金の切れ目が縁の切れ目29
「でもさあ。」とカカシはアスマから話を聞いて疑問に思ったことを告げた。
「イルカが自分の家を担保に銀行からお金を借りるって、なんで今更って気がするんだけど。」
カカシと三年、一緒に暮らしている間にしようと思えばできたことではないのだろうか。
「ああ、そりゃなあ。」
アスマが吸い終わった煙草の吸殻を捨てて、新たな煙草に火をつけた。
「イルカの年齢が関係するんだ。」
「年齢?」
「そうだ。」
煙草を美味しそうに吸いながらアスマは答える。
「イルカは今年成人しただろ。だから未成年ではなくなって、銀行から金を借りることができるようになったんだ。」
「でも銀行から、お金を借りるにしたって、保証人とやらが必要なんじゃないの?」
それに、とカカシは懸念を示した。
「イルカが銀行にお金を借りたってことは、つまり俺じゃない他の誰かに借金したってだけで、結局、解決にはならないじゃない。」
自分じゃない他の誰かと頼ったことにカカシは少しだけ嫉妬の感情が芽生える。
イルカの心情を汲み取らない訳ではないが、なんだかイルカを取られるような気がしたのだ。
我ながら幼い感情だとは思うが。
「イルカの借金の保証人な、それは俺だ。」
くいっとアスマは自分を指差す。
「えっ、アスマが・・・。」
驚いたカカシの口から次に出た言葉は明らかに嫉妬だった。
「なんでアスマが。まさか、絶対にないと思うけどイルカのこと・・・。」
「違うって。おい、カカシ。目をギラギラさせるな、嫉妬と殺気が入り乱れているぞ。」
アスマは「この話には続きがある。」とカカシを制して、嫌そうに眉を顰める。
「断っておくがイルカは俺の可愛い弟分だからな。」
勘違いするな、と首を刺しておくことも忘れなかった。
なのにカカシは「いつの間に弟分、しかも可愛いってなんだよ。」と、ぶつぶつ言っている。
「話を聞くのか聞かないのか。」
焦れたアスマに言われてカカシは姿勢と正す。
「聞きます。聞かせていただきます。」
それから一応、黙ってアスマの話を聞くことに専念した。
「イルカは最初、家を更地にして土地を売り払いたいって俺に相談してきたんだ。」
「えっ、何それ!」
思わず言ってしまったカカシは慌てて口を閉じる。
「でも俺は、それはやめろ、と止めたんだ。イルカにとって家が掛け替えのない大事な物だって前にカカシが言っていたのを思い出してな。」
そんなこと言ったっけ、とカカシは首を傾げた。
イルカのことを話していた時に言ったかもしれない。
「それにな、近々、木の葉の医療制度が変わることを知っていたから、尚更、止めた。」
「医療制度?」
突然、出てきた単語にカカシは不可解な表情を浮かべる。
「そうだ。木の葉の医療制度といっても、主に保険、病気の治療費やら入院費やら薬代やらの扱いが変更になるんだけどな。」
「ふーん。」
「以前は保険が利いても高額な治療代が掛かった難しい病気を、これからは無償で治していこうという方向になったんだよ。」
「かなり前から、そういう話は出ていたものの進展しなかったんだが、漸く実現する運びになってな。」とアスマは感慨深そうに目を細めた。
「で、だな。」
アスマはカカシに向き直った。
「過去にも遡って、該当する病気で入院、治療した人間にも平等に金を支払おうってことになったんだ。」
「なるほどねえ。」
「俺も一役買うことになって、病院の方に今まで治療した患者のリストを貰いに行ったら、そこにカカシの名前があったんだよ。」
「あー。」
確かに三年前にカカシはイルカの代わりに病院にお金を払っている。
「何の関係もない人間にカカシが金を出すとはどういうことだと調べてみれば、行き着いたのはイルカだったって訳だ。」
「それとイルカが銀行からお金を借りることが何の関係あるのさ。」
「だからカカシが病院に払った金はイルカがカカシから借りたことになってんだろ。そんでカカシへの返済は終わっている。だからカカシが病院に支払った金は、俺がイルカの手元に行くように手配したから、その金でイルカは銀行から借りた金を返済すればいいだろうということだ。」
分かったか?と言うアスマに、ぱちくりとカカシは目を瞬かせた。
ぽんと手を打つ。
「なーるほど。」
そして言った。
「アスマ、意外と頭がいいな。」
「意外とは余計だ。」
「それにいい奴だったんだな〜。」
ありがとう、とカカシは素直に礼を述べる。
「イルカに世話を焼いてくれて恩着るよ、今だけ。」
「あー、はいはい。」
面倒くさそうにしながらもアスマは安心したように言った。
「よかったじゃねえか、上手くいきそうでよ。まあ、差し詰め俺はカカシとイルカの恋のキューピッドってところか。」
アスマが恋のキューピッド・・・。
複雑な思いが胸を横切ったが、それについてカカシはコメントするのを賢明にも差し控えたのだった。
一週間が経ち、イルカは里に帰ってきたはずなのにカカシの前に中々、姿を現さず会いに来る気配がなかった。
痺れを切らしたカカシは終に、こっそりとアカデミーに赴いてイルカの姿を発見した。
書類やら本やらを両手に抱えて運んでいたイルカを見つけてカカシは、さっと歩み寄る。
「捕まえ〜た〜。」
一瞬でイルカを自分の胸に抱き、腕で囲って確保して逃げられないようにした。
「カカシさん!」
びっくりしたイルカの手から、どさどさと運んでいた書類と本が落ちる。
カカシを見詰めるイルカの黒い瞳には、カカシだけが映っていたのだった。
金の切れ目が縁の切れ目28
金の切れ目が縁の切れ目30
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