あなたへの言葉4
それから、何年かカカシはイルカに会うことはなかった。
里でも任務先でも黒髪の後ろ姿を見かけるとイルカなのかと柄にもなく確認してみたりもした。
また、例の近道も以前に増して頻繁に通るようにした。
もしかしてイルカに会えるかと思ったのだ。
しかしカカシの願いも空しく、イルカに会える兆しは見つからなかった。
三回だけしか会ったことのない人間に心惹かれるなど、今までのカカシにありえないことだった。
出会いが、それだけ強烈だったってことかな。
カカシは一人になるとイルカのことを思い出すことが多くなった。
ファーストキスもセカンドキスとやらも俺が奪っちゃたしねえ。
それに、とカカシは胸がもやもやとする。
三回目のキスはイルカは誰とするのだろう。
もう三回目のキスはしてしまったのだろうか。
そんなことを考えると何故か、むしゃくしゃと苛立ってくる。
三回目のキスも俺とすればいいのに。
イルカの意思にお構いなく、理不尽なことも考えてしまう。
任務の休憩時間、空を見ながらカカシは草の上に寝転がった。
「あーあ、会いたいな。」
今、どうしているのかな。
イルカという名前だけでは手がかりがなさすぎた。
名字も聞いておけばよかった。
黒い目の、あの子が元気なのか知りたかった。
それに、その頃のカカシには煩わしいと感じることがあった。
お年頃なので、しょうがないのだが、カカシは人目を引く容貌であったので女性からの告白を度々受けた。
以前のカカシなら、のらりくらりと交わしていただがイルカと会ってからのカカシは、ちょっと違っていた。
告白を受けると割りと、はっきりと断っていたのだ。
「あー、俺ねえ、多分、好きな人がいるかもしれないと思うんだよねえ。」
そんなことを言ったりしていた。
多分て何よ、と告白された女性に詰め寄られると「いやー、ファーストキスを奪った相手がいてね。」と言ってしまう。
ファーストキスを奪った相手というのは、無論イルカのことだった。
「その時、泣かれちゃってねえ。相手はキスが初めてだって言ってたし、責任取らないといけないかなって。」
イルカは泣いてもいないのに、ご丁寧に余計なことも言ったりしていた。
キスごときで、と思われて疑われたりしていたがカカシが何回も言うものだから周りは、それを信じ始めて自然と噂も立った。
所謂、畑カカシには意中の恋人がいる、という噂だ。
そして、その恋人はカカシがファーストキスを奪ってしまった相手で、とても大切に思っている。
噂が噂を呼び、カカシはその恋人と結婚するとか、生涯添い遂げることを誓っているとか大げさな噂まで立った。
だが肝心の、その恋人が誰なのかは皆、分からずにいた。
真相は闇の中のまま、噂だけ一人歩きしているような雰囲気であったのだ。
カカシは自分が言ったことが、そこまで大きな噂になっているとは思いもせず、のほほんと、ただイルカに会いたいなあ、とそんなことを思っていただけだったのに。
若き日の任務漬けの日々が終り、カカシは木の葉の里に戻ってきた。
里に常駐して個人的な任務を受けつつ、若手の忍の育成を命じられたのだ。
下忍の指導をする上忍師だ。
子供を指導した経験がなかったが、興味がわき面白そうだとカカシは思い引き受けた。
そして子供のアカデミーの元担任だという人間に会った。
受付け所で受け付け係もしているというので、そこで再会したのだ。
「初めまして。」
元担任という男は丁寧にカカシに挨拶をしてきた。
「海野イルカと申します。」
成長して、顔つきも体つきも成人男性として一人前になっていたがカカシには一目で分かった。
「イルカ!」
夢にまで見て、会いたかった相手だった。
「イルカでしょう?」
思わず、勢い込んで手を握るとイルカに一歩、体を後ろに引かれる。
「はい。そうですが・・・。」
イルカは訝しげにカカシを見た。
「ほら、覚えてない。俺だよ。」
そこは受付け所でたくさんの人間が出入りし、また公衆面前でもあった。
多くの人間が有名人のカカシに注目している。
イルカは、その視線が自分にまで及んでいるのを感じて無性に逃げ出したくなった。
好奇の目が二人を見ている。
この人は何を言うつもりなんだろうか。
それより、前に会ったことがあったけ?
イルカは記憶を探るが思い出せない。
だがカカシは目を、きらきらとさせて興奮気味だ。
なんだか、やばい。
イルカの、その予感は見事に的中した。
「ほら、俺、前に会った時は名前を言っていなかったけど。」
「はい?」
イルカは握られた手を取り返そうとして、力いっぱい引っ張ってみたが無駄だった。
ここにいてはいけないと本能で悟っていた。
「俺ね、名前は。」
カカシはイルカに一歩近づき、まるで告白するように顔を寄せてくる。
「畑カカシ。」
それは分かる、知っているとイルカは、こくこくと急いで頷いた。
「イルカのファーストキスの相手だよ。」
極自然な感じの、無邪気なカカシの発言に受付け所は、しんと静まり返った。
「そんでもって、イルカの二度目のキスの相手でもあるよね。」
「・・・・・・そ、そうでしたっけ?」
イルカにできることは穏便かつ速やかに、しらばっくれることだけだった。
あなたへの言葉 3
あなたへの言葉 5
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