あなたへの言葉2
「あのねえ、キスの時は目を閉じるものでしょう?」
少年の忍は口移しで解毒剤を飲ませている時、ずっと目を開けていた。
震える瞼を無理矢理、こじ開けてカカシを見ていたのだ。
カカシも少し居心地が悪い。
「・・・キスじゃないもん。」
震える声で反論を返された。
確かに、解毒剤を飲ますということは医療の一環かもしれない。
しかしカカシは、その言葉を聞いて、むっとしてしまった。
否定されると、なんだか悔しい。
「キスでしょ。唇と唇がくっ付いたら、キス以外のなんなのよ?」
少年の忍は再び、反論しようとしたのか口を開いたのだがカカシの顔を、じっと見つめてから力尽きたように口を閉じた。
「ああ、もう。」
カカシも弱っている相手に止めを刺したような気分になって、さすがに悪いと思った。
「ほら、泣かないの。キスなんて、これからの人生の中で何回もできるでしょーが。」
大人が子供にするように頭を撫でて慰めてやる。
少年の忍は潤んだ目をしていたが泣いてはいなかった。
潤んだ黒い瞳で果敢に睨みつけてくる。
「・・・泣いてないもん。」
「はいはい。」
解毒剤を飲んで代謝が行なわれ始めたのか、体温が上がってきた少年の体をカカシは抱き上げた。
背に負うのではなく、子供を抱き上げるような形を取る。
自然と、それは少年の忍の頭がカカシの左胸に当たり心臓の音が聞こえるような体制になった。
カカシの心音を聞いて安心したのか、少年の目は徐々に閉じられていく。
ついには眠ってしまった。
呼吸も落ち着いてきているので、この分なら死ぬようなことはないだろう。
「なんなんだろうね。」
カカシは誰ともなく呟いた。
自分の行動が、よく分からない。
たった二回会っただけの、名も知らぬ少年の忍を、こんなに気にかけるなんて自分らしくない。
どうしたんだろう、と不思議に思わずにはいられなかったが深くは考えなかった。
理由とか原因なんて、後から自ずと知れるものである。
そのうち、分かるだろう。
カカシは気楽に考えて里へ急いだ。
解毒剤を飲ませたけれど、抱きかかえている少年の忍の様態が心配だったからである。
里に着き、少年の忍を病院へ連れて行き医師の診察を受けた。
処置が早かったため、やはり大事には至らなかったらしい。
カカシは、ほっと一安心して肩の力を抜く。
少年の忍が目が覚めるまで付き添っていたいと思ったが、そうはいかなかった。
次の任務があったのである。
「残念。よろしく言っておいてね。」
医師や看護師にそう言い残し、カカシは病院から任務へと向かった。
任務に向かいながら「あ。」と気がつく。
「名前、聞けばよかった。」
少し後悔した。
そのまた、一年後。
カカシは里への道を、ふらふらと歩いていた。
例の近道を通っている。
「やばい。」
目の前がちかちかと光り、くらりと眩暈がして、その場に跪いてしまった。
立ち上がることができない。
ちっと舌打ちが出る。
「失敗したなあ。」
息を吐くのも苦しい。
ついには胸を押さえて倒れこんでしまった。
カカシを、こんな状態にしたには毒であった。
戦闘で敵は殲滅したのだが、毒が塗られている武器で傷付いたのに気づかず、ここまで来てしまった。
しかも、何の因果か去年、この場所で少年の忍がやられた毒で我が身が侵されているのである。
そして、運が悪いことに解毒剤を持ち合わせていなかった。
自分がピンチの時に持ってないなんてと嘆いても、もう遅い。
こんな人けもない場所で倒れていても助けはこないだろう。
なんたって滅多に人が通らないからね、とカカシはぼんやりと思った。
ここで死んでしまうのかなあ、と薄っすらと覚悟もした。
死ぬ前にしたかったことがたくさんあったのになあ、とカカシは瞼を瞬かせる。
脳裏に去年の少年の忍の顔が思い浮かぶ。
毒を飲んで真っ青になっていた少年の忍の顔に、今更だが胸が痛んだ。
この毒がこんなに苦しいのなら、さっさと解毒剤を飲ませてやればよかったな、と反省もしてしまった。
「ここまでか。」
声にならない声でカカシが最後の言葉を吐き出した時、動く影が視界に入ってきた。
もしや誰か人か?と目だけで影を追うと、その影は自分に近づいてくる。
倒れているカカシの顔を屈んで覗きこんできた。
「あ!」
相手は驚いたようだった。
「・・・あ。」
カカシも驚いた。
偶然か、運命の徒なのか、近づいてきたのは、去年、一昨年、命を助けてやった少年の忍だったのだ。
「動いているとこ、初めて見た。」
唇だけでカカシは呟く。
少年の忍はカカシを確認すると、一瞬、ぎょっとして固まったのだが静かにカカシの頬に触れてきた。
「大丈夫?」
少年の手が頬から首の動脈の移動して脈拍を計る。
「弱ってるの?」
くん、とカカシの体に鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
「毒?」
首を傾げて考えている。
カカシには、その様子が毒の副作用なのか、まどろむ意識の中で可愛く見えた。
少年の忍は、ぽんと手を打って、閃いたという感じで顔を輝かす。
「この毒は去年、俺がやられた毒だね。」
微かにカカシは頷いた。
「俺ね。」
少年の忍は、がさごそと懐を探ると何かを取り出す。
「ほら、解毒剤。去年、やられてから、この毒の解毒剤だけは持ち歩くようにしたんだ。」
自慢げに話しているが、カカシは苦しい息の下で切に思った。
解毒薬があるなら、一刻も早く飲ませてほしい。
なのに少年の忍は倒れているカカシを前にして、もじもじとしてから恥ずかしそうに言った。
「あの、お礼が遅くなったけど、去年も一昨年のその・・・。」
少し口篭る。
「助けてくれてありがとうございました。」
頭を下げてから、照れたように視線を泳がせて続ける。
「病院の先生にもう少し遅かったら死んでいたぞって言われて、それで。」
少年の話はまだまだ、続きそうだったがカカシは最後の力を振り絞って叫ぶように言った。
「解毒剤、早く飲ませて!俺、死んじゃうから!」
カカシの言葉に少年の忍が、ぴたりと止まる。
「飲ませ、る?」
「そう、早く!口移しでいいから!」
「く、口移し・・・。」
絶句した少年の忍はカカシと解毒剤の間を、視線を何回か往復させてから観念したように解毒剤を口に含んだ。
あなたへの言葉 1
あなたへの言葉 3
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