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「今日は仕事は終わったのか?」
アスマが話しかけてきた。
吸い終わったタバコを吸殻入れに捨ててイルカは頷いた。
「はい、今日は、もう・・・。」
きゅっと胸が痛くなる。
「もう、終わりました。」
仕事も終わったし、カカシへの想いも、だ。
「ふーん、そうか。」
探るような目でアスマはイルカを見たが、深く追求してくることはない。
吸っていたタバコをイルカと同じく吸殻入れに捨てると立ち上がった。
「そんじゃあ、まあ。」
親指と人差し指で、わっかと作り、くいっと飲む仕草をする。
「久しぶりに飲みにでもいくか、なあ。」
飲みに誘われた。
もちろん、飲みに行くとは酒のことだ。
「そうですね。」
イルカは、ちょっと笑って承諾した。
一人になりたくなかったし、こんな時は酒を飲むのがよいのかもしれない。
酒に逃げるのは駄目かもしれないが、酒でも飲まないとやってられない気分だ。
それにアスマと酒を飲むのは、随分と久しぶりだった。
以前は、結構、飲んでいたりしたのだが、いつしか飲む回数が減っていたのだ。
考えるとカカシに誘われるようになってからだった。
カカシさん。
カカシのことを考えると、ずきずきと胸が痛くなってくる。
早く忘れたい。
ぐっと唇を噛み締めるとアスマが普段とは違うイルカの様子に気づいたのか気づかないのか。
イルカの頭を、がしがしと撫でてきた。
大きな手の平で頭を撫で回される。
「まあ、今夜は、ゆっくり酒でも飲もうぜ。」
イルカには、その声が、ひどく温かく聞こえたのだった。
アスマに連れられて、どこかの居酒屋に連れて行かれた。
落ち着いた、こじんまりとして店で雰囲気がよい。
カカシとは来たことのない店だった。
小さな座敷に通されて、アスマと向かい合わせに座る。
適当に、つまみを注文して酒を飲み始めた。
アスマが冷酒をイルカのグラスに注いでくれる。
イルカも返杯した。
グラスを口にすると冷たい酒が喉元を通り過ぎた。
しばらく、何気ない世間話などしてアスマと酒を飲んだ。
沈んでいたいたイルカの気持ちが少しだけ解れた頃、アスマが言った。
「ほんと、イルカと飲むのは久しぶりだなあ。」
「はい。」
「なんつーか、イルカを誘おうとすると必ず、カカシが邪魔をしてきたからよう。」
「・・・え。」
突然、出たカカシの名前のイルカの肩が揺れてしまう。
それをグラスの酒を飲むことで誤魔化した。
「カカシのやつ、イルカの話題には敏感でな。ちょっとでもイルカの名前が出ると過剰に反応するんだぜ。」
そう言ってアスマは豪快に笑った。
「何かとイルカの周りに目を光らせているしなあ。誰にもイルカに、ちょっかい出させないように頑張っているんだよなあ。」
初めて聞くカカシの話にイルカは目を瞬かせた。
そんなことをカカシがしているなんて。
何のために・・・。
「まあ、よっぽど好きなんだろうよ。」
にやり、と笑ってアスマはイルカを見る。
「誰かさんを、よ。」
その誰かは、多分、イルカを指していた。
「そんなこと・・・。」
グラスの冷酒をイルカは、ぐっと飲み干した。
手酌で継ぎ足すと、それも一気に飲む。
酒の所為なのか、それとも別の何かなのか心臓が、どきどきと音を立てている。
「う、嘘です。」
「なんでだ?」
イルカの言い分にアスマは、ぴくっと片眉を上げた。
「だって・・・。」
では今日見た、カカシと抱き合っていた人物は何なのか。
「カカシさんには好きな人いるんです。」
「そりゃあ、一目瞭然だろ。」
何を言っているのか、とアスマがイルカを、じっと見た。
「俺・・・。」
苦しかったがイルカは言ってみた、今日、見たことを。
「今日、カカシさんに呼び出されて行ってみたら・・・。」
言葉が上手く続かず、喉もからからになり、イルカは酒を飲んだ。
ごくごくと牛乳でも飲むかのように次々に飲み干していく。
「カカシさん、抱き合っていたんです。・・・・・・誰かと。」
イルカの知らない誰かと、だ。
「艶やかな美しい黒い髪の人で、後ろ姿しか見ませんでしたけど立ち姿も綺麗で。」
思い出すと胸が潰れそうになる。
悲しくなってきた。
「その人のこと抱きしめて、カカシさん・・・。」
言葉に詰まる。
でも言った。
「すごく幸せそうな顔をしていました。」
しーんと場が静まり返った。
アスマも何と言っていいのか迷っているらしい。
訝しげに眉を潜めている。
口の中で「わっかんねえなあ。」と呟いている。
「どう見てもカカシは好きになったら一筋タイプだし。他に気が移ろうなんてことないと思うんだがなあ。」
「でも、俺、見たんです。」
小さな声でイルカが主張するとアスマは優しくイルカに言った。
「まあ、誤解かもしれねえしなあ。」
空いたイルカのグラスに酒を注ぐ。
「こういう時は、とりあえず飲め。な?」
自分のグラスにも酒を注ぎイルカのグラスに、かちんとぶつける。
それからグラスの酒を飲み干していく。
イルカもアスマに倣い、酒を飲んだのだった。
「よう、遅かったな。」
突然、現れたカカシを人の悪い笑みを浮かべてアスマは出迎えた。
カカシが現れることを予想していたような口振りだった。
珍しくカカシは肩で息をしている。
はあはあ、とする息を整えながら、視線は真っ直ぐにある人に向かっていた。
健やかな寝息を立てながら、その人は畳の上で眠っている。
酒の酔いも手伝って、どちらかというと精神的な疲労で、その人は眠ってしまっていたのだ。
「イルカ先生。」
カカシは大きな息を吐く。
「よかった〜、やっと見つかった。」
ひどく安堵しているようだった。
「もっと早くに来るかと思っていたぜ。」
「まあねえ。」
カカシはイルカが寝苦しくないように額宛を外し、ベストの前を開けて寛がせた。
そしてイルカを愛しげに見る。
それからアスマに情けない顔をして情けない告白をした。
「実はさっき、俺が呼びかけてもイルカ先生、何も答えてくれなくて行っちゃって、俺・・・。」
カカシが誰かと抱き合う姿を見て、何も言わずに去っていくイルカに急いで呼びかけたことを言っているらしい。
はあっとカカシは深々と溜息を吐いた。
「ショックで立ったまま、気絶していたらしいんだよねえ。」
その告白にアスマは、もちろん、大笑いしたのだった。
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