金の切れ目が縁の切れ目8
「あ!はたけ上忍。」
病院の入り口で腕を組み仁王立ちで待ち構えていたカカシにイルカは驚いて、一歩、引き下がった。
「ど、どうして、ここに?」
なにやら怒っているカカシの形相に慄いている。
カカシは、ちょっと怖かった。
「どうしてって。」
イルカが一歩引き下がった代わりに、カカシは一歩イルカに近づく。
「頼んだ買い物の荷物が重すぎで、イルカ一人じゃ持ち切れないだろうと思って追いかけてきたの。」
「そ、そうだったんですか。」
すみません、とイルカが謝るとカカシは「いいよ。」と首を振ってイルカを睨んだ。
「謝るのは俺の方だから。」
「え?」
「実は病院に入っていくイルカの後をつけて、病室前での話を聞いちゃったんだよね。」
怖い顔のまま、カカシは素直に白状した。
「だから、そのことについてはごめんね。」
「あ、はあ。」
口では、ごめんと言いながらカカシの態度は、とても謝っている人のようには見えない。
どちらかというと威張っているかのような態度で組んでいた手を腰に当てて、イルカを見下ろして威圧している。
「あ、あの・・・。」
カカシに謝られているはずなのに、怒られているような錯覚に陥ったイルカは腰が引けていた。
そんなイルカを見てカカシは、ふうっと息を吐いた。
イルカに怒りをぶつけても、しょうがないのだ。
そんなのはお門違いもいいところだし、とカカシは少しだけ気を鎮める。
「買い物に行こう。まだでしょ?」
「あ、はい。」
カカシに促されてイルカは、歩くカカシの横に並ぶ。
イルカは道すがら、ぽつぽつと言葉を口にした。
「さっきの話のことですけど・・・。」
カカシが何かを誤解して怒っているのかと思ったのか、イルカは理由を話し出した。
「病室前で話していたのって俺の友達で、そんで、そのあいつのお母さんが今、入院中で・・・。」
イルカは地面に視線を落として、カカシの方を向くことをしない。
自分の歩いて、地面を蹴っている爪先を一心に見詰めている。
「で、あいつのお母さん、その・・・。病気で入院費とか治療費が、すごく掛かるって。保険が利いても、それでもお金がたくさん要るって知って。あいつの家、兄弟も多いし大変で・・・。」
だから、イルカは自分の稼いだお金を丸丸、友達とやらに渡していたらしい。
友達を大切にする精神は素晴らしいが、それは自分を犠牲にしてまでやる必要があるのか。
「ば・・・。」
ばっかじゃないの、と言おうとしてカカシは止めた。
イルカの目が、ひどく思いつめたように見えたからだ。
その目を見ると言葉が出なかった。
「はたけ上忍は馬鹿だと思うかもしれませんけど。」
カカシが言おうとした言葉をイルカは、なんでもないことのように口にした。
「自分でも馬鹿だと思うことはあるけど、でも。」
一度、カカシを見て、そっと目を伏せた。
「・・・・・・俺の両親がいなくなってから一人になった俺に、あいつとあいつの家族は本当に善くしてくれて・・・。」
嬉しかった、とイルカは言葉少なに呟く。
「あの時、一人取り残された俺は、まだまだ子どもで何にもできませんでしたから。」
言い終わるとイルカはカカシを見て、振り切るように笑った。
「ね、はたけ上忍。こういう訳で俺は好んで、お金がない状況なんです。だから気になさらなくてもいいんです。」
だから、とイルカは続けた。
「だから俺は、もう、はたけ上忍の家にいる必要もない・・・。」
ですから、と言葉を続けようとしたがカカシに鋭く遮られた。
「ばっかじゃないの!」
見るとカカシが、先ほどよりも怖い目でイルカを睨んでいる。
「なっ、なんで・・・。」
イルカは、たじたじになりながら健気にカカシに反論した。
「そんなこと言われても・・・。俺は、ただ、はたけ上忍には関係ないことだって言いたかっただけで、俺の事情でお金がないのは俺の都合ですし。はたけ上忍が、それで自分を責めるようなことは全くないってことで・・・。」
「違うって!」
「えっ。」
「そうじゃないでしょ!」
「・・・・・・え?」
「俺のことは、はたけ上忍じゃなくて『カカシさん』って呼ぶんでしょう。」
「・・・でも、それは家の中だけじゃ・・・。」
「外でも『カカシさん』て呼ぶことに今、決めた。」
カカシは無茶振りをしている。
「それに!」
なにやら勢いづいているカカシは止まることがない。
イルカの控えめな意見も耳に入らないようだった。
人差し指を立てて、イルカの額を突っついた。
「辛いんだったら無理に笑わなくていいから。」
カカシの言っていることが解らなくてイルカは瞬きを繰り返した。
「子どもが一人取り残されたら辛くて寂しくて悲しいに決まっているでしょう?」
それが、さっきのカカシが言った「ばっかじゃないの!」に繋がるらしい。
子どもで何もできなかった、という発言の後に、イルカが見え見えの強がりで無理に笑ったのが、相当、気に入らなかったらしい。
「子どもは無理しなくていいの。」
カカシが、まるで親か兄かのように諭すと、イルカが、ぼそっと言うのが聞こえた。
「・・・・・・カカシさんだって、子どもみたいじゃないですか。」
口を尖らせて憎まれ口を叩いている。
そういうところがイルカは可愛くない。
・・・・・・・・・可愛くないって。
じゃあ、普段のイルカは可愛い・・・・・・ということかな。
考えるカカシは、ちょっと混乱する。
答えの出ない考えは、一先ず遠いところへ置いておいて、カカシは目の前で不貞腐れていう風のイルカの手を取り自分の方へ、ぐいっと引き寄せた。
「わっ!え、なに・・・。」
そのまま何も言わず、イルカの頭を撫で繰り回して、自分の腕の中でイルカを強く抱きしめる。
何故か、そうしたくなったのだった。
金の切れ目が縁の切れ目7
金の切れ目が縁の切れ目9
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