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どこへいずこへ8



イルカ先生が俺に言う。
「彼女は長年、俺の同僚に片思いしていて、やっと告白する勇気が出たとかで」
呆気に取られながら俺はイルカ先生の話を聞いていた。
「でも直接、告白は無理だから手紙を渡してほしいと頼まれて」
ラブレターはラブレターですけどね、とイルカ先生は苦笑している。
「カカシさんが聞いた『好きなの』は俺に対してではなくて他の人間に対してですよ」
イルカ先生は丁寧に説明してくれた。
絡まった糸が次々に解けていくように謎が解けていく。
「俺が言った『分かったよ』は、ちゃんと手紙を渡してねと言われたので、そう答えただけです」
イルカ先生が優しい顔になった。



「俺も長年、想い続けていた人に想いを伝えられたので彼女も、そうなればいいなと思って」
だんだんとイルカ先生の声が小さくなっていく。
俺を見ていた瞳も伏せられて。
握っていた手からも力が失われて。
なんだかイルカ先生が小さく見えた。
ほうっとイルカ先生が息を吐いた。
溜め息のような安堵したような、それらが入り混じったような。
深い息だ。
イルカ先生の想いの総てが、そこに集約されているような気がした。
俺も言葉が見つからない。
こういう時は・・・。



握っていたイルカ先生の手を自分の方へ引っ張った。
いきなりのことでイルカ先生がバランスを崩す。
俺の腕の中へ倒れこんできた。
そこを、がっちりと抱きしめる。
イルカ先生の心も体も全部好き。
好きです、大好き。
酷いことを言って傷つけたことは消せないけれど、少しでも薄れればいいと俺は思った。
「イルカ先生、ごめんなさい。勝手に誤解して、あんなこと言って」
ごめんなさいを繰り返した。
「イルカ先生を好きで好きで、しょうがないんです」
これは俺の本当の気持ちだ。
もう、どうしようもなく好き。
「好きで好きで好きで好きで、大好きで」
ほんと好き。
ぎゅっとイルカ先生を抱きしめる腕に力を入れる。
その腕をイルカ先生が押し返した。



「カカシさん」
見るとイルカ先生は、ちょっと怖い顔をしている。
ついでに、ちょっと怖い声。
「そんなんで俺が許すとでも?」
はっとした。
・・・・・・・・・そう、そうだよね。
俺のやったことって許されないかもしれない。
「カカシさん、目を閉じて」
言われたとおり目を閉じる。
イルカ先生が何をするつもりか知れないが、何をされても文句は言えない。
ばきぼきべき、と指の骨の鳴る音がした。
「歯あ、食いしばれ!」
イルカ先生の鋭い声がしたかと思うと、しゅっと俺の頬を何かが掠めた。
ゆっくりと俺は目を開ける。
「殴ってもよかったのに」
「そんなことできるわけないでしょう、怪我人なんだし」
イルカ先生が諦めたように微笑んでいる。
「俺だってカカシさんのことが好きなんですから」
その言葉で俺の心は救われた。



で、まあ俺はイルカ先生と何とか仲直りした訳だが。
現金なことに俺の体は正直だった。
イルカ先生と仲直りした翌日、退院してしまったのだ。
脅威の回復力を見せて。
これにはイルカ先生も病院の医者も驚いていた。
退院時に来てくれたイルカ先生も呆れたような顔をしていた。
「カカシさん、大怪我していたんじゃなかったんですか?」
「そうなんだけどね〜」
俺は、がりがりと頭を掻く。
「イルカ先生が俺のこと好きだって言ってくれたら治っちゃった」
少し通院は必要だけど、もう大丈夫。
「イルカ先生の愛の力かな」って言ったらイルカ先生は恥かしがっていた。
「なに言ってんですか」
怒ったふりも可愛く見える。
「いや、本当ですって」
今回の事で学んだのは俺はイルカ先生がいてくれれば、それでいい。
イルカ先生が俺のことを好きでいてくれるなら何だって出来そうだということ。
実際、怪我の回復も早かったし。
ほんと病は気から、気の持ちようだ。
それをイルカ先生に言うと「ちょっと違いますよ」と言いつつも楽しそうに笑っていた。



病院からの帰り道。
二人で並んで、てくてくと歩く。
また、こういう日が来るなんて嬉しくてしょうがない。
俺はイルカ先生の横を、にこにこと笑みを顔に張り付かせながら歩いた。
行く先は俺の家。
今日はイルカ先生が俺の家に泊まってくれるらしい。
仕事も忙しいのが一段落ついて、今日明日、休みなんだって。
多分、俺の退院に合わせてくれたんだろうなあ。
イルカ先生は優しいから。
「あ!」
隣を歩いていたイルカ先生が急に声を上げた。
「どうしましたか」
訊くと前方から歩いてくるカップルを見ている。
あの二人がどうかしたのか?
そのまま歩いて行くとカップルと擦れ違った。
女性の方とイルカ先生が会釈して、男性の方が手を上げてイルカ先生の声を掛ける。
それだけだったんだけど。
「あ、あの人」
俺は分かった。
女性の方は見覚えがあった。
イルカ先生にラブレターを渡した人だった。
男性の方はイルカ先生の同僚みたいで。
・・・とすると。



「あの二人、上手くいったんだなあ」
イルカ先生が、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「良かった」なんて嬉しそうにしている。
俺の方を見て眩しい笑顔を見せてくれた。
「幸せになるといいですね、あの二人」
「そうですね」
イルカ先生は、いつだって人の幸せを願っている。
本当に良い人だ。
俺は隣を歩くイルカ先生の手に自分の手を重ねた。
イルカ先生は手を引こうとしたけど握り締める。
「カカシさん」
戸惑ったように俺を見るイルカ先生は俺の大好きな人だ。
世界で一番大好きな人。
そして、とても大切な人。
これほど好きな人は、もう現れない。
イルカ先生だけが好きだ。



「俺たちも幸せになりましょうね」
イルカ先生を傷つけてしまった分、イルカ先生を大事にする。
願わくば、もう傷つけたりしないように。
「幸せにならないと」
強く心に思う。
イルカ先生を幸せにしたい。
そしたら俺も幸せになれるから。
「ね?」とイルカ先生に微笑みかけると、きゅっとイルカ先生が俺の手を握り返してきた。
「はい」と小さな声がする。
顔を見ると泣きたいのを堪えているようだった。
「泣きないなら泣いたらいいのに」
試しに言ってみるとイルカ先生は首を振った。
「俺は泣きません。嬉しい時も悲しい時も笑ってみせます」
そうだ、イルカ先生は、そういう人。
強いなあ。
「カカシさんは泣いてもいいですよ」
イルカ先生が笑って言う。
その顔は明るい。
「泣いたら俺が慰めてあげますから」
ちょっと釈然としないけど俺は素直に「はい」と言っておいた。
イルカ先生が慰めてくれるなら泣いてもいいかな、と思ってみたり。



俺たちは行き着く場所は、どこかいずこか。
それは幸せに満ちたところに違いない。
きっと。



終わり




どこへいずこへ7



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