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金の切れ目が縁の切れ目7



イルカの気配を頼りに病院の中を探すと、頭の天辺で揺れる黒髪の後ろ姿が見つかった。
カカシは自分の気配を消して、そっとついて行く。
人けのない病棟の方にイルカは歩いて行った。
そこはカカシも入ったことのない病棟である。
迷わず歩いて行くイルカは、ある病室の前で立ち止まると控えめに扉をノックした。



コンコン、という扉を叩く音は静かな廊下に響き渡る。
すると扉が開き、誰かが顔を出した。
イルカくらいの年代の少年である。
その少年はイルカを見ると、嬉しそうな顔をして名を呼んだ。
「イルカ。また、来てくれたのか。」
「うん。でも、今日は早めに帰らなきゃいけないんだ。」
「・・・そうか、部屋に入ってく?」
「今日はいい。」
イルカが首を振ると少年は頷き、二人は病室前に設置してある椅子に並んで座り、ひそひそ声で話し始めた。



「いつも来てくれて悪いな。お金のこともごめんな。」
少年は済まなさそうにイルカに言う。
「いいよ、お互い様じゃないか。そんなの気にするなって。それより・・・。」
イルカは、一層、声を潜めた。
「・・・おばさんの具合はどう?」
躊躇いがちな声だ。
「うん、いつもと変わらないよ。」
訊かれた少年は寂しそうな微笑を浮かべて目を伏せる。
「もう、ずっと良くも悪くもならない。」
「・・・そっか。」



二人の間に沈黙が落ちた。
視線が二人とも床に落ちていて重苦しい雰囲気だ。
それを振り切るように少年の方が明るい声を出してイルカに話しかけた。
「イルカ、いつまで里にいられるんだ?」
「うん、あと三日くらいはいるよ。それから、また任務に行く。」
「そうなんだ。で、今はどこにいるんだよ?里にいる時は、大抵、うちに来るじゃないか。弟達も寂しがっていたよ。」
「あー、それは・・・。」
イルカは、口篭って答えた。
「今は、えーと、ある縁で、ある人の家に厄介になっていて。その人、すごく良い人だから。・・・だから、大丈夫だよ。」
心配してくれてありがとう、とイルカは笑顔を浮かべる。



「なら、いいけど。」
相手の少年はイルカのことを、とても気に掛けている風だ。
今までの話の流れからしても親密な間柄、とても仲が良いのかもしれない。
「イルカってさ。」
ちょっと笑って少年は言った。
「迷路みたいな性格だから心配なんだよな〜。」
「なんだ、それ。」
イルカも少し笑う。
「出口が見えないっていうのかな、いっつも行き止まりの方向に行ってばっかりじゃん。」
そう言われてイルカは渋い顔をした。
「それは、昔の話だろ。」
どうやら心当たりがあるらしい。



「それに。」と少年は指摘した。
「昨日は聞かなったけど、その左手の傷、どうしたの?」
イルカがカカシの家で怪我した手のことだ。
「あ、これ。実は、料理しようとしてさ。」
今、お世話になっている人に料理を作ろうとして失敗した、と笑い混じりに恥ずかしそうにイルカは言う。
「え〜、イルカが料理!」
相手の少年は、目を丸くしている。
「イルカに料理させなんて、その人、勇気あるなあ。イルカに料理を作らせるなんてさ。イルカって任務の時は別として、何故か料理が壊滅的にできないじゃん。」
そして立ち聞きしているカカシも驚くようなことを言った。
「昔、俺んちで、一度だけ料理しようとした時だっけ?イルカってば、包丁を持っただけで手首を切っちゃって、しかも切ったところが不思議なことに動脈で危うく死に掛けたじゃないか。」
あん時は大騒ぎになって本当、すごかったよなあ、と少年は沁み沁み回想している。
カカシは聞きながら今後、絶対にイルカに料理、いや包丁は持たすまい、と心に誓った。



「今は、もう俺だって大人になったんだから、さすがに、そんなことはないよ。」
「ふーん。」
少年は強がるイルカを顔を見て、目を細めた。
「ま、悩み事があったら、いつでも話だけは聞くからな。」
「じゃあ、その時は頼むよ。」
そこで二人は顔を見合わせ笑い別れた。
その様子は、どう見ても親友のようだった。




イルカと、その友達と思われる少年の話を立ち聞きしてしまったカカシは、少し罰の悪い思いをした。
立ち聞き自体、余り尊敬できることじゃないのは判っている。
だが、それ以上にイルカの秘密、自分に話していないことを勝手に知ってしまったことに対して、罪悪感が生まれてしまったのだ。



でも、あの二人の話を聞いて、色々判ったことがある。
多分、イルカは昨日も、この病院に来ていたのだろう。
多分、病院に入院しているのは、あの少年の母親でイルカも面識があり、病状について心配しているだろう。
そして、多分だが、入院費が多大に掛かるためイルカは、任務で得たお金を躊躇いもなく全額渡しているのだろう。
何と言って渡しているのかは知らないが・・・。
大方、最低限の生活費は抜いてあるから、とか何とか言っているに違いない。
本当のことは隠して。
推測の域に過ぎないが、多分、当たっているとイルカに関しては妙な自信がカカシにはあった。



今まで見てきたイルカの性格からして困っている人を放っておけないのは解るけど。
どんな恩義があるのか分からないけど、正直、やりすぎじゃあないの?
カカシは思った。
自分を全く省みないで、人を助けるってのは良いことなのか。
そりゃあ、我が身を投げ打ってまで人助けっていうのは中々できないし、良いことなのかもしれないけれど。
・・・でも、さあ。
カカシの心は釈然としない。
自分のことじゃないのにイルカが、そんなことをしているっていうだけで胸が、わだかまって仕方がない。
もっと、自分を大事にすればいいのに。



そんなことを考えているうちに立ち聞きした罪悪感は消えていき、逆にカカシは、いつの間やら憤っていた。
やり場のない怒りが沸いている。
自分では気がついてなかったが。
その気持ちが嫉妬からくるものだいうことも、今の時点ではカカシは知らない。



そして先回りをして病院から出てくるイルカを、入り口で待ち伏せしていたのだった。



金の切れ目が縁の切れ目6
金の切れ目が縁の切れ目8






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蟠る=わだかまる