黄金律4
「ところで、イルカさんは、どうして生き返れたんでしょう?」
落ち着くとカカシは逆にイルカに質問した。
イルカは目を閉じて少し考えていたようだったが、やがて目を開いた。
「今、俺の体の中を視てみたんたんですが、まだ魔力が残っているようです。だから。」
つ、と右手の人差し指を立てるとカカシの額に当て「サーチさせてください。」と断りを入れてきた。
「サーチって?」
「カカシさんの頭の中を、すこうしだけ覗かせてください。」
特に俺が死ぬ場面のところを探査したいのです、と説明する。
「そうしたら何か分かるかもしれません。」
カカシの了承を得るとイルカの指先に、ぽうっと光りが点り、それに伴ってカカシの体も白く発光した。
「なるほど。」とイルカは難しい顔をして頷くと、今度は自分の額にも人差し指を当てる。
カカシと同じくイルカの体も白く発光した。
ぱた、とイルカの手が力なく投げ出された。
サーチが終わったらしい。
「・・・嘘。」
力なく呟く。
次に小さく叫んだ。
「うっそお!本当に!」
イルカは、見る見るうちに青ざめていく。
「どうしたの?イルカさん。」
カカシが心配してイルカを覗き込むと、イルカは目を見開いてカカシに、くわっと迫ってきた。
「カカシさん!」
「な、なに?」
「大変なことになっているじゃないですか!」
「だから、何が?」
「とんでもないことになっています。どうしよう・・・。」
「あの、説明してくださいよ。イルカ先生。」
カカシは、そう言ったのだが、イルカは聞いていないのか遠い目をしている。
「・・・俺。俺は、もう悪魔じゃなくなっている。それはいい、いいけど・・・。でも天使でもないし、人間でもないじゃん。」
「イルカさん?」
カカシはイルカの目の前で手を、ひらひらとさせてみるが反応はない。
「じゃ、俺、半陰半陽ってことか。・・・いや、形は男だ。でも形じゃなくて。」
何やら憑かれたように独り言を言っている。
「ちょっとイルカさん。俺にも解るように言ってよ。」
カカシはイルカの様子が心配で、そして話に置いていかれるのが嫌でイルカの肩を揺すってみた。
イルカは虚ろな目をカカシに向ける。
やっと自分の方を向いたイルカにカカシは、額をくっ付けて、しっかり目を見て言った。
「イルカさん、一人で悩まないで。俺にも教えて。ね、どうしたの?」
優しい声で落ち着かせるようにして聞く。
「一人じゃないでしょ?俺がいるんだから。」
「・・・カカシさん。」
「ね?」
イルカは、やっと本当にカカシを見て、こくりと頷いた。
小さな声で話し出す。
「まず、最初に俺がカカシさんに授けた守護の印を確認したら、ちゃんと発動していました。だから、俺が一度、死んだことは確かです。」
カカシは、その時のことを思い出して、ぎゅっと胸が押し潰されるように痛くなった。
不安になってイルカを抱き寄せる。
どこかに行ってしまわないように。
イルカは腕の中に大人しく収まった。
「確かに死んだはずなのに俺は生き返りました。それは、おそらく、カカシさんの体液が俺の体に流れ込んだからです。」
イルカは、そっとカカシの手を触った。
「俺に刺さった剣を抜く時に、自分が傷つくのも構わずに抜いてくれましたね。」
愛おしそうにカカシの傷ついた指先をなぞる。
「その時、カカシさんの指先から流れ出た血液が俺の体内に入ったのでしょう。だから俺は生き返れた。」
黒い瞳がカカシを優しく見る。
「黄金律の血には、その力がありますから。」
「そっか。」
そういえば、あの時はイルカの止血に夢中で自分の怪我のことなんて忘れていた。
そうだったのか、とカカシは少し納得する。
「だから、俺は生き返ったのですが・・・。」
イルカの歯切れが悪くなった。
「黄金律の副作用なのか、俺は元々の悪魔として生き返ったのではなく、かといって天使の部類でもなく、人間になったわけでもなく・・・。」
「さっき、サーチとか言って使った力は何なの?」
カカシの素朴な疑問に、はあ、とイルカは溜め息をついた。
「魔力めいたものが俺の体に残っているんです。それが何故なのか俺にも、よく分かりません。」
俺って何なんでしょう?と眉を顰めて、情けない顔でイルカはカカシを見る。
説明を聞いたカカシは、分かったような分からないような、そんな気分であった。
それに、だいたいイルカはイルカである。
何が問題なのだろう?
カカシは聞いてみた。
「もうイルカさんは、どこに行かないんだよね?ずっと人間の世界で生きていけるんでしょ。」
「そうですね。行くところがありません。」
「契約ってやつがなくなって、誰のものでもないんでしょ?」
「はい、多分。」
「今までと何か変わりがあるの?」
「えーと。」
イルカは考え考え答えた。
「体の形は死んだ時のまま、人間の男性で固定されてしまったようですし、悪魔の姿も生き返ってからはなれないでみたいですし。」
「あー、俺の家に運んできた時は、普通の姿に戻っていたよ。」
普通とは人間の男性の姿のことであろうか。
「でも。」と心配そうにするイルカにカカシは笑いかけた。
「どうにかなりますよ。」
カカシにもイルカにも分からないことはたくさんあるが、一つだけはっきりしていることがる。
「さっきも言ったけど俺はイルカさんが好きです。イルカさんは?」
「・・・・・・えっ。」
「俺のこと、好き?」
「そんな突然、言われても。」
「相思相愛だよね。」
「それは・・・あの、ですね。」
視線を彷徨わせて、はっきりしないイルカにカカシは自分の胸を指差した。
「ここが一番、安心するんでしょう?」
「えっと。」
イルカが上目遣いでカカシを見上げると、そこにはイルカだけを映しているカカシの瞳があり、それを見たイルカは観念したように告白した。
「そうです。俺、カカシさんが好きなんです。」
「やっぱりね。」
カカシは満足そうに微笑んだ。
「カカシさんを護りたかったし、誰にも取られたくなかったんです。」
誰にも、とは悪魔であった時のイルカの主のことを指しているらしい。
「じゃあ、いいじゃない。」
遠慮なくカカシはイルカを抱きしめた。
そして、大きな欠伸をする。
「あー、安心したら眠くなってきちゃった。」
カカシはイルカが死んでから目覚めるまで、ずっと起きて待っていたのだ。
それも、はらはらと緊張しながら。
イルカを抱きしめたままカカシは、ごろりとベッドに横になる。
「寝ようよ。眠い。」
「でも。」
抱え込まれたイルカは、まだ何か言おうとしていたのだが、その口をカカシに塞がれた。
口を塞がれたイルカは頬を染めて黙ってしまう。
そんなイルカをカカシは嬉しそうに見つめて目を瞑った。
「考えるのは後にしましょう。」
それから、小さな声が聞こえた。
「おやすみなさい、イルカさん。」
眠ってしまったカカシを、しばらく見ていたイルカは「おやすみなさい。」と呟いて自分も目を閉じる。
じきに、二人の寝息がベッドから聞こえてきた。
カカシとイルカの寝顔は穏やかで安らかで幸せそうであった。
終わり
黄金律3
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