Cookie&Biscuit 4
朝。
柔らかな温もりを感じてイルカは目が覚めた。
あったかい。
布団の温かさではない、もっと別のあったかいもの。
もっと触れたくてイルカは擦り寄っていく。
いいなあ、この感じ・・・。
昔を思い出す。
幼い頃に両親と一緒に寝ていたような感覚。
誰かと寝ているような・・・。
はっとしてイルカは目を開けた。
目の前には男前の顔。
誰だっけ?
考える前に、その男前の声がした。
「お父さん、おはようございます」
「カ、カカシさん」
そうだった!
完全にイルカは覚醒する。
この人はカカシさんで現在、記憶喪失中で俺の家にいて、何故か俺を『お父さん』と呼ぶ。
「お父さんと寝るとあったかいですねえ」
そう言ってカカシはイルカを胸に抱き寄せた。
「お父さんの体温、俺より高いみたいだから抱っこして寝るとちょうどいいです」
「抱っこって・・・」
本当は自分より年上の成人男性に抱っこなんぞされても余り嬉しくはない。
ってか、これって変だよな。
イルカは至極最もな感想を持つ。
男二人が狭いベッドで寝るって、どんなシチュエーション?
考えても謎は深まるばかりだ。
とにかく・・・。
カカシの腕から抜け出そうとイルカはベッドから這い出ようとする。
布団を捲って驚いた。
「カカシさん・・・」
イルカから低い声が出る。
「何で服を着てないんですか?」
カカシは何も身に付けておらず、所謂、生まれたままの姿であった。
簡単に言うと素っ裸だ。
同性なのに目の遣りどころに困ってイルカは視線を泳がせる。
こんなに間近で人の裸を見たのは初めてだったので、どきどきしてしまった。
しかもベッドの上で。
「あ、あの、カカシさん」
「はい、何でしょう」
「その格好は・・・」
腹筋を使って上半身だけ起き上がったカカシは頭を、がりがりと掻いた。
「着替えの服がなかったんです」
「ああ・・・」
「昨日、お父さん、俺が風呂に入っている間に寝ちゃったでしょ」
「そういえば」
先に風呂に入ったイルカはカカシが風呂から上がるのを待っている間、居間で横になっているうちに寝てしまっていた。
それに元々、イルカの家にはカカシの服なんてないので、どうしようと思っていたところだ。
「で、着替えのある場所を聞こうにも起こすの悪いなと思って。着ていた服は、お父さんが風呂場にあった洗濯機に入れて、ボタンを押せば洗濯して乾燥までしてくれるからって」
お父さんの家には便利な洗濯機があるんですねえ、とカカシは無邪気に言う。
「あれは・・・」
う、とイルカは黙り込む。
あの洗濯機は単に自分が面倒くさがりで楽したいと思って、洗濯から乾燥までしてくれるのと買ったんですとは言えなかった。
なので、笑って誤魔化した。
「あはははは〜、便利なんですよね、あれ」
そう言うのにとどめておいた。
「で、そのまま寝ちゃったんですか?」
「はい」
別に寒くなかったし、とさらりと言う。
「お父さんと寝たから、あったかかったですよ」
それを聞いて、かーっとイルカは赤くなる。
慌てて両の頬を両手で押さえて、顔を隠した。
何だか解らないけど恥ずかしい。
「どうしたの?お父さん」
カカシが、のそりと大型動物のようにイルカの方へと両手を突いて乗り出してきた。
「小さい頃は、よく一緒の布団で寝ていたのに」
今更、恥ずかしいの?と。
そんなこと言われても!
そんなことしたことないし!
