断崖絶壁崖っぷち その六
とりあえず、俺は気持ちを落ち着けるべく努力した。
この展開って何だろう?
幻術にでも掛かっているのかなあ。
相当、動揺してしまっていたようで気がつくとベッドに起き上がり、カカシ先生のお手製のお粥を食べさせられていた。
「はい、どうぞ」
カカシ先生に食事の介添えなんてしてもらっている。
スプーンに掬われた冷まされたお粥を口に運んでもらっていた。
「美味しい!」
久しぶりの飯は美味かった。
それにお腹にやさしい柔らかさと味付けだ。
カカシ先生って料理が上手なんだ〜。
「そうですか、それはよかったです」
カカシ先生は、にこにこだ。
結局、お粥は全部、平らげてしまった。
それから薬を飲んでベッドに寝かされた。
カカシ先生は俺に肩まで布団を掛けて、ぽんぽんと上から布団を軽く叩いた。
「今日一日、ゆっくり寝て。二日も寝ていれば治るでしょう」と言う。
そっか、二日か・・・。
二日!
掛けてもらった布団を跳ね除けて俺は飛び起きた。
「俺、昨日も今日も仕事を休んだってことですか?」
なんてこった、二日も仕事を休むなんて。
職場の皆に迷惑掛けているよなあ、ごめんと心の中で謝る。
「そうですよ」
それが何かという風にカカシ先生が不思議そうにしていた。
「だって風邪引いて熱が出て仕事に行ける状態じゃなかったですよ」
・・・それはいい、もうしょうがない病気の時は。
それより気になることがあった。
「あの、カカシ先生」
俺は、どきどきしながら訊いてみた。
「職場には誰が連絡を?」
まさか、カカシ先生・・・じゃないよな?
カカシ先生が連絡していたら、と想像すると怖い。
だってカカシ先生だよ?誰もが知っているカカシ先生だ。
ああ、そうだ、もしかして無断欠勤扱いになっているのかな。
あっさりとカカシ先生は俺の儚い願いを打ち砕いた。
「ああ、俺が連絡しておきました」
「そ、うですか。で、あの、カカシ先生のお名前は出したんですか?」
せめて名乗らないでいてくれたら・・・。
「ちゃんと言いましたよ。正体不明の人物から連絡が来たら不審に思うでしょ」
それは正論だけど。
「イルカ先生の同僚の方に、イルカ先生のことよろしくお願いしますって頼まれましたよ」
ああ〜、きっと絶対に何か誤解されている〜。
カカシ先生はうきうきとした調子で話している。
「心配しないで俺に任せてください、と答えておきました」
彼氏の俺に!と。
・・・・・・また、彼氏。
俺の与り知らない間に事態が新展開を迎えているじゃないか!
「あのですね」
風邪とは別の意味で頭が痛くなってきた。
ちょっと整理して最初から考えてみよう。
えーっと最初は・・・。
「カカシ先生、何で病院で『彼氏』なんて言ったんですか?」
重ねて訊く。
「彼氏って誰の彼氏なんですか?」
ここ、すごく重要。
俺の勘違いで誰か他の人のことかもしれないから。
俺じゃなくて他の綺麗な女の人のことかもしれなから。
「やだなあ」
カカシ先生は照れくさそうに笑った。
はにかんでいる様が意外に可愛い。
「イルカ先生の、でしょ」
・・・俺の動きは数秒止まった、おそらく呼吸も数秒止まったと思う。
「な、なななんで、俺の彼氏?」
声がひっくり返る。
事実を認めたくないって脳が拒否していた。
「だって俺のこと睨みつけたり無視していたじゃないですか」
どう見ても意地悪されていたよなあ。
カカシ先生の俺への行動を鑑みるに好意には到底、繋がらない。
「それは、あれですよ」
単純明快にカカシ先生は答える。
「照れていたんです、俺」
照れて、あの態度なのか?
カカシ先生は照れると怖くなるのか・・・。
あれは意地悪じゃなかったのか。
「好きな人を前にして照れちゃって、俺。何を話していいのか、緊張してしまっていて」
そうそう忘れていた『好きな人』発言。
カカシ先生は俺のことが好きなのか。
一番、肝心な大問題。
好きにも色々、あるから、な。
友達とか仲間とかエトセトラエトセトラ。
「カカシ先生って」
なんて訊けばいいかなあ、俺のこと好きなんですか?なんて訊いていいかな。
自意識過剰みたく聞こえる?
好きって訊くって難しい。
「ええっと、あのですね」
言葉に詰まる。
カカシ先生じゃないけど、な、なんか照れくさい。
もじもじしているとカカシ先生が俺のことを見て優しく笑った。
「イルカ先生」
名前を呼ばれて顔を上げると正面にカカシ先生の顔がある。
「好きですよ、イルカ先生のことが」
訊く前に言われてしまった。
「俺、イルカ先生の笑顔に一目惚れしてしまったんです」
笑顔に一目惚れって、すごい殺し文句だ。
俺は自分でも解るくらい、動悸が激しくなってきている。
これは風邪じゃない、断じて。
「ほら、中忍試験で言い争いして、その後、仲直りに食事をしたでしょう?」
「はい」と俺は頷く。
「その時のイルカ先生が俺に笑いかけたんです」
すごく優しくてすごく可愛い顔で。
そうだったかな?
いい雰囲気なのは覚えているけど。
「その笑顔を見てハートを打ち抜かれましたね、俺は」
ズキューンて、なんてカカシ先生は、いささか古い言い方をしている。
「それからイルカ先生のこと知りたくなって近くをうろうろしていました」
話しかけるのは恥かしくて中々出来ませんでしたが、と言っていた。
どうやらカカシ先生は本当に俺が好きみたいだった。
好きは恋の好きらしい。
でもさ、恋に免疫のなかった俺はカカシ先生に提案した。
「話は解りました」
一応。
「でも」
俺にも心構えとか心の準備とかが必要で。
ましてや俺たち、男同士。
「その、あの。友達から始めませんか?」
それが俺の恋のセオリーだ、古風だけど。
何事にも順番がある。
だがカカシ先生は首を振った。
「嫌です」と、きっぱり。
「最終的にはイルカ先生の彼氏のような立場になりたいのに遠回りは嫌です」
カカシ先生は頑固で情熱的な人だった。
その五
その七
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