Cookie&Biscuit 5
「おはようございます、火影さま」
火影のいる部屋に入るとイルカは頭を下げて、丁寧に朝の挨拶をする。
「・・・おはよーございまーす」
カカシもイルカを倣って挨拶をするが、ぺとりとイルカの背中に張り付いたままだ。
イルカの背中に張り付いてイルカの腰に手を回して、ぎゅっと抱きついている。
その様子を見て、火影は眉を顰める。
「まだ、記憶は戻ってないようじゃな」
「そうみたいです」
カカシがしていることは本当に子供のようで、演技には見えない。
火影は、またカカシに質問を幾つかする。
質問が終わると火影は、ふうと息を吐いた。
「駄目じゃな」
首を左右に振り、遠い目になっている。
「記憶は戻っておらぬ。イルカよ」
「はい」
「引き続き、カカシの面倒を見ておくれ」
頼まれてしまった。
「そんなあ、火影さま。俺には色々、無理ですよ」
「しかしじゃな」
イルカにくっ付いているカカシに目を遣る。
火影に見られたカカシは、絶対にイルカから離れないぞと腕に力を入れた。
その結果、またもやイルカは床から浮いてカカシに背中から抱きかかえられる形になる。
「ちょっと!離してください、カカシさん」
「絶対に嫌です」
強固にカカシは断った。
「絶対に、何があっても離れません」
「そんなの無理ですよ」
「無理じゃないです」
「無理ですって。風呂やトイレは別々だから離れざるを得ません」
イルカは変な突込みを入れている。
「じゃあ、これからは総て一緒ってことで」
「無理ってか、やだ!」
「冷たいです、お父さん」
カカシの悲しそうな顔を見るとイルカは抵抗をやめた。
何だか、カカシに意地悪しているような気分になってしまう。
「俺は、こんなにお父さんのことが好きなのに〜」
言って、カカシはぐりぐりと自分の頭をイルカの頭に押し付けた。
「お父さんと離れたら俺は生きていけません」
「・・・決まったな」
カカシとイルカのじゃれ合いを見て火影は決断を下す。
「記憶が戻るまでカカシを頼むぞ、イルカ」
「うう・・・。はい、畏まりました」
「それからカカシは記憶が戻るまで休養、イルカは通常通りにアカデミーの仕事や任務をするように」
「え、俺だけ?」
「そうじゃ。イルカはアカデミーで研修中の身の上、休むと支障が出るのではないか。それに」
火影は重々しく頷く。
「これまでカカシは、ちと任務を受ける量も多くランクも高すぎるものばかりであった。ここらで暫し、休むのがよかろう」
「そうですか」
それならば仕方がない。
イルカには想像もつかないような任務をカカシはしてきたのだろう。
辛い任務も苦しい任務もあったはずだ。
それを思うと胸が痛い。
「カカシさん」
「はい、お父さん」
背後からカカシはイルカの肩に頭を乗せてくる。
その灰銀色の頭をイルカは撫でた。
「当分、一緒にいるみたいですよ、俺たち」
「俺とお父さんはいつだって一緒です」
にこ、とカカシは微笑む。
子供みたいで可愛かった。
それからイルカは火影のカカシの家の場所を聞いて必要なもの取りに行った。
無事に家に着いたものの、玄関には当然ながら鍵が掛かっていた。
がちゃがちゃと玄関のノブを回してイルカはカカシに聞く。
「カカシさん、家の鍵を持ってないですか」
「え、なんで俺が?」
カカシは、きょとんとしている。
「知らない家の鍵なんて持っているはずありません」
ここは本来ならば、カカシの家だ。
そんな訳ないだろう、とイルカは思ったが口には出さなかった。
「カカシさん」
ちょいちょいと手招きしてイルカはカカシを引き寄せる。
引き寄せて、忍服のベストの内ポケットに、ぐいと手を突っ込んだ。
「急にどうしたんです、お父さん。積極的ですねえ」
「何を言っているんです。・・・あ!あった!」
カカシのベストの内ポケットには銀色に光る鍵が入っていた。
「俺も家の鍵は、ここに仕舞うんで、もしやと思ったんですよねえ」
