断崖絶壁崖っぷち その五
俺の名前が呼ばれて診察の順番が来た。
診察室に行こうとするとカカシ先生が俺の腕を取り支えてくれた。
優しい仕草に、じーんとしてしまう。
病気の時って気弱になるっていうしなあ。
でもさ・・・。
カカシ先生、診察室まで来るつもりなのかな、と思ったら、その通りになった。
診察室に入り、お医者さんの問診、触診を受ける。
口を開けて喉の奥を見られた。
「赤くなって腫れていますね」
他の症状も合わせると風邪だろう、とのこと。
風邪か、そっか。
そうして薬を処方された。
抗生物質も出されたから、きっと程なくして治るだろう。
よかった、一安心。
カカシ先生は俺が診察されている間も傍にいて俺の診察風景を、じっと見ていた。
診察が終わるとカカシ先生がお医者さんに質問していた。
「ちゃんと治るんでよね?」
鋭い目でお医者さんを見ながら確認している。
お医者さんはカカシ先生の勢いに押されながらも俺の病状と薬の説明をしてカカシ先生は、
それに納得したようだった。
休養して水分と栄養のあるものを摂り薬を飲めば治る、と。
そりゃあ、そうだ。
普通はそれで治る、と俺は熱で、ぽーっとした頭で考えた。
薬を貰って家に帰って一刻も早く薬を飲まなければ。
この苦しい症状は治まらない。
「ところで」とお医者さんが物珍しそうにカカシ先生を見た。
「あなたは、ご家族の方ですか?お兄さんとか」
・・・まあ、訊きたくなるかも、な。
俺は一応、成人男性で。
そんな俺に付き添ってきた同じく成人男性のカカシ先生。
大人が子どもに付き添うのなら、ともかく、おかしな構図だ。
「いいえ」
カカシ先生が否定した。
目を細めて、にっこり笑う。
肌が泡立ち寒気がして、嫌な予感がした。
「彼氏です」
今、なんて?
かれし・・・って聞こえたような気がする。
かれしって、あの彼氏か、もしかして。
げ、幻聴かな、俺、熱あるし。
お医者さんは引き攣った笑いを浮かべて「そうですか」と聞き流し、お大事にと診察室から出されてしまった。
今の何だったんだろう・・・。
白昼夢でも見ていたのか。
カカシ先生は確かに、彼氏なんて言っていた。
誰の?俺の?
そのことで頭がいっぱいになっていた俺はカカシ先生が病院の会計してくれるのも
薬を受け取ってくれているのも、ただ呆然と見ていた。
喉が痛くて声が出ず体も体力が落ちて力が出ずに、カカシ先生に反論も出来なくて。
こんな時に、そんなことを言うなんてひどい。
究極の意地悪か、これって。
カカシ先生は何だって、あんなことを言ったんだ?
なんだか色々考えて混乱して目を閉じて開いたらベッドで寝ていた。
はっとして目を開けると見慣れている天井が見えた。
自分の家だ。
服も寝間着に着替えている。
「な、んで・・・」
ベッドに起き上がろうとすると声がした。
「あ、まだ寝ていた方がいいですよ」
声のした方を見るとカカシ先生がいた、俺の家に。
「少しは楽になりましたか?」とタオルで俺の額を拭いてくれる。
タオルは冷たくて気持ち良かった。
「何か食べますか?」
カカシ先生に訊かれて首を振る。
「じゃあ、何か飲みますか?」
その問いには頷いた。
ひどく喉が渇いている。
「ちょっと待っててください」
カカシ先生は慣れた様子で俺の家の台所に行き、冷蔵庫から飲み物を取ってきた。
コップに注いで俺の口元に持ってきてくれたので、そのまま飲んだ。
ほんとは自分で持った方が良かったのかもしれないけれどカカシ先生に甘えてしまった。
甲斐甲斐しくてお母さんみたいなカカシ先生。
俺はコップの飲み物を、ごくごくと音を立てて飲んだ。
乾いた喉に優しい飲み物。
お代わりして三杯も飲んでしまった。
「よかった、元気が出てきたみたいですね」
カカシ先生が安心したように俺の額に手を当てる。
「熱も下がってきましたね」
そういや体も、だいぶ楽だった。
「昨日、診察が終わったらイルカ先生、会計とかしている間に椅子に座ったまま気を失っていて」
カカシ先生が話し出した。
「急いで家に連れて帰って来て、あ、勝手にイルカ先生の家に入らせてもらいました」
すみません、とカカシ先生は謝ってくれたけど謝るのは俺の方だ。
いったい、どこまでカカシ先生の迷惑を掛けているだ!
「で、ベッドに寝かせて何とか薬を飲ませて看病していたんです」
「そ、それはすみませんでした」
俺は何度も頭を下げた。
そういや喉の痛みも薄れている。
「なんとお礼を言ったらいいか・・・」
昨日って言っていたからカカシ先生は一晩中、俺の看病してくれていたってことだよな。
なんて良い人なんだ。
意地悪な人だなんて思っていたことを俺は後悔した。
カカシ先生は気さくに「いいんですよ」と微笑んだ。
「だって好きな人を看病するなんて当たり前です」
・・・すきなひと?
昨日のあの言葉が鮮明に思い出されてきた。
・・・彼氏とかなんとか。
あの発言の真意は?
そうして話は振り出しに戻るのであった。
その四
その六
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