その一言が命取り4
「イルカ先生!」
カカシは感激したようにイルカの名を呼ぶ。
「嬉しいです!実は俺、不安で不安で」
「何がです?」
イルカが不思議そうにしている。
「いえね」
がしがしとカカシが頭を掻いた。
「イルカ先生が帰ってこなかったら、どうしようって」
「え、どうして、そんなことを思うんです」
「だってですねえ」
カカシは拗ねたような口調になった。
「ほら、任務に行く前に大名の娘とやらにけ・・・」
そこでカカシは渋い顔をする。
よっぽど口に出したくないらしい。
「結婚、とかなんとか言っていたじゃないですか」
「ああ、それですか」
カカシを安心させるようにイルカは微笑んだ。
「カカシさんが心配することはありませんよ」
だって、とイルカは肩を竦めた。
「大名の娘さんは、まだ幼くて四、五歳なんですよ」と。
「な、なんだあ〜」
ほーっと深くて長い息をカカシは吐き出した。
「なんだ、そうだったのか〜」
胸に手を当てて何回も息を吸っては吐いている。
「よかった〜、本当によかった〜」
一安心していた。
「安心してください」
ぽんぽんとカカシの肩をイルカは叩いた。
「俺はカカシさんのいる場所に必ず帰ってきますから」
きっぱりと言うイルカは男らしい。
「ありがとう、イルカ先生」
カカシがイルカを見つめ、イルカもカカシを見つめ・・・。
いい雰囲気になった。
「あー、ごほごほごほ」
アスマがカカシとイルカに聞こえるように、わざとらしく咳をした。
タバコの煙を吸い込んだ風に。
「あ」とイルカは気がついた。
ここがどこか、と気がついたのだ。
この日、上忍控え室にはアスマの他にも人がいた。
その人たちは大人のマナーに則り見ない振りをしていたが。
上忍ばかりなので会話は、ばっちり聞いていたに違いない。
「えと、ですね」
急に顔が赤くなったイルカは一歩、退いた。
「俺、帰りますから」
「え〜」
カカシが悲しそうな声を出す。
「一緒に帰りましょうよ」
せっかく会えたのに〜と握っていたイルカの手を引っ張った。
「いや、いいです」
イルカは赤い顔で首を振った。
「報告も済んでいるので帰るだけなんです」
「報告が済んで真っ先に俺に会いにきてくれたんですね」
イルカの言葉にカカシの顔が、やに下がる。
「そんなんじゃありません」
違うとイルカは否定しているがカカシの言っていることは的を得ているようだった。
「俺に会いたくて早く帰って来てくれたんでしょ」
カカシが余計な一言を言う。
「ち、違いますから!」
否定すればするほど、それは肯定に繋がった。
「嬉しいなあ」
「カカシさん!」
「休みは、まだ一日残っていますからねえ」
カカシが含み笑いをする。
何を考えていたのか・・・。
アスマはイルカが不憫に思えて可哀想だった。
さっさと帰って家で二人きりにでも何でもなりゃあいいのに。
二人が帰ってくれた方がアスマには都合がいい。
背中を押すつもりでアスマは言った。
「イルカー」
「あ、はい。アスマ先生」
イルカが助け舟だとばかりにアスマを見る。
「なんですか?」
小首を傾げている様は純朴な青年を連想させた。
イルカはいいやつだよなあ、とアスマは思う。
いいやつなのにカカシと付き合っているなんて、とちらっと頭を掠める。
「昨晩はカカシと飲み明かしたぜ、朝までな」
「今朝までってことですか?」
「そうだ」
アスマは頷く。
「カカシと二人で飲んだんだがカカシが話すことはイルカのことばかりで」
「お、俺・・・」
「ああ、カカシはイルカのことを最初から最後まで話していた」
「俺の、ことだけ・・・」
「お陰でイルカのことに詳しくなっちまったぜ、俺は」
アスマは冗談のつもりで言ったのだがイルカは、そうは受け取らなかったようだ。
ぱっと顔を上げるとカカシを鋭い目で見る。
「カカシさん、何を話したんですか!」
「え、別にこれといって何も」
カカシは目を、ぱちくりとさせていた。
「どうしたんですか、イルカ先生?」
「アスマ先生が俺に詳しくなるほど何を話したんです」
イルカは話の内容が、とっても気になっているようであった。
「それは、その、あの」
カカシが弁解しようとしたのだがイルカは、わなわなと体を震わせて怒っている。
珍しい光景だった。
日頃、温和なイルカが怒っているのは。
「アスマ先生に俺のこと、さ、最初から最後まで話すなんて」
「・・・え」
「最初は俺がカカシさんを好きになったこととか、そして最後はカカシさんが告白してくれたこととか、その間の恋愛に至るまでの過程とか」
「・・・・・・え」
「なんで話してしまうんですか!」
「誤解です、イルカ先生」
「誤解だ、イルカ」
どうやらイルカは盛大に勘違いをしているようだった。
しかし誤解を解いたら解いたでイルカの顔は真っ赤になる。
自分が勝手に誤解したのだが、そのお陰で余計なことまで言ってしまった。
つまり自分で、ばらしてしまったのだ。
カカシとのことを。
居た堪れなくなってのかイルカは、ぼふんと煙を上げるとその場から消えてしまった。
逃亡してしまった。
「イルカ先生!」
カカシの伸ばした腕が空しく宙をさ迷う。
「アスマ!」
厳しい声がした。
「イルカ先生と会えたのに余計な一言、言うなって!」
それだけ言うとカカシも煙を上げて消えてしまった。
「俺が悪いのか・・・」
残されたアスマは、ぽつりと呟いた。
「俺、何かしたか」
何もしていない。
むしろ、された方だった。
「俺は、ただ・・・」
カカシがイルカのことばかり話すから。
「すっごい好きなんだろうなってことを言いたかっただけなんだがなあ」
吐き出したタバコの煙が、ひょろひょろと一本の線になったかと思うと瞬く間に消えていく。
「さてと」
アスマは立ち上がった。
自分の家に帰るためだ。
何はともあれ、今夜は家で眠れそうであった。
終わり
その一言が命取り3
その一言が命取り その後の二人
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