金の切れ目が縁の切れ目5
その日、とりあえず夕飯を作ると言われるままにイルカに調理を任せてみたカカシだったが、イルカが包丁を見て「これが包丁か〜。」と言った時点で気がつくべきであった。
イルカが、からきし料理ができないことに。
「わー、切れた!」
台所から聞こえたのは歓声ではなかった。
声が聞こえて、慌ててカカシが台所へ駆けつけた時にはイルカの左の親指から血が流れていた。
よくよく見ると親指どころか、親指の根元から左の手の平にかけて切れており、どうやって切れば、そうなるのかと思うような傷ができている。
「ど、どうしたの?」
台所は、ちょっとした惨事になっており、まな板の上は血まみれだ。
驚いたカカシは問い質しながらイルカの手首を、ぎゅっと押えて止血をする。
血が、ぽたぽたと流れるので風呂場へと連れて行き、そこで待つようにイルカに指示して急いで救急箱を持ってきた。
幸い、見えたほど傷は深くなく、血が派手に流れているだけである。
ほっとしてイルカの手を処置し、包帯を巻きながらカカシは溜め息を吐く。
「なんで里にいるのに、こんな怪我してんのよ・・・。」
「実は、台所で料理したことがなくて。」
「任務で炊事とか、やっていなかったけ?」
「やっていましたけど、任務で作る食事とは勝手が違っていて・・・。」
困ったようにイルカは答えた。
「なんか難しいなあって。」
「じゃあ、そう言えばいいでしょうが。」
イルカの処置を終わらせたカカシが呆れたように言うとイルカは「ごめんなさい。」と肩を竦ませて小さくなってしまう。
そんなイルカを見てカカシは、ふっと笑いが出てしまった。
「いいよいいよ。」
思わず頭を撫でて慰めてしまう。
「人には得手不得手があるもんね。夕飯は俺が作るからいいよ。」
するとイルカは益々、縮こまって肩身を狭くしているようであった。
「お世話になるのにすみません。」
その後カカシが夕飯を作り、その間イルカはカカシから湯を沸かして、茶を入れるという簡単な作業を言い付かった。
カカシに言われた通りに薬缶に水を入れ、点火し湯を沸かす。
「わっ!」
湯を沸かしたイルカは沸いた湯に、びっくりしていた。
薬缶に水を満タンに入れていたので、沸いた湯が溢れ出てしまっていたのだ。
気がついたカカシが横から素早く、コンロの火を止める。
「び、びっくりした〜。」
本当にイルカは、びっくりしていた様子で態としている風には見受けられない。
「なにしてんの、溢れるほど薬缶に水を入れちゃ駄目でしょ。」
「・・・すみません。」
イルカは、また、しょんぼりとしてしまう。
「任務では、たっぷり湯を沸かすから、これでいいかなと思ったんですけど。」
どうやら任務の炊事を基準にしたらしい。
カカシは単純に疑問が沸いてしまった。
「イルカって里にいる時、どうやって生活しているの?」
生活というか、こんなに何にも出来なくて生きているのが不思議になってしまうほどであった。
「・・・まあ、いいよ。」
ぽんぽん、とイルカの頭を慰めるように叩くとカカシは出来上がった料理をテーブルに運ぶようにイルカに指示する。
食卓に料理が並ぶとカカシとイルカは、手を合わせて「いただきます。」として食べ始めた。
イルカは美味しそうに食べていたが、それ以上に何故か、とても嬉しそうにしている。
なんでだろう?
じっとカカシがイルカの顔を見ていると視線に気がついたイルカが顔を上げた。
「どうかしましたか?」
「いや、そのね。・・・やけに嬉しそうだなあ、と思ってさ。」
「ああ。」
イルカは、やはり嬉しそうに笑った。
「家で、誰かと食卓を囲んで食事をするのって何年振りかなあと思って。誰かと一緒に食事とするのって楽しいですね。」
にこにこしているイルカは、自分の言っていることが解っているのだろうか。
言っている内容を聞いてカカシの胸は、ちくりと痛んだ。
今までイルカは、どうやって食事をしていたのだろうか。
だが聞くに訊けず、もやもやと気分を残したまま、カカシは食事を終了した。
そして夜になって別々に風呂に入り、さて寝るかという段階で、一悶着が起きた。
「うちはベッドが一つしかないの。イルカは体が小さいし、俺と一緒に寝てもいいじゃないの?」
「・・・嫌です。」
「なんでよ?」
「・・・・・・それは、どうしてもできません。一緒に寝るなんて・・・。えーとえーと、悪いですよ。そんなの図々しいです。」
「えー、そうかな。」
カカシはイルカと一緒に寝ることについて、特に異存はなかったのだが、イルカは頑なに首を振る。
「俺、床で寝ますから。布団なくてもいいですから気にしないでください。」
「そう言うわけにはいかないでしょ。」
頷かないイルカにカカシは渋々と折れた。
部屋の隅にあるクローゼットで布団の代わりになるものはないかと漁ってみると、依然に買って忘れていた予備の布団を見つけた。
「ずっとクローゼットに有ったから、ちょっと時化っているかもよ。」
「お手数お掛けしてすみません。」
カカシが寝ているベッドの横に布団と敷いてやる。
ようやく、イルカは布団に入って横になった。
くるりとカカシに背を向けて頭から布団を被ってしまう。
布団から辛うじて出ている黒髪を見ながらカカシは電気を消して目を閉じた。
イルカは人懐こそうに見えるが、実は結構、気難しいのかも。
そんなことを考える。
そして、朝になり、カカシが隣で寝ていたイルカを見ると敷き布団だけ残されており、本人は姿を消していた。
部屋の中に気配はあるので、家を出て行ったわけではないらしい。
足音を忍ばせて家の中を探してみるとカカシのベッドから一番遠い場所、台所の隅で布団に包まって寝ているイルカの姿を発見した。
やっぱり、すっぽりと頭から布団を被ってはいたのだが、辛うじて寝顔が布団の隙間から覗いている。
やれやれ、とカカシは心の中で思った。
本当は、この人、人見知りで外では、それを隠して、いろいろ無理しているんじゃないの。
イルカは眠っているのに、眉間には深く皺が寄っていて見方によっては苦悩しているように見える。
難儀な性格だなあ。
眠るイルカを起こさぬようにカカシは、そっと思ったのだった。
金の切れ目が縁の切れ目4
金の切れ目が縁の切れ目6
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