AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


春の嵐1



夕方。
受付所が混む時間帯、イルカは誘われた。
「イルカ先生」
「はい」
見上げると、そこにはカカシ。
イルカがアカデミーで教えていた子供たちの現在の上忍師。
とても気のいい人で、立派な忍者だ。
イルカは尊敬した。
子供たちを通じて知り合ったのだが、イルカにも親しく声を掛けてくれている。
「はい、カカシ先生」
見上げて微笑むをカカシは、がしがしと頭を掻いた。
出ている左目の目元が、ほんのりと色づいている。
「あの、ですね」
「はい」
口元に笑みを浮かべたまま、イルカはカカシが言うのを待つ。
「えっと、イルカ先生」
カカシは、よくイルカの前で口ごもることが多い。
何かを言い難そうにしていて、言葉を発するのに時間が掛かることが多々あった。
消極的なのかもしれない。
照れ屋なんだなあ〜。
上忍なのに可愛いなあ、とイルカは、ほのぼのしてしまう。
「今夜なんですけど、もしよかったら」
カカシが、ぐぐっと身を乗り出してきた。
「飲みに行きませんか?アスマと紅も来るんで、それで」
飲みのお誘いだった。
カカシは中忍のイルカを気さくに誘ってくれて。
今日だけではなく、先週も先々週も先々先週も誘ってくれていた。
少なくとも週に一回はお誘いの声が掛かっている。
だけども。
「すみません」
イルカは申し訳なさそうに眉を下げた。
「今日は受付の仕事が深夜零時までなので」
「そうですか・・・」
明らかに、がっかりしたカカシは肩を、がっくりと落とした。
「そしたら、また誘いますね」
とぼとぼと受付所を出て行った。



その後姿を見送ってイルカは悪いことをしたと思いつつ、上忍てすごいなあと感心していた。
だって週一で飲み会だろ?
よくお金が続くと思う。
カカシに誘われているものの、飲み会には仕事の都合で一度も参加したことがなかった。
紅先生、すごい飲むって言うし。
紅とはカカシと同じ上忍師のくの一で豪快な酒豪だと噂されている。
それに・・・。
上忍ってメチャクチャ酒が強いと聞く。
俺ごときが、その飲みに到底、ついているとは思わないんだよなあ。
飲みに行くのが、ちょっと怖い。
そのうち、行くかもしれないけれど。
その時は覚悟を決めて朝まででも飲みに付き合おう。
まあ、それは置いといて。
今日は、あの日だ。
イルカは、つい、にやっとしてしまう顔を慌てて引き締めた。
給料日!
待ちに待った一ヶ月に一度の給料日だった。
心も懐もあったかくなる給料日。
アカデミーの教師が主な仕事のイルカの給料は一ヶ月に一度の固定給だ。
任務を引き受けたときの報酬とは別に。
給料〜給料〜。
イルカは、とても浮かれていた。



「じゃあ、お先に〜」
深夜零時を過ぎたくらいに受付所を後にした。
ベストの内ポケットに、しっかり給料を入れて。
受付所のある建物の外に出ると、ひゅーと冷たい風が耳元を通り抜けていった。
「さむ〜」
両肩を抱くと体に震えがくる。
もう三月になったいうのに風が冷たい。
空気も凍っている。
「春はまだかなあ」
見上げると星空が見えた。
空気が澄んでいるのか、きらきらと輝いている。
「早く家に帰ろ」
家路を急ぐ。
家路の半分まで来た頃であろうか。
イルカが行く道に、ゆらりと影が見えた。
月明かりに照らされて影が長く伸びている。
まるで、この世のものはないように。
「・・・ゆ、幽霊?」
怖い話が滅法苦手なイルカは身を竦ませる。
「・・・べ、別の道で帰ろうから」
後退ると影がイルカに近づいてきた。
一歩、一歩、ゆっくりと歩を進めてくる。
「・・・こ、こっち来ないで」
本当に幽霊なのだろうか。
恐怖のあまり、立ちすくんで動けないイルカは影に捕まってしまった。



