fever out! 3
里の門を潜り、病院へ直行すると連絡が届いていたので、すぐにイルカを診てもらうことができた。
医者の診察は長く、診察室の前で待つカカシをイライラさせた。
「まだ?まだ、終わらないの?」
「落ち着けよ」
一緒に来た暗部はカカシを宥めた。
イルカを病院に置いたら去る予定だったが、カカシに付き合って病院にいる。
というより、苛立つカカシから目が離せないと言った方が正しいか。
苛立ちのあまり、時折、カカシの体から殺気が出ていた。
「あれだけ深い傷だ。当然、診察だけじゃなくて、治療も処置もしているだろ」
「そんなの分かっているけどさ」
イルカのいる診察室の前を行ったり来たりとカカシは忙しく歩いている。
「心配でしょうがないんだもん!」
そんなカカシを一緒に来た暗部は、診察室の前に設置された長椅子座って見ていた。
「せめて、今、どんな状況なのか教えてくれてもいいのに」
「終われば教えてくれるだろう」
「それにしたって、遅いじゃない」
「ちゃんと処置してくれているってことだろ。大人しく待て」
「・・・分かった」
一応、納得したのか、歩くのを止めて診察室の扉を、じっと見始めた。
仁王立ちして目茶苦茶、怖い目で睨んでいる。
今なら視線だけで敵が倒せそうだ。
「・・・あのなあ、カカシ」
「なによ」
「座れ」
「やだ」
「いいから」
「断る」
不毛な問答をしていると診察室の扉が、がらりと開いた。
そして医者に説明を受ける。
命に別状はない、と。
傷は綺麗に治ること、意識が回復するまで暫く時間が掛かること。
大まかに言えば、そんなところだった。
ほっとしたカカシは、大きく息を吐き出したのであった。
それから数日。
イルカの元に通うカカシの姿があった。
暗部の姿ではなく、通常の忍服を着て、顔には覆面、左目には額宛。
怪しげな格好であったが、これがカカシの通常でのスタイルだ。
意識のないイルカはうつ伏せのまま、寝ている。
包帯をぐるぐるに巻かれて。
切れた唇の端や、殴られた頬にはガーゼが当てられている。
痛々しい姿のイルカにカカシは胸を痛める。
意識のないイルカのガーゼの当てられた部分を、そっと撫でては辛そうな顔をしていた。
「こんなになっちゃって・・・」
イルカの命に別状はないと医者に告げられて、ほっとしたカカシは落ち着くと思い出した。
・・・イルカにこんなことをしたヤツラに仕返ししてやる!
息の根止めてやる!と勢い込んでいたのだが、捕らえられた賊は既に専門の機関に受け渡しが終わっており、会うことはできなかった。
「ま・・・、顔は覚えているから、次に会ったときには、さっくりばっさりヤッちゃおう」
とりあえず、そこに落ち着いた。
そして、イルカの意識が回復した。
その日もイルカの元に訪れていたカカシは病室でベッド脇にある椅子に座ってイルカの様子を見ていた。
もちろん、早くイルカが目覚めないかと、そればっかり思って。
じっとイルカの顔を見つめる毎日であったが、その日はふるふるとイルカの睫が震えたと思ったら、ゆっくりと瞼が動いたのだ。
ゆっくりと動いた瞼は徐々に上がっていく。
開いた目はカカシを見ていた。
「イルカ」
大きな声を出したくなるのを堪えて、カカシはイルカの耳元で囁いた。
「俺だよ、カカシ。分かる?」
カカシを見つめたイルカは何回か瞬きしてから微かに頷く。
「声、出せる?」
「・・・・・・はい」
掠れた声が聞こえた。
「はい、カカシさん」
イルカの声がカカシの名を呼んだ。
それから医者が呼ばれて慌しく問診や触診が行われ、イルカの意識や記憶に異常がないと確認された後、カカシとイルカは病室で二人になった。
「イルカ、大丈夫?」
どことなく、ぼーっとしているイルカにカカシは心配そうに話しかけた。
「どこも痛くない?」
「え?ああ、平気です・・・」
ベッドの上で上半身を起こしたイルカは眠そうな顔で、だるそうにしている。
「ただ・・・」
イルカが腹を擦った。
「お腹、減っていて」
「ああ、何も食べてないもんね」
意識がない間は点滴だけしかしていない。
だが意識が戻った途端、空腹を訴えるのは、さすが若いといったところか。
「食事は食べていいって言っていたよね」
ならば、次の食事の時間にはイルカの分があるに違いない。
「もう少しで食事の時間だから、飲み物で飲む?」
「あ、お願いします」
喉がからからです、とイルカは言っている。
コップに水を入れて渡すと一気に飲み干した。
何回か、お代わりをする。
「そんなに飲んで、お腹痛くならない?」
何しろ、暫くぶりに胃に入れるのだ。
胃が、びっくりしてもおかしくない。
「あー、ぜーんぜん」
水を飲んで、ふうと息を吐き出した。
「痛くないです。喉が潤いました」
ありがとうございます、とイルカは笑顔になる。
久しぶりに見るイルカの笑顔だ。
その笑顔を見てカカシは眩しそうに目を細めた。
「よかった」
イルカ、とカカシはイルカのベッドに歩み寄ると、そこに腰掛ける。
腕を伸ばして、そっとイルカを抱きしめた。
そっと抱きしめていたのだが、だんだんと込み上げくるものがあったカカシは思わず、強く抱きしめてしまった。
・・・本当によかった、生きていて。
死んでしまうかと思った時の恐怖を思い出すと、こうして自分の腕の中にイルカがいることが信じられないような気がする。
「イルカ・・・」
ぎゅーっと胸にイルカを抱き寄せると悲鳴が上がった。
「カ、カカシさん、痛い!いたたた、背中が・・・」
「あ、ごめん」
ぱっと手を離す。
そういえば、イルカは背中に深い傷を負っていた。
「いってー」
顔を顰めたイルカが辛そうにしている。
「ごめんごめん」
イルカの顔を見て背中を擦りそうになってしまう。
「背中に怪我していたんだっけね、忘れていた」
悪い、とカカシは謝った。
「お医者さんが背中の傷は深いけど、綺麗に治るって言っていたよ」
「・・・そうですか」
「うん、傷跡は残らないって」
カカシは嬉しそうにイルカに報告した。
「俺のイルカの俺の背中は元通りになるんだよ」
「あのですね」
カカシの言い方にイルカの眉が潜まる。
「なんです、それ?」
「あ、違うか」
がしがし、とカカシは頭を掻いた。
「俺のイルカの、将来的には俺のものになる背中、だよね」
にっこり笑って、カカシは訂正したのだが。
「ちっがいます!」
イルカに盛大に否定されてしまった。
「何を言っているんですか!」
「だって、そうなるんだもん」
「なりません!」
怒るイルカの顔は赤い。
そんなイルカをカカシは、にこにこしながら見ていたのだった。
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