玄関の鍵穴に入れると、どんぴしゃだった。
がちゃり、と玄関の扉が開く。
「どうして、この家の鍵が俺のポケットに?」
カカシは不思議そうにしている。
「誰かが忍ばせたのかな」と、とぼけたようなことを言っていた。
「お邪魔しまーす」
言ってイルカはカカシの家へと上がりこむ。
「カカシさん、勝手に部屋を見てもいいですか」
「え?俺の部屋じゃないですけど、いいですよ」
「はーい」
了承を貰ったイルカはカカシの部屋を見て回る。
「冷蔵庫の中には腐るような物はなし、と。風呂場も綺麗だし」
ぱたぱたと部屋の中を駆け回った。
「着替えを持っていかなきゃなあ。それと」
カカシの方を振り返る。
「カカシさん、他に必要なものとかありますか?」
ちょうどカカシは本棚の前にいた。
本棚には、ぎっしりと本が詰まっている。
その本をカカシは見ていたのだ。
「え・・・。そうですね、本を十数冊持って行きたいです」
「じゃ、それは自分で選んでくださいね」
「はい」
「それから、必要なものは・・・」
着替えの他に何かあるだろうか?
カカシは任務も当分ないのだし、忍具は必要ないように思える。
「大事なものとか?」
きょろっと辺りを見るとベッドが置いてある窓辺の写真立てが目に付いた。
大人が一人に子供が三人。
子供のうちの一人にはカカシの面影がある。
「これ・・・。子供のカカシさん?」
子供特有の背伸びをして、ませた感じがするのが可愛い。
「うわーうわー。子供の頃のカカシさんって、こんなだったんだ〜」
宝物でも発見した気分だ。
「これ、持っていった方がいいかな?それとも、ここに置いていった方が」
今のカカシは、この写真を見て、どう思うだろう。
もしかしたら写真を見れば、記憶が戻るかもしれない。
そう思ったイルカはカカシを呼んだ。
「カカシさん、こっちに来てもらえますか」
「どうしました、お父さん」
「えっと、これ」
写真立てを差し出してカカシの反応を伺う。
「あ、これ、俺ですね!」
カカシは子供の頃の自分を覚えていた。
「他の方たちのことは?」
「うーん、見たことがあるようなないような」
曖昧だ。
「知っているような気がしますが思い出せません」
写真を見ても記憶は戻らなかった。
現実は、そう上手くいかない。
「そうですか・・・」
少しがっかりする。
「この写真は持って行きますか、置いていきますか?」
カカシに尋ねると迷った末にカカシは置いていくと言った。
「何となくですが、この部屋に置いておくのが正しい気がします」
カカシの記憶が戻るまで、この部屋で待っていてほしいということ示唆しているのかもしれない。
今のカカシは記憶を失った状態だが、潜在的な記憶がカカシをそのような行動に駆り立てたのかもしれない。
「じゃ、これは置いておきますね」
イルカは、そっと写真立てを元の位置に戻す。
カカシに向き直り、別のことを聞いた。
「持っていく着替えなんですが、どれとどれがいいですか」
タンスやクローゼットの中からカカシに服を選んでもらう。
「どうして見覚えのあるような服が、この家にたくさんあるんでしょうかね?」
カカシは首を傾げている。
「おかしいなあ」
考え込んだカカシが、はっとしたようにイルカを見る。
「俺、お父さんのところから攫われて、この部屋で無理やり生活させられていたんですか!」
俺とお父さんの仲を嫉妬をする何者かに引き裂かれて、離れ離れに・・・。
「カカシさん」
イルカは、がくーっと肩を落とした。
「その話、他の誰かにしちゃ駄目ですよ」
釘を刺す。
「記憶が戻ったときに多分、自分の言ったことが、すっごく恥ずかしくなりますから」
何ゆえ、そんな発想になるのか。
イルカには皆目見当もつかなかった。
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