「え、えっと」
乗り出してきたカカシをイルカは押し返した。
何も身に着けてない状態で近寄らないでほしい。
自分以外の体なんて見慣れていないし、妙に気恥ずかしい。
だがカカシを押し返したイルカの目にあるものが映った。
「カカシさん、腹筋、すごいですね」
カカシの腹部だ。
体はとても鍛えられていて、腹部に余計な肉はない。
腹筋も見事に割れている。
同じ忍としては羨ましくなるくらい、引き締まった綺麗な体つきだった。
「いいなあ」
思わず、イルカはぺろんと寝巻きを捲って自分の腹筋を見る。
カカシと自分の腹筋を見比べて溜め息を吐いた。
「はあ、俺もカカシさんのような腹筋が欲しい」
「お父さんの腹筋だって、中中のものですよ」
すっと手を伸ばしてきたカカシが何でもないことのようにイルカの腹筋に触れる。
さわさわと撫でられた。
「ちょっと筋肉が薄いかな?細いんですね」
きゅっと両手でウエストを掴まれる。
「お父さん、もう少し食べる量を増やしたらいいと思いますよ」
「そ、そそそ、そうですか」
剥き出しの腹や腰を遠慮なく、カカシに触られて何だか背中がむずむずしてくるイルカだ。
くすぐったいし、こそばゆい。
触るのを止めてほしい。
「あ、そうだ」
イルカは捲っていた寝巻きを下ろすと、カカシの手から逃れるように急いでベッドから飛び降りた。
「カカシさんの服、取ってきますね」
もう乾いていると思うから、と洗濯機に向かう。
いきなり素肌に触れられて、びっくりした。
しかも腹や腰なんて、日常生活の中で触られたことがない。
自分が『お父さん』だから、カカシは特に何も思わず触ってくるのだろうか。
親子のスキンシップだと思って。
そう考えるとカカシがイルカに触ってくるのは自然な行動だ。
何しろ、子供とお父さんなのだから。
外見云々は置いとくとして。
洗濯機の蓋を開けるとカカシの洋服は既に乾いて、ふかふかになっていた。
それを取り出してカカシのところへと持って行く。
「カカシさん、服、乾いていましたよ〜」
まだ、ベッドにいたカカシの前に、どさっと服を置く。
そのとき、ひらひらと一枚の布が床に落ちた。
「あ・・・」
その布にイルカの目が釘付けになる。
だって、イルカが大事にしていた母の形見のハンカチだったから。
任務にお守りとして持っていっていたハンカチ。
それを記憶を失う前の怪我をしたカカシに渡して、返してもらっていなかったのだ。
「これ」
床に落ちたハンカチを拾って、じっと見ているとカカシが「ああ、それは」とイルカの手からハンカチを奪い取ってしまった。
「このハンカチ、お父さんが俺にくれたんですよね」
「え?」
「怪我をしたときに俺にくれたじゃないですか」
「そうだけど」
そうじゃない。
カカシの話は微妙に違う。
ハンカチは、あげたんじゃなくて貸しただけ。
しかし、それを言う勇気はイルカにはなかった。
カカシが満面の笑みで「大事にしますね」なんて言うもんだから。
イルカを信じて疑わない子供の笑みだ。
イルカは、これに弱い、とっても。
基本、子供好きは子供に弱い。
どうしたらいいんだろう、とイルカが途方に暮れたとき、窓の外から音がした。
こんこん、と。
「あ、火影さまの使役鳥」
火影の式だ。
「えーと、なになに」
式には朝食を食べたら、カカシとイルカの両名で火影のところに来るようにとのことだった。
「火影さまがお呼びです」
「ふーん」
カカシは興味がないらしい。
「あそこに言ってもつまんない」とか子供のようなことを言っている。
「まあ、そうかもですね」
イルカは苦笑する。
「火影さまはカカシさんのことを心配されているんですよ」
記憶が戻ったかどうか。
・・・まだ、戻ってないようだけど。
それに。
火影さまにカカシさんの家の場所を聞いて着替えを取ってこよう。
他にも必要な物もあるかもしれないし。
「今日が休みでよかった」
イルカは伸びをする。
カカシもイルカも任務明けなので、今日一日は休みだ。
「そうですねえ」
伸びをしているイルカにカカシが後ろから抱き付いてきた。
「折角の休みなんですから、その火影さまとやらに会ったら、お父さんとどこかに出掛けたいです」
休日のお出掛け。
楽しいことが起こりそうな予感がした。
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