でイルカに冷たくされたことも忘れて、どこまでも前向きなカカシであった。
春の嵐1
春の嵐3
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