Cookie&Biscuit 2
「で?お父さんの家はどっちです?」
カカシに後ろから腰に手を回されて、持ち上げられているイルカは歩いていない。
地面から浮いている。
「あー、あっちです」
イルカが方向を示すとカカシは、その通り歩いて行く。
通りすがりの人に見られて、少し恥ずかしいが、歩かなくて楽だ〜なんてイルカは気楽に考えていた。
持ち上げられて運ばれるのが楽しかったのもあるが。
「あ、ここです」
年代物の木造アパートの二階の隅がイルカの部屋だった。
ちなみに、この木造アパートは里が借り上げていてくれて、中忍に安い賃貸料で貸し出しているものだ。
ゆえに、イルカの他にも忍が多数、住んでいる。
「へえ、ここがお父さんの家ですか」
カカシが物珍しそうにアパートを眺めている。
「今にも崩れ落ちそうでスリルがありますね」と一言、多い。
むっとしたイルカは、つい言い返してしまう。
「嫌なら、住まなくていいんだけど」
何も、こちらから住んでくれと頼んでいるわけではない。
火影に面倒を見てくれと頼まれたから、渋々なのだから。
まだ、いまいち納得してない部分もあるのだし。
「そんなあ」
カカシは哀れっぽい声を出すとイルカに甘えるように、すりすりとイルカの頭に自分の頬を押し付けた。
「お父さん、そんな冷たいこと言わないでください」
親子でしょ、と訴えてくる。
そもそも、それが誤った認識なのだが。
記憶喪失なのは、ともかくとして・・・。
どうしてイルカが、上忍で年上の男性の父親になるのか。
疑問は尽きない。
はあ、と息を吐いたイルカはカカシに言った。
「ともかく、俺の家に行きましょう」
「は〜い」
るんるんで返事を返すカカシであった。
「ただいま・・・」
「たっだいま〜」
玄関を開けて家に入ると、やっとカカシは下ろしてくれた。
「はあ、家だ〜」
イルカは、ほっとする。
「疲れたなあ」
任務で疲れて帰ってきて、更にカカシの面倒を何故か見なければならなくなっている。
頭の中が、ごちゃごちゃでゆっくり考える時間が欲しい。
「お茶でも飲むか・・・」
カカシにテーブル周辺に、適当に座っているように言ってイルカは湯を沸かす。
それから、食器棚から取って置きのティーセットを取り出した。
ソーサーつきのティーカップに、同じ柄のティーポット。
イルカにとっては結構、値が張るもので大事に大事に使っている。
「それと・・・」
戸棚を空けると可愛らしい缶を二つ、取り出す。
「お茶には、やっぱこれだよなあ」
ぱかっと蓋を開けると中には、クッキーとビスケットがそれぞれの缶に入っていた。
それをティーセットとお揃いの皿に何枚か盛る。
カカシの分と自分の分と。
「あ、お湯が沸いたかな?」
薬缶に入れたお湯が沸騰している。
「まずは・・・」
お湯をティーポット、カップにそれぞれ入れて温めること暫し。
それからティーポットに紅茶を入れて、湯を注ぎ蓋を閉めて蒸す。
揺らさずに、じっくりと茶葉から色が出るのを待つのだ。
これはイルカの今は亡き母親が幼い頃に紅茶を淹れてくれた手順を思い出して、うろ覚えで真似している。
正しいかどうかは解らない。
「そろそろ、いいかな?」
ティーポットの蓋を開けて中を覗くと、液体が琥珀色に染まっていた。
「よし!」
辺りには紅茶の香りが漂っている。
この匂いを嗅ぐとイルカの心は落ち着いてきた。
ふんわりとした、あったかくて、いい匂い。
懐かしくもある。
「さてと」
紅茶を飲もうとテーブルに運ぶとカカシはいなかった。
「あれ?」
どこに行ったのかと思ったのだが、イルカの家は部屋が二部屋しかない。
台所と繋がった居間と寝室。
カカシは寝室にいた。
「あの〜」
「ああ、はい」
イルカの呼ばれてカカシは「すみません」と頭を、がしがしと掻く。
「お父さんの家って、どんなかな〜って探検してました」
探検・・・するほどイルカの家は広くも大きくもない。
でも、子供は探検好きだもんなあとイルカは思う。
自分も子供の頃、よく色んなところを探検したものだ。
「・・・お茶が入ったので、どうぞ」
「は〜い」
カカシは嬉しそうに返事をした。
「美味しいですねえ」
温かい紅茶を飲んでカカシは、にこにこしている。
「お茶が、こんなにも美味しいものだとは」
大げさなくらい喜んでいる。
「こんな風に、ゆっくりとお茶を飲んだことはなかったような気がします」
「そう・・・ですか」
カカシの発言には妙に重みがある。
上忍ならではの任務をしてきただろうと思えるほどの。
何だかしんみりしてしまう。
