春雷2
目の前のイルカは大きく目を見開き、カカシを凝視している。
本物のイルカが、そこにいた。
ここはイルカの家でイルカの部屋で、ここにはカカシとイルカの二人きりだ。
遠慮はいらない。
勝手にイルカの家に入ってきてしまったのは反省するけど、とカカシは思ったのだが。
そこまでだった。
後は感情の赴くままに行動した。
だってイルカにとっても会いたかったから。
会いたくて堪らなかったから。
「イルカ、会いたかった」
そう言って目の前のイルカを、ぎゅっと抱きしめた。
抱きしめたイルカの体からは、ほんのりと体温が伝わってくる。
夢にまで見たイルカの体のあたたかさだった。
別れてから今日、会う日まで忘れたことはなかった。
「イルカ・・・」
ぎゅううっと一層、強く抱きしめてイルカのあたたかさを堪能する。
カカシに抱きしめられたイルカは身動ぎもせず、されるがままであった。
大人しくカカシの腕の中に収まっている。
抱きしめたイルカの肩に顔を埋めて、ついでにイルカの匂いにも、うっとりとした。
カカシは、とってもとっても満足で。
とってもとっても幸せを感じていた。
「え、ちょっと待って・・・」
ようやくイルカが声を発した。
戸惑っているようである。
「なんで、カカシさんがここに?」
訳が分からないという風にカカシを見上げてきた。
黒い瞳は別れた時のままだった。
「なんでって恋人の家の来るのが、そんなに変?」
「こ、こいびと?」
イルカは、びっくりしている。
驚きの言葉を放った。
「俺たち、いつ恋人になったんですか?」
本当に驚いているのにカカシの方が驚いた。
「え、恋人でしょ?」
カカシとイルカは見つめ合い、次いで胸に思っていたことが溢れたのか質問が次々に飛び出した。
「再会した時、なんでカカシさん、あんなに怖かったんですか!俺のこと怖い目で見て・・・」
「任務中、イルカのことだけ考えていたのに、この仕打ちって。俺たち恋人でしょう、どう考えても」
「俺が挨拶したら当たり前のように頷いて、よろしくねって言っていたじゃないですか?」
「イルカこそ、どうして再会したのに初めまして、なんて言ったの?俺は思わず頷いただけです」
「俺、ずっと待っていたのに。カカシさん、俺のこと忘れてしまったんでしょう?」
「忘れる訳ないじゃない!そう思う方が逆に不思議だ〜よ」
「別れて十年、カカシさん、好きな人出来たんじゃないですか・・・」
「好きな人はイルカだけです、イルカしかいないよ」
「俺だってカカシさんのこと好き・・・」
そこで二人は、はっとしたように言葉を詰まらせた。
イルカは自分の言葉に赤くなっている。
口元に手を当てると身を捩ってカカシの腕から逃げようとした。
だが、そんなことをさせるカカシではない。
イルカを逃がさなかった。
「ちょっと今の!もう一回、言ってよ」
もう一度、イルカの口から聞きたくて強請ってみる。
「え、えと、俺、そんなつもりじゃなくて」
イルカは、しどろもどろに言う。
「じゃあ、どんなつもりなの?」
問い詰めるとイルカは観念したように俯いた。
「カカシさんのことが・・・」
小さな声が聞こえる。
「俺のことが?」
先を促すようにカカシは優しい声を出す。
イルカの言葉、一つ一つが胸に沁み込んでくる。
「好き、です」
とうとうイルカは、ぽつりと呟いた。
「俺も好きだよ、イルカのことが」
にっこりと笑ったカカシの顔の覆面は下ろされていた。
カカシの笑った顔に見蕩れていると顔が近づいてきて。
自然のままに唇と唇が触れる。
目を開いたままだったイルカにカカシは囁いた。
「キスの時は目を閉じて」
イルカの目が閉じられたのを見たカカシは己も目を閉じて。
十年ぶりに再会したイルカにキスをしたのだった。
長々と十年分のキスが終わった後にイルカはカカシに問い質した。
カカシは腕の中にイルカを閉じ込めて離そうとしない。
二人はくっ付いたまま座って話をしている。
「どうして再会した時、あんなに怖かったんですか」
「俺?怖かったかなあ。これでもか、と情熱を込めてイルカを見ていたんだけど」
「すごく怖かったですよ。俺のこと初めて会うみたいな目で」
「ふーん、で、イルカは『初めまして』なんて言ったの?」
イルカは「そうです」と肯定した。
「俺は初めまして、と言われてショックで、一言しか言えなかった」
それがカカシのよろしくね、らしい。
「俺のこと忘れてしまったと思っていたのにナルトに俺のこと訊いていたって聞いて」
「それは、だって気になるじゃないの。俺の知らない十年間、イルカが何をしていたのか、ちょっとでも知りたかったんだもん」
「そうですか・・・」
いからせていた肩を落として、ほうっとイルカは息を吐き出した。
安心したような顔になる。
「カカシさん、俺のこと覚えていてくれたんですね?」
「あったりまえでしょ」
隙を見てカカシはイルカの頬にキスをした。
「離れていた間、イルカのことだけ想っていて。ああ、これが恋なのね〜って思っていたんだよ」
離れるほどに恋する心は強くなる、とカカシは見解を述べる。
「別れ際にイルカとキスして本当に良かったよ」
「え、なんでですか?」
「くじけそうになるとイルカとのキスを思い出して里に帰らなくちゃと何回も思ったんだよ〜ね。里に帰ってイルカと、またキスしなくちゃって」
それがカカシの心の支えだったのだ。
「俺だって」
イルカはカカシを優しい瞳で見る。
「里にいましたけど、いつもカカシさんの無事を祈っていました。いつ帰ってくるのかなあって、そればっかり考えて」
「帰ってきたらイルカが先生になっていて、びっくりしたよ」
カカシが楽しそうに笑う。
「イルカ先生なんだね」
嬉しげにイルカを先生と呼んだ。
十年間、離れている間、カカシはイルカへの想いが募って、これが恋だと自覚した。
そして恋だと自覚したと同時にキスしたイルカはカカシの中では恋人だと確定したのだ。
「勝手ですね」とイルカは苦笑する。
「だって好きだから」と唇を尖らせたカカシはイルカに尋ねた。
「イルカは?イルカは初めてキスした人と結婚したいって。男同士、結婚は無理だけど一生、一緒にいることは出来るよ」
初めて会ってキスした際にイルカの言ったことを覚えていたのだ。
カカシは真剣だった。
「俺はイルカと一生、一緒にいたい」
「俺もです」
幸せそうにイルカは笑う。
「カカシさんと、もう離れたくありません」
惹かれあうように二人は固く抱き合って。
初恋を成就させたのであった。
終わり
春雷
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