春雷
アカデミーの先生となったイルカは心配していた教え子たちが無事に下忍になることが出来て喜んでいた。
そして、その教え子たちの指導をしている上忍のことを聞いて、どきりとした。
はたけカカシ。
十年前にイルカの目の前に突如現れて、突如いなくなってしまった。
会った期間は春の間だけ。
まるで春風のような人だった。
「あ・・・」
別れてから初めてカカシを見た時、イルカは言葉を失った。
カカシさんだ。
別れた時より精悍な顔つきになったカカシが、そこにいた。
大人びた雰囲気が大人そのものになっておりカカシを見たイルカは不覚にも、どきどきしてしまった。
カカシさん、格好いい・・・。
手に持っていた本は相変わらずだったが、そこがカカシらしいと言えばカカシらしい。
カカシはイルカの下忍になった教え子を担当する上忍師として里に戻ってきていた。
教え子という接点があればカカシを話をする機会があるかもしれない。
今は里に戻ってきたばかりで忙しそうなカカシであったがイルカはカカシと会って話が出来るのを密かに待ちわびていたのである。
やっと、その時が来た時、イルカの期待は無常にも打ち砕かれた。
カカシと再会して顔を合わせた時。
イルカは、カカシさんと呼びそうになったのだがカカシの目に怖気づいてしまった。
イルカを見つめてくるカカシの目。
隙がなく鋭く、冷たい光を放っている。
里を離れている間、通算十年間もカカシとイルカは顔を会っていない。
名乗ろうとしてイルカは躊躇った。
カカシさん、もしかして。
暗雲のような不安がわき上がる。
俺のこと忘れてしまったのかも・・・。
だからイルカは呼べなかった、カカシの名を。
代わりに口から出たのは「初めまして」という言葉。
「初めまして、はたけ上忍」
カカシのことをそう呼んだ。
「初めまして・・・」
イルカが挨拶をするとカカシはイルカを見て頷いた。
何も言わない。
「はたけ上忍」と呼ぶと、また頷く。
イルカが簡単に自己紹介するとカカシは、ただ一言だけ言った。
「よろしくね」
再会して聞いたカカシの言葉は、ただ一言だけだった。
カカシと別れてからイルカは実感した。
やっぱりカカシさん・・・。
胸が締め付けられる。
俺のこと忘れてしまったんだな。
十年間も離れていれば環境も変わるし考えも変わる。
それは仕方がないことだと分かっていても、すぐに割り切れるものではない。
イルカの思い出の中のカカシは優しくて。
そのカカシはいなくなってしまったのだった。
久しぶりに教え子に会いイルカは一緒にラーメンを食べていた。
ラーメンはイルカの好物で教え子の好物でもある。
熱々のラーメンを食べながらイルカは教え子に近況を聞いた。
「元気にやっているのか?」
「もちろんだってば!」
教え子はラーメンを頬張りながら元気に答える。
他の教え子のことも聞いた時イルカは、ふとカカシの顔を思い浮かべた。
挨拶以来、会っていないが元気だろうか?
里に戻ってきて何をしているのだろうか?
未練がましく気に掛かる。
だが意外なことに教え子の方からカカシの名前が飛び出てきた。
「カカシ先生ってば、なーんか変だってば」
「変?」
カカシの名前にイルカは反応してしまう。
「そうだってば」と教え子は頷く。
「なんか知んないけどイルカ先生のことを根掘り葉掘り聞いてくるんだってばよ」
「俺のことを?」
ラーメンを食べるイルカの箸が止まる。
本当に意外だった。
「それって本当か?」
「そうだってば」
教え子は言う。
「すっごくイルカ先生のことを聞かれて、どこに住んでいるのかとか好きな食べ物とか色んなこと」
「そ、うか」
思わず動揺してしまったが、それとなくイルカは隠した。
「そうそう、挙句の果てには好きな人とか付き合っている人とかいるのかって訊いてきたってば、カカシ先生」
ラーメンを食べ終わった教え子はイルカの顔を覗き込んだ。
「イルカ先生ってカカシ先生と前からの知り合いなの?」
知り合い・・・。
知り合い以上の関係であったはずだったのだが。
イルカは教え子の頭を撫でると苦笑した。
「知り合いじゃないよ」
そう、総ては過去のこと。
もう終わってしまったことなのだとイルカは思うことにした。
家に帰って一人になると急激に寂しさが押し寄せてくる。
ばさりとベストを床に脱ぎ捨ててイルカは呟いた。
「カカシさん・・・」
後に続く言葉は自分でも恨みがましいと思ってしまう言葉だった。
「カカシさんの馬鹿・・・」
不意に、むしゃくしゃして額宛も放り投げる。
「俺は、ずっと待っていたのに」
別れる時に待っていて、と言われたから待っていたのに。
自分だけ約束を律儀に守っていて馬鹿みたいだ。
イルカは自嘲した。
別れ際にしたの何だったのか・・・。
痛烈にカカシのキスが思い出される。
「カカシさん、俺のことを忘れるなんて」
ぐっと、こみ上げてきたものを堪えた時だった。
「忘れてない〜よ」
のんびりした声がした。
はっとしたイルカが振り返ると。
そこにカカシが立っていた。
春恋4
春雷2
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