影は、ひどく酒の匂いがした。
体中から匂いを発している。
しかもイルカよりも僅かに長身で、がたいがいい。
がたいがいいのは背後から腕を回されて、捕らえられたときに気がついた。
「ふっふっふっ」
影は笑って後ろからイルカを覗き込む。
「イルカせんせ〜、みーっけ」
カカシだった。
「カ、カカシ先生!」
確かカカシは今日、同じ上忍師と飲み会に行っているはず。
「ど、どうして、ここに?」
カカシは酩酊状態だった。
顔色は暗くて、よく見ることができないが足取りが覚束ない。
ふらふらとしている。
なのにイルカを拘束する力は強かった。
さすが、上忍といったところか。
「イルカせんせ〜がいないから、探しに来たんだ〜よ」
後ろから寄りかかられてイルカは、ふらつく。
カカシは一人で立っていられないくらい酔っているのか。
「カカシ先生、大丈夫ですか?」
転ばないように踏ん張っているとカカシの手がイルカのベストのジッパーに辿り着いた。
「あっついから、イルカせんせ〜、これ脱いだら?」
「あ、暑いのはカカシ先生でしょう?」
酒を飲むと一時的に体温が上昇したりする。
後ろから覆いかぶさってくるカカシの体温は高めだ。
しかし、カカシはイルカの話なんて聞いちゃいなかった。
完全に酔っ払いだ。
「ふんふんふん〜」
知らない曲を口ずさみながらイルカのベストのジッパーを、ジャーッと下ろす。
下ろしてベストの前を広げた。
「ちょっ、あの」
イルカは酒を飲んでないので体温は上がってないし、風は冷たい。
「さ、寒いのでやめてください」
カカシの手を解こうとするのだが、びくともしない。
開いたベストの中に手を入れるとカカシはイルカの黒い忍服の上から、さわさわとイルカの上半身に手を這わせた。
「ん〜、イルカせんせ〜は気持ちいいですねえ」
やたら、ご機嫌だ。
「く、くすぐったいです、それに寒いですし」
やめて、と言ったイルカは、あることに気がついた。
「カカシ先生、ベストの肩のところが破れていますよ」
カカシのベストの肩口が見えたのだが、布地が裂けていた。
「ああ、これは〜引っ掛けて〜」
酒を飲んで酔っ払って、どこかに引っ掛けたらしい。
どんだけ飲んだんだ?とイルカが慄いているとカカシが気配で、にやっと笑ったのが解った。
「いい〜もの、み〜つけた〜」
すっとイルカのベストの内側から引き抜かれたのは、イルカの給料袋だった。
一ヶ月の給料が入ったイルカの大事なもの。
「あ、それは・・・」
お金がないと生活に困る。
「これは〜、イルカせんせ〜の大事なもの?」
「そ、そうです、返してください」
「や〜だ」
言ったカカシは、ひらりとイルカの前に出た。
「イルカせんせ〜の大事なものなら人質に取っておきま〜す」
「・・・は?」
イルカの給料袋をカカシは自らのベストの内ポケットに仕舞った。
「じゃあね〜、イルカせんせい〜」
強い風が吹いてきて、とっさにイルカは目を閉じた。
風が収まって目を開けたときには、そこにカカシの姿はなく。
イルカの給料とともにカカシは消え去っていた。
「な、なんだ、なんだ?」
何が起こったんだと頭の中で整理するのに時間が掛かる。
「何、今のって・・・」
簡単に言えば、酔っ払ったカカシがイルカの給料を持ち去ったのだ。
それが給料かどうか知っていたかは判らないが。
カカシがイルカの給料を持っていったのは事実だ。
「俺の・・・」
イルカは星空の下、叫んでいた。
「俺の給料返せー!」
返事はなかった。



春の嵐2



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