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「あ、あの・・・。」
はっとイルカは正気に返った。
気がつくとカカシの腕の中で、そのカカシの腕は自分の背に回っている。
これでは、まるで抱きしめられているかのよう。
恋人同士のようではないか。
しかも・・・。
自分は、いつの間にかカカシに好きだといっていたらしい。
話の流れで言ったのか。
自然に口から出ていた言葉なのでイルカは特に意識していなかった。
だけども。
一度、意識してしまうと恐ろしいほどの恥ずかしさに襲われる。
カカシさんのことが好きだって言ってしまっていた!
自分の気持ちをカカシに知られてしまった。
でも、心の準備が出来ていない。
まさか、こんな時にカカシのことが好きだと知られてしまうなんて。
今は自分の誤解が解けてというか勘違いが判明して、ほっと一安心していたところだったのに。
「ええと・・・。」
まともにカカシの顔が見れなくてイルカは顔を横に向ける。
抱きしめられているカカシの胸を押した。
くっ付いていては体温が上昇するばかりだ。
顔が熱い。
「俺、あの、その。」
「イルカ先生。」
カカシに名を呼ばれただけで、どきどきしてくる。
カカシさんは俺が好きで、俺もカカシさんが好きなんだ。
その事実は解ったけれども。
口に出して相手に伝えるのは、また別だ。
今、ここでカカシを前に好きだと言うことが、これほど難しいことだとは・・・。
なので。
「い、一度、家に帰って一人になって気持ちを整理して。」
それから言いたいので少し時間が欲しい、とイルカは言ったのだがカカシは納得いかなかったらしい。
「そんなあ〜。」
残念そうな声を出す。
「じゃあ、いつになったら好きだって言ってくれるの?」と訊いてくる。
「えと、一週間くらい・・・。」
「一週間!」
あ、短すぎ、と思ったイルカは言い直した。
大事なことは、じっくりと考えなければ。
それから言っても遅くない。
「一ヶ月くらい、かな。」
「一ヶ月!」
まだ短いか、とイルカは更に言い直す。
「半年くらいで。」
「半年!」
カカシは悲痛な声を上げた。
「すみません、じゃ、一年・・・。」
「あのねえ。」
ちょっとだけ怖い顔をするカカシ。
「そんなに待てるわけないでしょ!」
強くカカシに遮られてしまった。
「イルカ先生。」
固い意志を宿した瞳がイルカを覗き込む。
「俺、イルカ先生のことが好きです。」
瞳の色は真剣だった。
「大好き。」
その声はイルカの心を包んでいく。
「世界で一番好き。」
ふわり、とあったかくなっていくのが分かる。
心も体も。
イルカにだけカカシは言っている。
好きだと。
「イルカ先生の気持ちが分かっているのに、これ以上、待つことなんて出来ません。」
カカシは、ぐいぐいと押してくる。
「今、ここで、イルカ先生に好きだと言ってほしい。」
イルカを抱いている腕の力が緩まることはない。
それはカカシのイルカへの気持ちを表しているようでもあった。
「俺のこと好きだって言って。」
お互いの胸が、ぴったりと密着するほど寄り添って耳元で低く囁かれればイルカに、もう選択の余地はなかった。
カカシの肩口に顔を押し付けて、息を整える。
心臓の鼓動が最高潮に速まっていた。
「俺は・・・。」
なんとか声が出た。
情けないことに少し震えていたが。
本当に言ってもいいのだろうか・・・。
少し迷いはあったが自分の気持ちに嘘はつけない。
勇気を出して。
イルカは言った。
「好きです、カカシさん。」
声は小さかったがカカシには聞こえたのだろう。
イルカを抱きしめる腕の力が、ぎゅっと強まった。
「カカシさんのことが好きです。」
イルカは繰り返した。
「俺、カカシさんが大好きです。」
カカシの腕の力が強まって体が砕け散るかと思った時に、ふっと腕の力が抜けた。
はあっと息を吐くとカカシが満面の笑みでイルカを見ていた。
「嬉しい!イルカ先生!」
その顔は、とてもとても幸せそうだった。
こんなカカシは見たことがない。
「嬉しい嬉しい嬉しい!」
カカシは何度も言う。
「俺もイルカ先生のことが大好きです!」
「あ、ありがとうございます。」
「これで相思相愛ですね!」
「そ、そうですね。」
にこ、と笑ったカカシは、ごく自然に言った。
「俺と一生を共にしてくれますよね?」
「あ、はい。え・・・。」
「これで俺たち、一生一緒ですね!」
カカシの言葉にイルカは声が出なくなる。
一生を共に、その言葉はプロポーズに聞こえなくもない。
でも、それは・・・。
イルカの望むことでもあったので、ただただ、頷いた。
好きな人を一生を共にする。
なんて素敵なことだろう。
胸に今までに感じたことのないものがこみ上げてくる。
ふんわりと柔らかく優しい、それは・・・。
幸せという名のものだった。
幸せ。
その言葉に包まれて押しつぶされそうになる。
なんだか、どっと疲れてしまってイルカはカカシの胸に倒れこんだ。
「イルカ先生、大丈夫?」
「・・・疲れました。」
正直に言うとカカシがイルカを支えている手を、イルカの体の下に入れて抱き上げた。
そのまま、ぽんとベッドに落とされる。
「今夜は泊まっていくといいですよ。」
お酒も飲んでるし帰るのしんどいでしょ、と言ってくれたので、その言葉にイルカは甘えることにした。
傍らには自分を優しい目で見つめるカカシ。
自分の好きな人が傍にいてくれる。
ああ、幸せだ。
深く、そう思ってイルカは目を閉じたのだった。
次の日の昼ごろ。
上忍の控え室にいたアスマの元へイルカがやって来た。
しきりにアスマに頭を下げる。
「昨日は酔っ払ってしまってすみません。」
丁寧に謝られた。
「カカシさんにお聞きしましたら、精算の方をされたとか。」
半分出します、とイルカは律儀に申し入れてきた。
「いいっていいって。」
アスマは鷹揚に手を振る。
「大したことないから気にすんな。」
「でも・・・。」
気にするイルカに、にやりと笑ってアスマは言った。
「そんなことより、昨日は狼に何もされなかったか?」
「え、狼?」
「送り狼にだよ。本人が言うには野生じゃないらしいがな。」
意味深に言うとイルカはアスマが何を言いたいか悟ったらしい。
頬に、ほんのりと朱がさす。
「もしかして喰われちまったのか?」
からかうとイルカは反射的にだろう、言い返してきた。
「まだ、キスだけです!」
言ってから、はっと口を押さえる。
「そうかそうか。」
あっはっはっとアスマが笑うと、どこからか、おどろおどろしい声が聞こえてきた。
「俺の大事な人、いじめないでくれる〜。」
カカシであった。
「あ、カカシさん!」
イルカの顔が、ぱっと輝く。
「イルカ先生、こんなところにいたんですね。」
カカシの手が伸びてイルカの手を掴んだ。
「さ、お昼ご飯でも食べにいきましょう。」
「でも、まだ昨日のお礼とお詫びが・・・。」
「それは、もう俺が済ませました。」
しれっとカカシは言うとイルカの手を引いて控え室を出て行ってしまった。
カカシとイルカの手は指と指が絡まっていて。
それを見たアスマは長々と溜息をついた後に言った。
「二人とも幸せそうじゃねえか。」
よかったな、と呟いたのであった。
終わり
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