あなたへの言葉5
静まり返った受付け所。
注目されるカカシとイルカ。
この状況を打破するには?と冷や汗を掻きながらイルカは素早く考える。
それは、この場を退散するに限る!ということに到達した。
素早く考えること五秒、そして受付けの隣の席の同僚に「ちょっと休憩してくるから。」と言うのに五秒費やすと、カカシの手を引いたイルカは、あっという間に受付け所を出て行った。
合計十秒で受付け所を後にしたイルカは人目を避けて受付け所のある棟から外に出て、少し離れた場所にある裏庭となっている林の中へカカシを連れて行った。
誰もいないのを確認すると、イルカはどきどきする胸を押さえて、引いていたカカシの手を離した。
振り向いてカカシの顔を見るのが怖いような気がする。
ファーストキスのことは覚えているけど、それが、この人だったなんて。
この、畑カカシだったなんて!
イルカは、意を決して恐る恐る振り向いた。
カカシはイルカの視線を受けて、にこりと笑う。
機嫌は悪くないようだ。
イルカは少し、ほっとして息を吐き出した。
そして、勇気を出して話しかけてみる。
「あの、畑上忍。」
「カカシ先生でいいよ。子供たちにも、そう呼ばれているから。」
カカシは気さくに言ってきた。
子供たちとは現在、担当している七班の子供たちのことだろう。
イルカの教え子でもある。
「そうですか。それでは、カカシ先生と呼ばせていただきます。」
「うん、じゃあ、俺もイルカ先生でいいかな?子供たちと同じ呼び方で。」
「あ、はい。構いません。」
話すうちに落ち着いてきて、だんだんといつものイルカのペースが戻ってきた。
緊張も解けてくる。
今のうちに言ってしまおう、とイルカは切り出した。
「あの、カカシ先生。」
「はい、なんでしょう?」
カカシは、にこにことしている。
「先程の、あの・・・。受付け所での発言のことなんですけど。」
是非とも訂正させてほしかった。
有名人のカカシの相手とされて、注目されるのは忍びない。
そんなことに慣れてない自分としては辛いものがあった。
「うん。ああ、俺がイルカ先生のファーストキスの相手ってやつね。」
「はい、それでですね。」
何といえば、角が立たないのかとイルカは考えながら慎重に言う。
「その、発言なんですけど。」
「そういや、二番目のキスの相手も俺だって言えばよかった?」
「違います!」
イルカは、熱り立って思い切り否定した。
「そんなこと言わないでほしいんです。寧ろ、黙っていてほしかったです。」
「なんで?」
イルカの言い分を聞いたカカシの雰囲気が、静かに剣呑なものに変化する。
眉が不満そうに釣り上がっていた。
「な、なんでって、それは・・・・・・。」
カカシの雰囲気に呑まれながらもイルカは精一杯答えた。
そんなイルカに、何故かカカシは一歩ずつ詰め寄ってくるのでイルカは一歩ずつ後ずさりするしかない。
「それは、だってですね・・・。」
「それは?」
「お、俺だって、もう子供じゃないんです。」
「へえええ。」
「ファーストキスや何だに拘っていたのは、子供だったからで・・・。」
「ふうーん。」
カカシに押されるようにして、到頭イルカは背は林の中の木の幹にぶつかってしまった。
もうカカシから退くことはできない。
正面にカカシを向かえてイルカは焦った。
カカシが不機嫌になった理由も思い当たらない。
「大人になった今は、あれが医療行為だと分かりました。」
焦りながら一生懸命に言ってしまう。
「だ、だから、ファーストキスとか何とか言っていて騒いでいた自分は子供だったんだなあって。」
じっと自分を見つめてくるカカシの視線に耐えられなくて、カカシの方を見ないようにしてイルカは言った。
「忘れてください。あれは、なかったことにしていただきたいのです。」
言い切った、とイルカは胸を撫で下ろしたが、カカシからの反応がない。
余りにも長いこと反応がないのでイルカは心配になってきた。
どうしよう?
怒ったのかな、と上目遣いでカカシを見上げるとカカシは何故か、口を覆う布を外してイルカを見ていた。
秀麗な顔が近くにある。
イルカは再び、どきどきとしてきた。
解毒剤を飲ませた時にも布を取って、あの唇にキスしたっけ・・・。
思い出すと顔が火照ってくる。
落ち着け自分、と何回も言い聞かせた。
「ま、いいでしょう。」
カカシはイルカの様子を見て、顔の布を戻して体を離した。
「そんなに言うなら、一旦は取り消しましょうか。」
「ほ、本当ですか?」
「まあ、今はね。」
カカシの言い方に、どこか引っかかりは覚えたが気の変わらないうちにイルカは約束を取り付けた。
「では、さっきのことは俺から誤解だったと皆に伝えておきますので。」
よかった、と安心したイルカの顔は自然と、にこにことしてくる。
では失礼します、と用事の済んだイルカは受付け所に戻ろうとした。
「ちょっと待ってよ。」
そのイルカの手首をカカシが掴んだ。
「はい。」
まだ、何か?とイルカが訝しげするとカカシが、にやりとする。
「もう子供じゃないんでしょ。それなら、大人の付き合いをしましょうよ。」
大人の付き合いってなんだろう?
「今夜、飲みに行きませんか?」
そう誘われた。
あなたへの言葉 4
あなたへの言葉 6
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