金の切れ目が縁の切れ目15
次の日、イルカはやることが終わるとカカシの前に三つ指ついて、丁寧に頭を下げた。
頭のお下げも、それに倣って揺れる。
「五日間、お世話になりました。」
別れの挨拶をしているのだが三つ指ついている姿は、どちらかというと、これからお世話になります、という嫁入り姿を連想させる、とカカシは思った。
カカシの妄想を余所にイルカは続けた。
「御好意により家に招いていただいて、あまつさえ、三食お世話になり大変感謝しています。」
口上を述べたが子どもらしくない、堅苦しい挨拶であった。
「あー、いーよいーよ。」
対してカカシは軽い調子で返事をして手を振る。
「こっちこそ、久々に人間として生活したって感じがしたし。」
カカシの言い分にイルカは訝しげな顔になった。
「人間としてって・・・。」
「あー、一人でいるより誰かと一緒にいた方が俺的にはいいってことかな、一人だと何もする気が起きないし。昨日も言ったでしょ、イルカとは気が合うって。」
「はあ。」
「で、さあ。」
更に軽い調子でカカシは言った。
「イルカって俺の家から出て行ったら、また元の生活に戻るの?」
「そうですね、多分。」
元の生活とは任務に明け暮れて、報酬として貰ったお金は総て家族が入院しているという、あの少年に渡してしまうのだろう。
自分は、ぎりぎりの生活をしてまでもだ。
「家も、自分の家に帰るんでしょ?」
「そうなりますね、任務でいないことが多いと思いますが。」
「そこでだ。」
カカシはイルカと向き合い座っていたのだが、ずずいと膝を進めてイルカとの距離を縮めた。
顔を近づけて、イルカの瞳を覗きこむ。
イルカの瞳は深く黒く、そこにはカカシが映っている。
それを満足そうに眺めてからカカシは微笑んだ。
「俺さ、いーいこと、考えたんだよね。」
「いいこと?」
カカシとの会話の趣旨が、いまいち飲み込めていないイルカは首を捻る。
「昨日、寝ないで考えたんだけど。」
「カカシさん、昨日は寝てないんですか!休みの最終日に、それでは体が保ちませんよ。」
「あ、でも、昨日はイルカの寝顔を、ずっと見ていて心は潤っているから大丈夫。」
「心身ともに健康でなければ任務に差し障ります!」
「俺、意外に、いつも元気よ?」
「そう思っているのは自分だけで、その油断が命取りなるかもしれません。」
「だいじょーぶだって。イルカと一緒の五日間、真面目に三食食べて、朝起きて夜寝る生活していたからさ。」
「それは健康な生活をおくる、基本中の基本です!」
イルカは厳しい顔をしてカカシを見ている。
まるで先生みたいだなあ、と怒られているのにカカシは何故か和んでいた。
「まあ、とにかく。」
話が脱線していたことに気がついたカカシは話を元に戻した。
「俺のいい考え聞いてちょうだいよ。」
「あ、はい。」
カカシに真面目な顔をされたイルカは、握った手を正座した膝の上に置いて畏まった。
「なんでしょうか?」
一生懸命に話を聞こうとする姿勢から緊張していたりもしてイルカは、ちょっと可愛い。
その様子に真面目な話をしようとしているのにカカシは、ほのぼのとしてしまう。
やっぱり、イルカがいるといいかもなあ。
イルカは話を待っているというのにカカシは和んだり、ほのぼのしたり忙しい。
「カカシさん?」
ついにイルカから話を問うように呼びかけられて、はっとする。
「・・・ん?ああ、ごめん。」
カカシは謝って、今度こそ話を切り出した。
「話ってのはさ、イルカの入院している知り合いの子の親御さんだっけ?その人の薬代とか治療費とか、俺、出そうか?」
たっぷりカカシとイルカは見詰め合った。
ややあってイルカが戸惑いながら聞き返してくる。
「俺、耳がおかしくなったのかしれません。」
狐に抓まれたようなとは、今のイルカを指すのかもしれない。
「もう一度、言っていただけませんか、カカシさん。」
「あー、うん。」
カカシは頷いてイルカの耳元に口を寄せて、よく聞こえるように、はっきりと言った。
「お金を肩代わりしてもいいよって言ったの、俺は。」
金の切れ目が縁の切れ目14
金の切れ目が縁の切れ目16
text top
top