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金の切れ目が縁の切れ目11



イルカの家はカカシの家から、そう遠くなく徒歩十分くらいのところにあった。
「へえ、イルカの家は一軒家なんだねえ。」
カカシは物珍しそうに平屋立てのイルカの家を見渡す。
「古いですけどね。」
恥ずかしそうにしながらイルカが、がたぴしと立て付けの悪い玄関の引き戸を開けた。
「両親が俺に、唯一、残してくれた物が家なんですよ。」
確かにイルカの言うように古さは感じるが、玄関先から見える庭や家の外壁、屋根も、よく手入れをされていてイルカが家を大事にしているのが伝わってくる。
「どうぞ。狭いですけど。」
イルカはカカシを家へと招き入れた。



玄関で靴を脱ぎ、イルカの家に足を踏み入れたカカシは、家の中を迷いなく歩いていくイルカの後に付いていった。



家の中は、人が住んでいる時間が少ない所為か、どこか寒々としていて人を寄せ付けない雰囲気がある。
今、歩いている廊下の隅々は掃除をして清められてはいるが、その両側にある部屋のドアノブや、引き戸の取っ手の部分には埃が積もっているのが見てとれた。
それらのは部屋は生活感がなく、何年も開閉されていないように見受けられる。



人を拒んでいる、そんな印象を受ける家だった。
家らしくない家というのか、そんな感じだ。



イルカは家の一番奥にある、比較的広い座敷に赴いた。
座敷には、忍具や巻物、寝具、少量の日用品、衣類らしきものがあり、イルカが家に滞在している時は、ここを拠点に生活しているのが窺える。
娯楽用品みたいなものはなく本当に、ただただ必要なものしか置いていない。
物が少ない家だなあ。
カカシの家も物が多い方ではないが、そのカカシが思うほどイルカの家には物がなかった。
態と置いていないのか、それとも金銭的な事情から置けないのかは分からない。



イルカは座敷の一角に洗濯はしてあるだろうが畳まず、散乱させていた衣服の中から何点かピックアップすると、同じく、その辺にあった袋に適当に詰めた。
そういうところは大雑把だ。
「よし。」と袋を、ぽんぽんと叩くとイルカはカカシの方を向いた。
「終わりましたよ、カカシさん。」
「え?ああ・・・。」
ぼんやりと部屋の中を見ていたカカシは、はっと我に返る。



「どうかしましたか?」
イルカが不思議そうに訊いてきた。
「いやあ、イルカの家って物が少ないなあ、と思ってねえ。」
隠すほどでもないか、とカカシは素直に白状した。
「俺んちも何もないけど、イルカの家ってさ・・・。」
更に物がないねえ、とカカシは冗談交じりで言おうとしたのだがイルカの静かな声が、それを遮った。



「・・・家じゃないですよね、俺の家って。」
「イルカ?」
イルカは部屋を、ぐるりと確認するように見回してから、歩いてきた廊下に視線を向ける。
「もう、開かずの部屋ばかりの俺の家は、もう家としての機能を果たしていない。言うなれば、雨や風を避ける箱みたいなものなんです。」
目を瞬かせたイルカは、廊下にある部屋の扉を指差した。
「自分でも情けないと思うんですけど、あの日から、あれらの部屋の扉は一度たりとも開けていません。部屋の中を見ていないんです。」
だから、ドアノブや引き戸の取っ手に塵や埃が積もっていたのか。
イルカの言う、あの日とは、里が厄災に襲われ、イルカの両親がいなくなってしまった日を指すのだろうか。



「あれから何年も経つのに、部屋の扉を開けてみたいと思わないんです。部屋の中を見たいとも思わない。」



部屋を開ければ、いなくなってしまった両親を思い出してしまうのだろうか。
楽しかった頃を思い出せば、辛い気持ちになるのは解る。
イルカは多分、この家が好きなのだろう、でも好きでいるでいればいるほど悲しい気持ちになるのかもしれない。
カカシは何も言うことはできなかった。
イルカの気持ちを慮ると手助けしたくても、することができない。
辛い気持ちを乗り越えたり、乗り越えようとするのは、人それぞれで、その人自身にしかできないことだからだ。



「で、特に思い出のなかった、この部屋だけを今は使っているんです。」
イルカは、ちょっとだけ笑った。
笑っているのに、苦しそうしか見えない。
「この部屋、客間だったので常に、この部屋を綺麗にしていた母から出入りを禁止されていた部屋だったので・・・。」
この部屋でなら、いなくなってしまった人を思い出すことが少ないだろう。



イルカは手に持っていた荷物に縋り付くように、ぎゅっと抱きしめた。
そして俯く。
「最初にカカシさんに、ご飯を食べさせてもらった時俺の家のこと、カカシさん『それって家なの?』って言いましたけど。・・・・・・本当ですよね。」
ここは家じゃない、とイルカは呟いた。
「家なのって言われて、目の前が一瞬、真っ暗になって、時間が止まったように感じました。現実を突きつけられて、息が止まりそうにもなりました。」
淡々とイルカは語る。
「こんな家に帰ってきても何もすることないですよね・・・。」
これもカカシが言ったはずだ。
『そんなところへ帰って何するの?』と確かに言った。



カカシの何気ない一言がイルカの心に棘のように刺さって、ずっと残っていたのだ。



「帰ろう。」
カカシは、いささか手荒にイルカの手を掴むと玄関の方に引きずって行った。
「用事は済んだんでしょう?なら、帰ろうよ。」
「か、帰るって・・・。」
玄関で強引に靴を履かされて、自分の家から引っ張り出されたイルカは、家の鍵をカカシに奪われている。
奪った鍵でカカシは、がちゃがちゃとイルカの家の鍵をかけると掴んでいたイルカの手を、そのままに歩き出した。



「・・・カカシさん?」
怒っている風のカカシにイルカは戸惑っている。
歩きながらカカシはイルカを引き寄せ、イルカの肩に腕を回した。
腕を回した肩は、やけに細く感じられて、風が吹けば飛んで行ってしまいそうに思ってしまう。
自分の体に、ぴたりとイルカの体をくっ付け、イルカの体温がカカシの体に伝わってくると何故か漸く、カカシは安心した。
「今のイルカの家は俺んちでしょ。」
イルカに言い聞かせるように言う。
「情けなくてもいいよ、部屋なんて開けたくなったら開ければいいだけの話でしょ。」
過去に囚われていてもいいのだ、いつか抜け出せる日が来るんだから。
その時は俺も一緒に部屋を開けてあげるから、と、カカシの言葉を聞いたイルカは深く頷いたのだった。




金の切れ目が縁の切れ目10
金の切れ目が縁の切れ目12






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