fever out! 2
目の前のイルカを呆然と見ているカカシの肩が叩かれた。
隣にいた暗部だ。
「しっかりしろ」
口だけ動かす。
「他のやつらは配置に就いた、合図で取り押さえるから」
カカシは真っ直ぐ、イルカのところに行け、と言われた。
「分かった」
同じく、カカシも口だけ動かす。
「助けるさ」
ぽんぽん、とカカシの肩を再び、叩く。
そして、合図と同時に目の前のどこぞの忍たちは取り押さえられて、丈夫な縄で雁字搦めに、きつく縛られた。
相手が武器を構える暇もなく、一瞬も掛からない。
そんな捕り物劇など見向きもせずにカカシはイルカの元へ駆け寄った。
「イルカ・・・」
地面に横たわるイルカにカカシは手を伸ばす。
その手は、ひどく震えていて。
「カカシ、装備を外せ。イルカを傷つける」
暗部は手から肘にかけて、鋭い鉤爪が施された装甲を装備している。
「あ、うん」
イルカからは目を離さず、カカシはその装備をバリバリと剥がした。
力の加減ができないのか、外した装備に亀裂が入る。
「イルカに造血剤を飲ませるんだ」
「分かっている」
持っている荷物の中から、造血剤を探すが見つからない。
イライラして荷物をひっくり返す。
ざばっと落ちてきた中から、小瓶の一つを取ると蓋を開けた。
中に小粒の黒い錠剤が入っている。
その一つを親指と人差し指で摘むと、もう片方の手でイルカの上半身を負担の掛からぬように起こす。
横たわっていた地面には血が滲んでいる。
カカシは錠剤を飲まそうとイルカの口元に持っていくのだが、手が震えている。
ぶるぶると。
「イルカ、イルカ」
そっと名を呼ぶ。
閉じれた目が開くことはない。
「何をやっているんだ!」
馬鹿、と隣にいた暗部がカカシを叱咤する。
「意識のないものに薬を飲ますときは口移しだろうが」
「あ、ああ」
叱責した暗部はイルカの止血をしている。
他の暗部も止血を手伝っていた。
特に背中の怪我が深い。
「水を口に含んで、気道を確保して」
カカシは細かく指示される。
「やらないんだったら、俺が飲ますぞ。早くしないと死ぬぞ、本当に」
「やるよ」
暗部の面を放り投げると、常備している簡易な水筒から水を口に含み、錠剤も口に入れた。
イルカの顔を上に向けると口付ける。
薄く開いた唇に水と錠剤を流し込み、ごくりと喉が動くのを確認した。
少しだけ顔に赤みが差す。
「嚥下したか?」
「演歌?こんなときに何を言ってんの」
「歌の方がじゃない」
いつもの調子が戻ってきたようだ。
それから二回ほど同じ事を繰り返した。
「よーし、よーし」
止血を施していた暗部の一人は、ほっと息を吐いた。
「この調子なら平気だろう」
「だな、油断は禁物だが」
「とにかく怪我人を揺らさないように、慎重に急いで里に帰らないと」
安堵した顔をしている。
その中で一番、安堵していたのはカカシであった。
「イルカ・・・」
カカシの腕の中でイルカは目を閉じている。
さきほどよりは顔色は若干いいが、健康とは程遠い顔色だ。
「イルカ」
そのときだ、イルカの目がゆっくりと開いた。
「イルカ!」
大きな声を出すが、すぐさま釘を刺された。
「怪我人を驚かすな」
「分かった」
カカシはイルカの耳元に口を寄せる。
「イルカ、俺だよ。分かる?」
薄っすらとしか目は開いていない。
見えているのかも定かではなかった。
目の焦点も合っていない。
ぼんやりとしている。
意識が戻っているのか、戻ってないのか・・・。
「痛かったね、俺がいるから傍にいるから」
「か・・・」
イルカの掠れた、か細い声が聞こえた。
何かを訴えたいのか。
「カカシさんって言いたいの?」
カカシは何とかイルカの言葉を拾おうとする。
「おか・・・」
「お帰りなさいなんて今はいいから!」
「ちが・・・」
「血がいっぱい出たけど大丈夫だよ!」
カカシの声を聞いて安心したのか、薄っすらと開いていたイルカの目が閉じられた。
「さてと」
カカシを除く他の暗部たちが立ち上がった。
さくさくと指示が出る。
「俺とカカシは怪我人を最優先で里に連れて行く。誰か里に怪我人がいる旨、至急、式を飛ばしてくれ。他の者たちは捕らえた賊の処理だ」
里に連絡すれば、専門の者たちが尋問し、然るべき場所に拘束されるはずだ。
「カカシ、背負っていけるか?俺は後方につくが」
「もちろん」
止血されたイルカを揺らさぬようにカカシの背に乗せた。
「落とすなよ」
「んなわけない」
「極力揺らすな」
「分かっているよ」
「行くぞ」
「了解」
そしてイルカを背負ったカカシは里に向かった。
一刻も早くと焦りはあるが、怪我をしているイルカの体にこれ以上、負荷がかかるのは避けなければならない。
落としたりしたら一大事だ。
・・・・・・里はまだか。
背中のイルカは、ぴくりとも動かない。
体温も低く、冷たさを感じるくらいだ。
「ああ、もう」
カカシから焦燥を思わせる呟きが出た。
「里を出る前は、あんなに元気だったのに」
まさか、こんな状態のイルカを目にするとは思っても見なかった。
「どうして、こんなことに」
もしも、発見が遅れていたらイルカは死んでいたかもしれない。
イルカが死んだら・・・。
悪い考えばかりが頭に浮かぶ。
「いや、そんなことはない」
カカシは口に出して否定した。
言霊は力になると誰かが言っていたような気がする。
「イルカは助かる、また元気になる」
ぐっと唇を噛んだカカシの里の大門が目に入った。
やっと木の葉の里に到着したのだった。
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