黄金律3
イルカがいなくなる・・・。
そんなことは想像したことがないし、想像できない。
考えられないことだ。
カカシは呆然としていた。
腕の中の動かないイルカを、どのくらいの時間、見つめていたのか分からない。
時間など感じられなかった。
イルカがいないのなら、生きていても意味がない。
そんなことが頭に浮かんだ。
好きで好きで、大好きな人と、もう会えない。
イルカを好きになった切っ掛けは何だったか思い出せないが、気がついたら自分の気持ちの中に、イルカが好きだという感情があった。
同じ同性なのに。
自分がおかしいのかと思って、何度か、イルカを好きだという気持ちを否定しようとしたのだが無理だった。
そんなことをすればするほど、イルカへの想いは強くなる。
イルカに会って言葉を交わし、笑顔を見る度に益々、好きになっていったのだ。
呆然としていたカカシの目に、イルカの胸から抜いた剣が映った。
さっきは急いでいたので、その辺に放り投げていたのだ。
カカシは腕の中のイルカを地面に、そっと横たえると落ちていた剣を拾った。
死ぬのならイルカを同じ剣で死にたい。
もう死んでしまいたい。
覚悟を決めたカカシは、もう一度、イルカを腕の中に抱き寄せた。
イルカの傍で死ねる。
カカシは不思議なほど落ち着いていた。
穏やかな笑いが込み上げる。
自分の血かイルカの血か分からないが、血の着いた手でイルカの頬を撫で、唇をなぞり、そして、そっとキスをした。
会いに行きますから。
違う場所で、また会いましょう。
剣を左胸に当て、カカシの目は閉じられた。
「・・・・・・・・・ん。」
カカシは、はっと目を開けた。
微かに声がしたのだ。
イルカの声だ。
そんなはずはない、とカカシは半信半疑で腕の中のイルカを見た。
瞼がひくひくと動き、睫が小さく震えている。
まさか・・・まさか・・・。
「イルカさん?」
カカシが緊張しながら呼びかけると、イルカの手の先がぴくりと動いた。
「イルカさん!」
少し大きな声で名を呼んだ。
死んだはずのイルカの目が、薄っすらと開いた。
「イルカさんっ!」
カカシの呼びかけにイルカは反応する。
「・・・・・・さん?」
目の前のカカシを見止めてカカシの名を呼んだようだ。
声がしゃがれて、ひどく苦しそうだった。
「水・・・飲みたい。喉が・・・からからで・・・。」
そう訴える。
イルカが生き返った!
カカシは考えるよりも早く行動を起こした。
「水!水ですね、今すぐに。」
イルカを抱え上げたカカシは自分の家に向かって全力で走った。
ぼうっとしたイルカが目を開けると、そこは見たことがある部屋だった。
何回か訪れたことのあるカカシの部屋である。
「え、どうして。」
意識が、はっきりと覚醒しカカシのベッドから起き上がったイルカは部屋の中を見渡した。
どうして、ここに?
確か自分は死んだはずじゃ・・・。
何が何だか分からずイルカの頭は、こんがらがる。
「イルカさんっ!」
そこへ飛び込んできたのは、この部屋の主のカカシだった。
目を覚ましたイルカを、ひしと抱きしめた。
「よかった・・・。よかった、生き返ったと思ったけど、目が覚めるまで確信が持てなかったから、俺、不安で不安で。」
「カカシ、さん?」
「イルカさん、・・・イルカさん。」
「・・・カカシさん、泣いているんですか?」
カカシはイルカを抱きしめ、顔を伏せているが体を震わせ咽び泣いていた。
「嬉しいんだから泣いたっていいでしょう。」
その言葉に胸が痛くなったイルカは、カカシの背中に自分の腕を回して抱きしめ返した。
状況は、よく分からないが、素直に言葉が出る。
「ごめんなさい、心配かけて。」
自分のことを想って泣いてくれるカカシに心があったかくなる。
カカシがいてくれて嬉しい。
「カカシさん、ありがとう。」
カカシに感謝した。
「ところで、あの。」
未だ自分を抱きしめて離さないカカシにイルカは、恐る恐る質問した。
「いったい、なぜ、俺はここにいるんでしょうか。・・・俺、死んだはずですよね?」
カカシは抱きしめたまま、イルカが死んだ時の状況を説明した。
説明を聞いたイルカの眉が跳ね上がった。
「カカシさん、死のうとしたんですか?」
突如、イルカの声が低く暗くなる。
「なんで、そんな馬鹿なこと・・・。」
唇を強く噛んだイルカは搾り出すような声で言った。
「そんな馬鹿なことしてほしくなったのに。」
「馬鹿なことって!」
イルカを抱きしめていたカカシは身を起こして、イルカの肩を掴んだ。
真正面からイルカを見据える形だ。
「どっちが馬鹿なんですか?あんなことして俺が喜ぶとでも?」
きつい視線をイルカに送る。
「俺の目の前でイルカさんが死んでいく様を見て、それでも俺に生きろとでも?」
カカシは強い口調で言い、そしてイルカを睨みつけ、きっぱりと宣言した。
「愛する人がこの世にいないならば、俺は生きていたくありません。」
きっぱりと言われて、イルカは俯いた。
「だって。・・・だって。」
小さい声で言い訳をする。
「カカシさんは人間だけれど、俺は違う。」
哀しそうな声であった。
「俺は悪魔ですよ。そもそも人間とは種族が違います。」
カカシはイルカの肩から手を離して、自分の両手でイルカの両手を包み込んだ。
そして握る。
それに力を得たのか、イルカは小さな声で話を続けた。
「俺には契約した主がいて、その主の命令は絶対で逆らえません。もし、逆らうとなれば命を代償にして償わなければいけません。そういうルールなんです。」
哀しい告白であった。
「俺は一度死んでしまったから、主との契約は切れたと思いますが、生き返ったことが知れたら・・・。」
イルカの眉間に深く皺が寄った。
辛そうに顔が歪む。
カカシが握っていたイルカの手が、微かに震え瞳も揺れる。
「大丈夫ですよ。」
カカシは明るく言って、笑顔になった。
「二人でいれば、どうにかなります。一番の問題は、俺とイルカさんが離れ離れにならないということです。」
イルカを引き寄せ背をゆっくりと撫でれば、イルカの震えは収まってくる。
カカシの胸にイルカは力を抜いて寄りかかった。
小さく溜め息をつく。
「結局、ここが俺の一番安心する場所なんですね。生き返れて、またカカシさんに会えてよかったです。」
イルカが本心を吐き出すと、それを聞いたカカシは破顔した。
「好きです、イルカさん。」
やっと気持ちを伝えたカカシは、ぎゅっとイルカを抱きしめた。
黄金律2
黄金律4
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