伝説の生き物 3
一時間くらい経った頃、カカシはイルカの手を引き火影の執務室に戻ることにした。
イルカはアイスを食べて満足したのか、駄菓子を食べることはしない。
駄菓子の入った袋をしっかり胸に抱きしめている。
あんなに喜んで選んでいたのに。
不思議に思ってカカシは尋ねる。
「お菓子は食べないの?」
「えっと、後で父と食べます。」
「お父さんと?」
「はい。」
ニコリとして大きく頷くイルカ。
「半分こするんです。」
そんな風に嬉しそうに笑うからカカシは何も言えなくなった。
火影の執務室に着くと、二人の話はもう終わっていたようで、すぐに中に通された。
「父さん!」
執務室に入ると、当然のことながら、イルカは繋いでカカシの手をあっさりと離し、父親も元に駆け寄った。
嬉しそうにはしゃぎながら、カカシとアイスを食べたことや駄菓子を買ってもらったことなど報告している。
興奮気味のイルカに、父親は微笑を携えて穏やかに返事をしている。
イルカを見つめる眼は愛しげだった。
そして、興奮の治まったイルカの手を取り立ち上がると、カカシに丁寧に礼を述べた。
イルカもそれに倣い、「ありがとう。」と頭を下げる。
二人は火影とカカシに別れの挨拶をして帰っていった。
イルカと父親が帰った後、カカシは少し寂しくなる。
あの握っていたイルカの暖かい手がまだ、あるようで自分の手をつい見てしまった。
「なんじゃ、カカシ?寂しいのか?」
火影がカカシの気持ちを察したようにからかうような口調だ。
「そうじゃろうのう、イルカは可愛いからの。」
自慢するように言っている。
「そんなの知ってますよ。」
思わず、不機嫌さが出てしまった。
「そうか?では、イルカの真の姿は見たことがあるのか?」
「いえ。それは、まだ・・・。」
いつか見たいとは思っているが。
「わしは見たことがあるぞ。」
火影は胸を張った。
これは明らかに自慢している。
「えっ?本当ですか?」
「聞きたいのか?」
火影がニヤニヤとした顔になった。
カカシをからかうのが面白いらしい。
「それはそれは、もう小さくて可愛くてな。」
「それで?」
「鳴き声がこれまた、愛らしいのじゃ。」
「どんな風に鳴くんです?」
火影にからかわれているのは分かっているが、堪らずカカシは聞いてみた。
「どんな鳴き声なんですか?」
火影の机に身を乗り出したカカシを、すいと交わし三代目は意地悪く言った。
「内緒じゃ。教えてやらん。」
「えええ〜。」
がくっと、脱力してしまうカカシ。
「そりゃないですよ、火影様。」
いつにないカカシの落ち込み方を見て、火影はフォローするように言った。
「いや、実は教えられんのだ。イルカの父上との約束でな。」
「約束?」
「うむ。」と火影は頷き話し出した。
「実はイルカの母上は、イルカが小さい時に亡くなっている。人の姿を取り、イルカと外出した際に事故で亡くなったそうだ。」
イルカの顔を横切る傷はその時のものだと言われて、カカシはイルカの顔を思い浮かべた。
小さい顔に似つかわしくない顔の傷。
イルカの母親のことも聞けなかったが、顔の傷のことも聞けなかった。
「それ以来、父上は事のほかイルカを大事にするようになったのじゃよ。」
湖の結界を強固なものにしたのも、わしじゃ、と三代目は明かす。
「真の姿が晒されれば、それを自分の手に入れようとする者が必ず出てくるであろうからの。」
三代目は温くなった茶を啜った。
「しかし、イルカの父上もだいぶ高齢であるから、最近はイルカを里に使いに出さなければいけなくなって、とても心配しているのじゃ。そして、自分がもうすぐ冬眠の時期を迎えるにあたって、小さいイルカが一人で暮らすことになることにも心を痛めている。」
「それで三代目にイルカのことを頼みに来たんですか?」
「そうじゃ。」
三代目は重々しく頷く。
「自分が冬眠している間はイルカを人間の姿にし、わしの傍に置いてほしいとな。」
「じゃあ、イルカはもう少ししたら、ずっと人間の姿で里にいるんですか?」
カカシは声がうきうきとするのが押さえられない。
あの生き物が毎日見られるんだ。
考えると、とても楽しくなる。
毎日、一緒にご飯食べたり買い物に行ったりして、あ、買い物に行ったら何でも好きなもの買ってあげちゃおうかな〜と夢見ていた。
カカシはすっかり忘れているが、イルカのことを頼まれたのはカカシじゃなくて三代目である。
三代目は、そんなカカシを見て面白いと思ったものの、気持ちが分からなくもなかったので、そっとしておいた。
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伝説の生き物 4
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