金の切れ目が縁の切れ目6
その日、イルカは料理は兎も角として、他の家事、所謂洗濯、掃除の類は無難にこなしていた。
カカシは昨日の料理の件もあって頼んだことが怪我もせずに、ちゃんとできるのか、と少々、はらはらしながら陰から見守っていたが。
昼食を食べ終えて、カカシはイルカに頼んだ。
「買い物に行ってきてくれる?」
「はい!もちろんです。」
イルカは元気に答えて、やる気満々だった。
そんなイルカを微笑ましい気持ちで、つい見てしまうカカシは、どことなくイルカの父か兄、または保護者のような気分に襲われる。
お金を渡して、買い物のリストを渡す。
「夕飯の買い出しで。・・・俺が夕飯のメニュー決めちゃったけど・・・。食べたい物とかある?」
後手に回ったがカカシはイルカに尋ねてみた。
イルカは、首を横に振る。
「特にないです。」
「嫌いな食べ物とか苦手な物はないの?」
「ありません。」
「そう、じゃあ。」
気をつけて行って来てね、とカカシは、お金を持たしてイルカを買い物に送り出した。
一人になったカカシはイルカがいては、なんとなく読むのを躊躇われる愛読書を取り出す。
久しぶりに、ゆっくり読めると読書に勤しんだ。
気がついて、ふと時計を見るとイルカが買い物に出掛けてから、だいぶ時間が過ぎていた。
カカシの家から、買い物を頼んだ物が売っている店までは、そんなに遠くはない。
外は、もう夕暮れだった。
「どうしたのかな・・・。」
戻ってこないなんて。
家が分からなくて道に迷ったのか、もしくはトラブルにでも巻き込まれたのか。
考えると、ひどく心配になってきた。
イルカのことだから余計な面倒事に自分から首でも突っ込んで、そして・・・。
また、怪我でもしているのかも、と考えて、カカシは本を置いて立ち上がった。
迎えに行こう。
そう思って玄関まで出向いた時、見知った気配が扉の前に現れて、玄関の扉は開けられた。
「ただいま、帰りましたー。」
荷物を抱えたイルカが、そこには立っていた。
「すみません、遅くなって。」
「あ・・・。いや、いいよ。」
戸惑いながらカカシはイルカから荷物を受け取る。
「道に迷ったりしなかった?」
「はい!」
「お金は足りた?」
「大丈夫です。」とイルカは買い物で余ったお金、お釣りをカカシに渡す。
「充分すぎるほどでした。」
「そう。」
そして「手を洗ってきます。」とイルカが洗面所に行こうとカカシの横を通り過ぎた時、ある匂いが鼻に衝いた。
微かに漂った、特有の匂いは、カカシがよく知っているものだ。
病院で、よく嗅ぐ消毒薬、すなわちエタノールの匂いである。
昨日の手の傷を診せに行ったのかと一瞬、思ったのだが、その傷は今朝、カカシが消毒して包帯を交換してやって、だいぶ塞がっていたのを確認しており病院に行く必要はないはずだ。
ならば、なぜイルカの体から消毒薬の匂いが漂ってくるのか。
手洗いを終えたイルカはカカシの気も知らず、無邪気に尋ねてくる。
「俺、今日は夕飯作りましょうか?」
教えてくれれば、なんとかなるかもしれません、と言ってきたのだがカカシは丁重にお断りした。
そして話は夕飯を作る作らない、と押し問答がされてカカシは結局、消毒薬の匂いについてイルカに訊きそびれてしまったのだった。
ついで、その夜もイルカは眠る時はカカシのベッドの下で布団を敷いて寝たのにも関わらず、朝になると場所を移動して台所の隅っこで寝ていた。
それについて、カカシは特に訊こうという気は起こらなかった。
人には誰にでも内緒にしておきたいことや話せないことが一つや二つあるだろう。
イルカの寝場所が変わるのも、きっと、そのようなことが関係しているに違いない。
カカシは、そう察して触れずに、そっとしておくことに決めた。
次の日もカカシはイルカに買い物を頼んだ。
長らく家を空けていた所為で、足りない食材やら調味料やらが複数あったのだ。
「えーとね、醤油に味噌にみりんに料理酒、砂糖に塩にゴマ油、牛乳にミネラルウォーターに酢にソース。あ、それと野菜ジュースに蜂蜜にオリーブオイルなんだけど、買ってこれる?」
「大丈夫です!」
その日もイルカは元気に答えて買い物に行ったのだが、イルカを送り出してからカカシは、はっと気がついた。
重いものばかり頼んでしまった。
幾らなんでも、あの量はイルカ一人では持てないだろう。
決して態とやったわけではないのだが、もしも嫌がらせにとられてしまったら、どうしよう。
いやイルカに限って、そんなことは思わないだろうけど傍から見たら俺って、すごい嫌なやつかもしれない。
焦ったカカシはイルカの後を急いで追いかけたのだった。
追いかけて、すぐにイルカは見つかったが目的の方向とは別な道を、てくてくと歩いていた。
買い物に行く前に、どこかに寄るのだろうか。
興味が惹かれたカカシは、そっとイルカの跡を付けていく。
イルカは、ある建物の前まで来ると躊躇なく、そこへ入っていた。
「ここは・・・。」
カカシは建物を見上げる。
よく知っている建物で、何回か自分も世話になったことのある、それは・・・。
「・・・病院。」
木の葉の里で一番、大きい医療施設でカカシも入院したり怪我の治療をしたことがあった。
昨日もイルカは、ここへ来たのだろうか。
それならば、イルカの体から消毒薬の匂いがしたのも頷ける。
どうしてだろう。
好奇心が押えられなくなったカカシは、病院に入って行ったイルカに続いて自分も病院に足を踏み入れたのだった。
金の切れ目が縁の切れ目5
金の切れ目が縁の切れ目7
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