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どこへいずこへ7



涙が、どんどん溢れてきた。
止まらない。
イルカ先生はベッド横の棚の上のタオルを取ると、そっと俺の目元を拭ってくれた。
拭っても拭っても涙は止まる気配を見せない。
イルカ先生は何も言ってくれない。
「イルカ先生・・・」
タオルを持つイルカ先生の手首を俺は掴んだ。
「何か言ってください」
ずるいと思ったが哀れっぽく懇願する。
イルカ先生の声が聞きたい。
何か言ってほしい。
俺の視線を避けるように下を向いてしまったイルカ先生は、ぽつりと呟くように言った。



「・・・はたけ上忍、お怪我は大丈夫ですか」
その言葉に俺の心は凍りつく。
はたけ上忍、って・・・。
「早く治るように陰ながら祈っております」
全くの他人行儀のイルカ先生の言葉。
もう俺のことが好きじゃなくなったのだろうか。
大きな不安が胸の中に膨れ上がる。
イルカ先生の心の中に俺の居場所はないのだろうか。
「イルカ先生、ごめんなさい」
俺は謝った。
「酷いこと言ってごめんなさい」
心の底から謝った。



掴んでいたイルカ先生の手首に力が入るのが分かった。
見ると、ぎゅっとタオルを握りこんでいる。
下を向いている横顔が少し見えて唇を噛んでいた。
何かに耐えているみたいで俺が堪えられない。
「イルカ先生、謝って済むことじゃないかもしれないけど」
本当にそうだ、謝っても許してもらえないかもしれない。
でも聞いてほしい。
「あの日、俺はどうかしていたんです」
イルカ先生がどういう反応を示すことを考えると怖気づいてしまうが俺は話した。
口にしなければ伝わらないことがある。
言わなくても分かってもらえるなんて甘い考えだ。
「俺は、あの日・・・」
そう嫉妬で気が狂わんばかりだったのだ。
「ものすごい嫉妬で、それが抑えられなかったんです」
とうとう言ってしまった。



嫉妬、と言う言葉を聞いてイルカ先生は「え」と顔を上げて俺を見た。
やっと、まともにイルカ先生が俺を見てくれた。
嬉しくて、また涙が出そうになった。
「嫉妬?」
イルカ先生の顔には不可解だと書いてある。
「どうしてカカシさんが嫉妬を?」
多分、思わずだろうと思うけど俺のことをカカシさんて呼んでくれたことにも嬉しくなる。
俺はイルカ先生の掴んで箇所を手首から手の平に移動させた。
指を絡めて手を握った、強く。
イルカ先生は抗いもせず、俺の話の続きを待っている。
俺は自分の気持ちがイルカ先生に伝わるように懇々と気持ちを込めて話す。



「あの日の昼、俺、見てしまったんです」
あの光景を思い出すと胸が、ちくちくと痛む。
でも言わなければならない。
だって、これが原因なのだから。
「イルカ先生がアカデミーの裏庭で・・・」
知らず、俺の眉間に皺が寄る。
イルカ先生に話しながらも、やっぱり妬いてしまうのだ。
好きな人には馬鹿みたいに独占欲が出てしまう。
「女性からラブレターを貰っているところを見てしまったんです」
言ってしまった・・・。
「ラブレター?」
イルカ先生が意外そうな顔をして首を傾げていた。
記憶にないのだろうか?
俺は、はっきりと覚えているのに。



「イルカ先生が『分かったよ』と言って女性が『すきなの』って言っていましたよ」
これだけ言うにも俺は、ぎりぎりと歯噛みしてしまう。
俺のイルカ先生が他の人間から『好き』とか言われているのなんて我慢できない。
ああ、俺ってすっごい、やきもち焼きだったんだなあ。
今、気がついたけど好きな人に対して絶対的に自分を好きでいてほしいんだ。
イルカ先生は何事かを考えているようだった。
思い出すように。
その間も俺はイルカ先生の握った手を離さなかった。
イルカ先生は俺のベッドに腰を下ろして近い位置にいる、手を伸ばせば届くような場所に。
抱きしめたいと俺は思った。



「ああ!」
イルカ先生が、ようやく思い出したと言う風に俺を見た。
「あれのことですね!」
妙に声が明るい。
うんうんと頷いて俺を見た、その顔は穏やかで落ち着いていた。
「あれは確かにラブレターでした」
やっぱり・・・。
俺の肩が、がくっと落ちた。
イルカ先生はラブレターを貰っていたんだ・・・。
「でも」とイルカ先生は俺の顔を覗き込んだ。
「あのラブレターは俺宛じゃありません」
今度は俺が「え?」とイルカ先生を見る番だった。
「俺の同僚に渡してほしいと頼まれただけなんです」
真実は案外、呆気なかった。





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