居た堪れなくなったイルカは皿に盛ったクッキーとビスケットをカカシに勧める。
「よかったら、これもどうぞ。紅茶に合いますよ」
勧めながらイルカはクッキーを一つ手に取ると口に運んだ。
さくっとした感触のクッキーを噛むと口の中の甘さが広がる。
紅茶は砂糖なしで飲んでいるので、クッキーの仄かな甘さと非常に相性が良かった。
クッキーやビスケットの類はイルカの好物である。
「じゃあ、俺も」
カカシもクッキーを一つ、手に取ると口に入れた。
もぐもぐと租借して、次はビスケットに手を伸ばしている。
あっという間にビスケットも口の中に消えた。
どうやら、気に入ったらしい。
「お茶もお菓子も美味しいですね」と、にこにこ顔だ。
「なら、良かったです」
にこっと笑ったイルカも紅茶を口に運んだ。
芳しい香りの液体を飲むと体が、ぼかぼかとしてくる。
とっても美味しい。
紅茶を飲むと、ほっとしてきた。
漸く、落ち着いてきたところでイルカはカカシに話を切り出した。
「えーと、あのですね」
こほんと咳を一つしてから話し出す。
「今後のことなんですけど」
「はい、何でしょう、お父さん」
カカシはイルカのことをお父さんを呼ぶのを止めない。
まずは呼び名の件から解決だ。
「俺は現在、便宜上、お父さんですが本当は違います」
「またまた〜、何を言っているんですか、お父さん」
「火影さまから説明がありましたよね?」
記憶喪失だと。
「お父さん」
そう言うとカカシは目に涙を浮かべた。
嘘ではない、本気の涙だ。
そして、イルカの手を握り締める。
「どうして、そんなこと言うんですか?俺のこと嫌いになっちゃったの?俺は、こんなにお父さんが好きなのに」
涙目で、そう言われてはイルカは太刀打ちできない。
元々、子供好きということもありアカデミーの勤務を希望した。
カカシは形は大人とはいえ、今はイルカのことをお父さんと信じて疑わない子供で、イルカは子供の涙には滅法弱い。
イルカは、すぐに否定した。
「う、嘘です嘘です。今のは嘘です。嫌いになったりなんかしませんから」
握られた手を、ぎゅっと握り返す。
「ほんとに?」
「本当です」
「俺のこと好き?」
「好きです」
「大好き?」
「大好きです」
うんうんと頷く。
「良かった・・・」
目に溜まった涙をカカシは指で拭う。
その仕草に、イルカの胸が押し潰されそうになった。
こんな子供になんて酷いことをしたのだろう。
見かけは大人にしか見えないが。
いたいけな子供に。
お父さんから、呼び名を変えてもらうのをイルカは諦めた。
となると、イルカはカカシのことをどう呼べばいいのか。
はたけ上忍。
カカシ上忍。
そのくらいしか、思いつかない。
呼び捨ては、さすがに出来ない。
うーん、と悩んで出した結論が「カカシさん」だった。
「カカシさん、でいいですか?」
さん付けで呼ぶ。
親子という設定なので、名字で呼ぶのは変かもしれない。
イルカの妥協案だった。
だけども、カカシは不満顔だ。
「どうして、いつものように『カカシ』って呼んでくれないんですか?」
ちなみに『カカシ』と呼んだことは一度もない。
名前さえ、知らなかった相手なのだから。
またまた、瞳をうるっとさせて涙ぐんできたカカシにイルカは慌てる。
「わわわっ!な、泣かないで!」
イルカは女の涙よりも、子供の涙が弱点でもある。
今は純粋無垢の子供であろうカカシの涙は、胸にくる。
出来れば泣かせたくない。
泣いてほしくない。
「ご、ごめんなさい」
イルカはカカシの傍に寄ると今度は、自分の袖口でカカシの涙を拭った。
「俺が悪かったです。だから、泣かないで」
「お父さんが、そう言うのなら」
カカシは涙を引っ込める。
「えーっとえーっと、じゃあ、なんて呼べば?」
考え付かない。
「ほら、あの、だから、つまり・・・。もう大人で一人前になったという意味で、その『カカシさん』と呼ぼうと思った訳で」
苦しい言い訳だ。
「例え、親子であっても一人の人間として認めたというか、成人としてのけじめというか」
言えば言うほど、深みに嵌っているような気がする。
だけど、カカシは納得したようだった。
「ってことは、お父さんは俺を一人の男をして認めてくれているんですね!」
納得してくれたが、微妙にニュアンスが違うような気がする。
・・・が、そこはスルーしてしまった。
「うん、そう、そういうことなんです」
こうして、カカシとイルカの奇妙な共同生活は幕を開けたのであった。
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