AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


断崖絶壁崖っぷち その二



上忍の控え室の扉の前に立つと俺は控えめにノックした。
コンコン、と乾いた音がする。
反応はない。
もう一度、ノックしてみたが同じことだった。
誰もいないのかな?
部屋の中の様子を窺ってみると気配がない。
誰もいないようだった。
あー、よかった〜。
俺は、ほっと胸を撫で下ろす。
誰もいないってことはカカシ先生もいないってことだよな?
ということは俺が帰宅しても問題なしってことだよな。
きっとカカシ先生、待つのに飽きて帰っちゃったんだよ、うん。
うん、そうそう、きっとそう。
頭が痛いから俺も、このまま帰って寝てしまおう。
そう決めた俺が、くるりと横を向くと・・・。
そこにカカシ先生がいた。



音もなく現れるとは、さすが上忍!じゃなくて。
カカシ先生、どこにいて、どこから現れたんだ?
どっこにも人の気配なんてなかったぞ。
現れたカカシ先生は眠そうな目で俺を見ている。
威圧されるような鋭い眼光が俺に突き刺さった。
まるで戦場にいるような気分を味わう。
「え、と」
何か言わなくては、と俺は焦るが言葉が上手く出てこない。
・・・・・・俺を見ているカカシ先生が怖すぎた。
口をもごもごさせているとカカシ先生が俺を一瞥して言葉を発した。
「じゃ、行きましょ」
俺に背を向ける。
一度だけ振り返ったのは、ついて来いということらしい。
行き先も分からぬまま、俺はカカシ先生の後に続いた。
ああ、とっても不安だ。
いったい、どこに行くんだろう。
願わくば、ここで帰りたい。
人けのない場所まで行って、ばっさりとかだったら・・・。
いやいや、まさか、そんなこと、と頭痛のする頭で懸命に考える。
カカシ先生、そんな人じゃないから、多分。
割と理性的な人だから大丈夫、と自分に言い聞かせてカカシ先生について行った。



連れて行かれた先は人けが多い場所だった。
店が立ち並ぶ、商店街の一角の所謂、ご飯屋さん。
「ここは・・・」
見覚えのある店だった。
だって、この店、カカシ先生と一度、来たことある。
中忍試験の件で仲直りした時に来た店だ。
どうして、ここに?
俺が首を捻っていると先に店に入っていたカカシ先生が、ちょいちょいと俺を手招きした。
こっちに来いと言いたいらしい。
程なくしてカカシ先生と俺は、その店の畳敷きの個室に通された。
個室っていっても仕切りがある程度だけど。
この個室は予め、カカシ先生が予約しておいてくれたみたい。
なんで?
ますます、俺は解らなくなって首を捻っていた。



で、個室に美味そうな料理が運ばれてきてテーブルの上に並ぶとカカシ先生が言った。
「イルカ先生、どうぞ」
どうぞって言われても、なあ。
なんでカカシ先生が俺に飯を勧めてくるんだ?
なんでカカシ先生と飯を食べることになってんだ?
状況が全く解らない。
「あー、あのですね」
俺の不可解だという気持ちが顔に出ていたのだろう、カカシ先生が頭を がしがしと掻きながら言い訳するように早口で言う。
「これはあれです、この前、本を拾ってくれたお礼です」
「ほん?」
「俺の落とした本を拾ってくれたでしょう」とカカシ先生は罰の悪い顔をした。
「本当は、もっと早くお礼をしたかったんですが・・・」
タイミングが合わなくて、と申し訳なさそうにしている。
ああ、本って、あの時の・・・。
俺が山のように書類を持っていた時に拾ったカカシ先生の本のことか。



思い出したけど、同時にカカシ先生の言った言葉も思い出した。
それが言葉に出てしまう。
「でも、拾わなくてもよかったのに、って」って言っていた。
「それは、その」
カカシ先生は困ったように眉を寄せる。
「イルカ先生がたくさん荷物を持っていたのに、わざわざ拾ってくれたから。 教えてくれれば自分で拾ったのに、と思ってしまって」
そうだったのか〜。
なんか不器用な人だなあ、カカシ先生って。
思わずカカシ先生に微笑んでしまった。
するとカカシ先生が俺から、つと顔を逸らして仄かに目元を染めた。
どうしたんだろ、具合でも悪いのか?
・・・って具合が悪いのは俺だけどさ。
未だ、頭は痛い。



「イルカ先生が本を拾ってくれた時、舞い上がってしまっていてお礼を言うのを忘れていたと後で気がつきましてね」
カカシ先生は説明してくれた。
それが、この食事に繋がるわけかあ。
律儀な人だ。
それにカカシ先生は実はいい人なのかもしれない。
ちょっと不器用で、ぶっきら棒なところがあるけど。
俺に対して無言なのも理由があるのかもしれないし。
少なくとも嫌われてるようではない。
安心した。
「さ、どうぞ、イルカ先生」
改めて言われて俺は箸を持った。
頭が痛いけど、とりあえず食っておかないと。
家に帰って即効、薬を飲んで寝ればオッケーだろう。



「あ、そうだ」
カカシ先生の声が心なしが弾んでいた。
「お店に今日のお勧めの一品を店に頼んでおきました」
気を遣ってくれている。
嬉しいなあ。
そして、そのお勧めの一品が運ばれてきたのだが・・・。
「お勧めの一品は旬の食材を使ったご飯ですよ」
ご飯・・・、嫌な予感がする。
それってそれって、それってさあ。
ああ、やっぱりとお勧めの一品を見た俺は思った。
予想通り、混ぜご飯。
俺の苦手な混ぜご飯だった。



混ぜご飯は何故か苦手だった。
昔から。
最後に食べたのは、いつだっけか。
俺は遠い目になる。
確か母ちゃんに好き嫌いせずに食べなさいって怒られて食べた記憶があるから、それが最後なのだろう。
目の前の混ぜご飯は、ほかほかの湯気を立てて食べてほしそうにしている。
ああ、これが混ぜご飯じゃなかったら、どんなに良かったか。
心中、俺は溜め息を吐いた。
顔を伏せながらカカシ先生を上目遣いで見やる。
もしかして・・・。
カカシ先生は俺が混ぜご飯を苦手なのを知っていて勧めたりしてない、よな?
それは邪推しすぎか。



俺は泣く泣く右手に箸、左手に混ぜご飯の入った茶碗を手に取った。
箸でご飯を掬う。
ご飯を口まで持ってきたけど。
ああ、出来たら食べたくない。
カカシ先生は俺が食べるのを今か今かと待っているようで、俺から視線を外さない。
これは食べないわけにいかないよな。
子どもみたいに食べれませんとか言えないし。
俺は死ぬ気で混ぜご飯を食べた。
もぐもぐもぐ、咀嚼する。
食べながら思った。
母ちゃん、やっぱり俺、混ぜご飯苦手です、大人になったけどこれだけは駄目です、と。
そして知ってか知らずか、俺の苦手な物をチョイスして食べさせてくれたカカシ先生を俺は・・・。
ちょっぴり意地悪な人だと思ってしまったのだった。



その一
その三




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