断崖絶壁崖っぷち その四
起きると最悪な状態になっていた。
体がだるいのは勿論、体中の関節が痛い。
喉も痛くて声が出なかった。
辛うじて出た声は掠れていて自分でも聞き取りにくかった。
普段の自分の声とは別人みたいだ。
それに頭が痛くて、まさに。がんがんとしていた。
熱を測ってみると三十八度を超えている。
朝から三十八度もあるってことは夕方には、きっともっと上がるだろう。
容易に想像できた。
ごほごほと咳は止まらないし。
これは病院に行くしかない。
医者に診てもらって薬を処方してもらって一刻も早く治さないと。
とりあえず俺はベッドから、よろよろと立ち上がると職場に一報を入れた。
体調悪くて休むことを。
幸いにして昨日、俺のことを気遣ってくれた同僚が出て直ぐに察してくれた。
「こっちのことは心配しなくていいから病院に行けよ」
しっかり治せと言ってくれた。
いいやつだ。
熱で、ふらっとなりながらも、そんなことを思う。
持つべきものは友達だ、と。
とにかく病院に行かなきゃ・・・。
だるい体で、よろめきながら俺は、どうにか着替えをして財布と保険証だけ持って家を出た。
目指すは木の葉病院だったが、その道のりは果てしなく遠く感じられた。
家を出て歩いていると目眩がしてきた。
熱の所為だとも思うけど、体調が悪くて食欲がなくて昨日から何も食べてなかったのもあると思う。
胃に何も入ってないのが悪いのか吐き気もしてきた。
体も熱くなってきて熱が上がってきているようだし。
辛い・・・。
だんだんと視界が暗くなってくる。
貧血の兆候だ。
立っていられなくて何かに掴まり体を支えようとしたのだが。
それも出来ず道端で俺は崩れるように座り込んでしまった。
・・・と思ったのだけど。
「大丈夫ですか!」
はし、と俺の体を受け止めてくれた人がいた。
病人の俺に手を差し伸べてくれるなんて親切な人だ。
「イルカ先生!」
聞き覚えのある声。
その親切な人はカカシ先生だった。
なんでカカシ先生がここに?
熱が出て思考が纏まらない頭で考えるには難しすぎる問題だ。
「カカシ、せんせい・・・」
何かを言おうとしたのだが何分にも具合が悪すぎた。
体も喉も頭も痛くて、しょうがない。
考えるのが、とても面倒で・・・。
差し伸べてくれるカカシ先生の手に縋ってしまった。
「昨日、イルカ先生の体が熱があったようなので心配していたんです」
カカシ先生の言葉が、ぼんやりとした頭にぼんやりと聞こえてくる。
「アスマに邪魔されたけど、あの後、心配でイルカ先生を家にちゃんと帰れるか跡をつけてしまいました」
昨日の白い影、幽霊だと思ったのはカカシ先生だったのかあ。
カカシ先生は俺の体に慎重に手を回して、ゆっくりと立たせてくれた。
そのまま、カカシ先生の体重を預けるような体制で少しずつ歩き始める。
歩くっていうか、これは既に抱きかかえられている状態で・・・。
ぐったりしていた俺は何の抵抗も出来なくてカカシ先生の為すがままだった。
ところで、と俺は痛む頭で、ふと思った。
カカシ先生、任務はどうしたんだろ?
今日は任務に行かないでいいのかな・・・。
病院に着くとカカシ先生は待合室の椅子に俺を座らせてテキパキと受付をしてくれた。
俺は、ただそれを見ていただけ。
お礼を言わなきゃと思ったけど喉が痛くて声が出ないし息をするのも苦しくて体も辛い。
人がいる場所では咳も極力しないように手で押さえていたのもあるかもしれない。
「イルカ先生、受付け終わりましたよ。しばらく待つそうです」
カカシ先生の、その言葉に俺は微かに頷いた。
「それから、これ」
どっから持ってきたのかカカシ先生の手には簡易マスクが。
「売店で買って来ました。マスクをして方がいいかと思って」
全く、その通りだ。
他の人に病気をうつさないためにもマスクは必需品。
カカシ先生にマスクを付けられて俺は一息つく。
「何か飲みますか?」
喉の渇きもカカシ先生は訊いてくる。
「熱がある時は水分を摂らないと」
解っているけど今は何もいらない。
そう意思表示する。
「そうですか、要るなら買ってきますから言ってくださいね」
有り難いことを言ってくれるが。
これ以上、俺といたら病気がカカシ先生にうつりそうで怖い。
親切にしてくれたことには感謝しているし、後日、治ってからきちんとお礼を言おうと思う。
だから。
ごほごほと咳をしながら俺は言った。
どうにか掠れた声を出す。
「カカシ先生、うつりますから。俺、大丈夫ですから帰ってください」
「何、言っているんですか」
ちょっと叱るようなカカシ先生の声がした。
「そんなに熱があって、ふらふらして倒れそうになっているのに」
そりゃあ、そうだけど。
でも、カカシ先生に迷惑を掛けるのが心苦しい。
今日は何故か親切で優しくしてくれているけど、本当は違うのに。
いつもは俺に冷たいのに。
でもカカシ先生は帰らなかった。
待合室の椅子に一緒に座って付き添ってくれて、一緒に診察の順番を待ってくれた。
順番を待つ間、いつの間にか俺は隣のカカシ先生の肩に寄りかかってしまっていた。
カカシ先生の肩は力強くて揺ぎ無い。
妙に安心してしまった。
それにカカシ先生は熱でふらつく俺が、ずり落ちないように肩に腕を回してくれている。
その手が、とてもあたたかったのだった。
その三
その五
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